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「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」

作者  園島義船



□ 第五章 「裏社会抗争」 編 第三幕 『獣と獣』


306話 ー 313話




306話 「『オレのサナちゃんはやっぱり天才だからな!!』で済ます兄馬鹿」


「サナ、今行くぞ!!」


 アンシュラオンは勝利の余韻に浸ることもなく、すぐにサナのもとに向かう。

 全力で大地を蹴り、脇目も振らずに走り出す。

 自分の戦気で作ったモグマウスが目印になるので、いちいち場所を探す必要はない。それもまた探知型闘人の利点である。


 バンバンバンッ シュッドドドドドドッ


 まるで疾風のごとく走り抜け、サナがいるであろう岩場に五秒もたたずにたどり着く。

 もはや走るというより戦気を爆発させて砲弾のように突き進む。風龍馬の『音速突撃』すら超えている。

 全力を出せばこれだけやれるのだから、いつぞや荒野でヤドイガニに襲われていたハンターを助けることなど容易であったことがうかがえる。

 ただし、この男が全力を出すのは保身のためか、自分のものを守るときだけである。



(このあたりのはずだが…サナはどこだ?)


 岩場を移動しながらモグマウスたちを探す。

 隊長がやられてしまったのが痛い。彼が司令塔ですべての情報を蓄積していたので、だいたいの場所しかわからない。


 アンシュラオンは波動円も使い、あらゆる情報が流れ込んでくる中で―――サナを発見。


 その場所は、およそ五百メートル先の岩場。そこに黒き少女はいる。

 明らかに他とは違う輝きを放つ波動を感じる。あれは自分のものだ。特別なものだ。誰にも渡さないものだ。


 脚に力を込めて、跳ぶ。


 その跳躍の力に耐えきれず、岩と空気の壁が同時に破壊される。

 音すら消えた空を駆け抜け、自分がもっとも大切にしている少女のもとに急ぐ。


「いた!! サナだ!!」


 そして、空中から岩場の下のほうにいるサナを視界に捉える。

 その周囲にはモグマウスたちが集まっており、彼女をガードしている。

 さらに五十匹程度が集まって自らの身体をベッドに見立て、サナを優しく寝かしているというサービス付きだ。

 モグマウス級の闘人になると彼ら自身の意思で戦気の制御ができるので、傷つかないように表面を柔らかくして、ふかふかのベッドを再現している。

 これもアンシュラオンがサナを助けるために織り込んだ工夫の一つであるが、もともとは姉のベッド用に開発したものでもあるので、人生どこで何が役立つかわからないものだ。

 ちなみにパミエルキの場合は戦気の調整などせず、そのまま上で寝る。彼女にとってはアンシュラオンの戦気など電気マッサージ程度でしかない。


 アンシュラオンはドンッと空中で発気。

 ブレーキをかけ、サナのもとに着地。


「サナ、無事か!!」

「………」

「サナ、サナ! しっかりしろ!」

「………」

「ひーーーー! サナちゃん!! 大丈夫なの!?!?? あわわわわっ!! ど、どうしよう!! さ、小百合さんを呼ばないと!!」


 サナの返事がないので、表情が一気に青ざめる。この場にいない小百合に頼ろうするほどの狼狽ぶりだ。

 あれだけの戦闘でもまったく動じなかった男が、少女一人の容態でここまで混乱するなど、アーブスラットが見たらどう思うだろう。

 老執事の作戦は間違ってはいなかった。やはりサナはアンシュラオンの急所である。

 成功しなかったのは単に力が足りなかったにすぎない。


「さ、サナちゃん…?」


 アンシュラオンがゆっくりと近寄り、じっとサナを見る。

 まるで時間が止まったかのように、その場で動くものはいない。


 だからこそ―――胸が動いたときには、はっきりとわかった。


「…すー、すー」


 近くにいくとサナの寝息が聴こえてきた。特に引っかかりもかすれもない綺麗な寝息だ。

 顔は少し土で汚れているが、目立った傷は一つもなかった。


「…ああ、よかったぁあぁあ…呼吸してるよっぉおお…はぁぁ、ふうううう」


 どすんっ

 倒れるように地面に座り込む。

 ようやく娘が戻ってきた安心感に、パパはもうぐったりである。



「まずは健康チェックだ!! 何かあったら困る!」


 しばし時間を置いて冷静になったアンシュラオンが、サナを最上級の命気水槽で包み込む。

 どぷんっ

 サナが柔らかいゼリー状の命気に沈み、体内の隅々までチェックが行われる。


(頭は…問題ない。脳は正常。口も喉も正常。心臓も肺も問題ない。胃も小腸も…それ以外も問題ない。神経は少し過敏になっているようだが…肉体は文句なしに健康だ)


 健康チェックが終わり、何一つ問題がないことが判明。

 今眠っているのは精神が疲れきっているからだろう。少し気になったので精神オーラも診察してみる。

 人間には大きく分けて、肉体、精神、霊の三つのオーラがある。

 よく性格診断とかで使われるのが精神オーラだが、ここまで見られる者はあまりいないので、大半が肉体オーラを精神オーラと見間違えていることになる。

 だが、武人のように精神エネルギーである戦気を使う者たちならば、比較的容易に精神オーラを見ることができる。(防御されていなければ、だが)


(サナの精神オーラは非常に見づらい。そもそも『意思が無い』って話だからな。これはしょうがないが……ん? 少しばかり赤みがあるような気がするな。これは何だ? …情熱や…怒りのオーラか? なんでサナにこんなものが?)


 サナは意思を強く発しないので、普段観察していても薄い色合いしか見えない。

 しかし、今回はなぜか少しだけ変化が見られる。


 より感情的で情熱的な―――【赤】がかすかに見えた。


(これは…どう解釈すればいいんだ? 何かしらの精神攻撃を受けたか、あるいはサナに起こった自発的変化か? …わからん。しかし、モグマウスが大量に減っているのは事実だ。何かがあったのかもしれん。それにこの破壊痕は何だ?)


 ここに来るまではよく見えなかったが、空から見ると周囲が完全に破壊されていることがわかる。

 特にサナの半径五十メートルは真っ黒に焼け焦げ、形を残している岩もガラス化している。よほど激しい熱量が発生したのだろう。


(似ているが炎じゃない。これは【雷】の痕跡だな。雷気…? いや、違うな。上位属性の『帯気《たいき》』でもないし、最上位属性の『界気《かいき》』でもない。ううむ、わからん。こんな痕跡は見たことがないけど…雷であることには違いないみたいだ。どういうことだ? 本当に何が起こった?)


 数多くの撃滅級魔獣と戦ってきたアンシュラオンでも、こんな痕跡は見たことがない。極めて珍しいものだった。


 そして、少し離れた場所にひときわ激しい痕跡を見つける。


 その場所は重力崩壊でも起こったように完全に抉り取られている。相当強い力がここで生じた証拠だ。

 威力としては、アンシュラオンの覇王滅忌濠狛掌に匹敵する。ただし規模はこちらのほうが大きく広範囲だ。


(やはり敵と交戦したのか? そうでないとこんなことは起きないが…サナは無傷だ。そんなことがありえるのか? モグマウスはどうして減った? いや、どうして【喰われた】んだ? 誰に喰われた? 敵に喰われたのか? しかし、守護者と呼ばれている風龍馬があの程度なんだから、ジングラスの魔獣がそこまで強いとは思えないな…。かといってこのレベルとなると最低でも殲滅級魔獣、下手をすれば撃滅級クラスだ。そんな魔獣がいたのか? それが自爆した? もう意味がわからないな)


 考えても考えても謎は深まるばかりだ。

 当然サナがこんなことをしたとは夢にも思わない。著しい成長を見せてはいるが、普通に考えれば自分の闘人を喰えるわけがないのだ。

 それにまったく思い至らないのは自然なことである。むしろ、わかったらおかしい。


 ただ、この男には『情報公開』がある。


(念のためだ。サナを確認しておこう)


 アンシュラオンは、眠っているサナに情報公開を使用。


―――――――――――――――――――――――
名前 :サナ・パム

レベル:10/80
HP :270/270
BP :5/110

統率:E   体力:E
知力:E   精神:E
魔力:E   攻撃:E
魅力:A   防御:E
工作:E   命中:E
隠密:E   回避:E

【覚醒値】
戦士:1/4 剣士:1/4 術士:0/4

☆総合:第十階級 下扇《かせん》級 剣士

異名:白き魔人に愛された意思無き闇の少女
種族:人間
属性:闇
異能:トリオブスキュリティ〈深遠なる無限の闇〉、エル・ジュエラー、観察眼、天才、早熟、即死無効、闇に咲く麗しき黒花
―――――――――――――――――――――――


「うおおおおおおおおおお!! 上がってるじゃーーーーんっ!!」


 思わず叫んでしまった。

 ぱっと見た瞬間にステータスが上がっていることがわかり、一気にテンションが上がる。

 が、まずはサナの状況をしっかりと見極めねばならない。

 精神が深く傷つけば植物人間になる可能性だってあるのだ。目を覚ますまでは安心できない。


(…BPがかなり低い。やはりこれは疲労だな。肉体も健康だし、神経にも大きな損傷はない。疲れて倒れているだけだ)


 これはもう間違いない。サナのことになると過保護になるので若干不安にもなるが、今までの経験でいえば確定である。

 では、なぜそうなっているのか、ということが問題だ。


(モグマウス隊長がいないんだから、どうやっても推測しかできないな。サナに直接訊けたらいいんだが…まあ、それはひとまずいい。サナが無事ならばいいんだ。そして、成長してくれればいい! そうだ。それが目的なんだからさ!)


 わざわざ大切なサナを危ない目に遭わせたのは、彼女を強くするためだ。

 だからステータス確認は重要な仕事である。


(前が8だったから、レベルが2上がっているのか。そこまで伸び率が高いわけじゃないけど…確実に上昇はしているな。というか、またレベル限界が上がってるぅううううう! どういうことなの? もしかして人間って、こんなに簡単に上がるのが普通なの? うーん、思えば姉ちゃんも師匠もゼブ兄も、レベル限界が255のマックスなんだよなぁ。比べようがないよな)


 実は火怨山四人組(アンシュラオン含む)は、最初からレベル限界がマックス値の255であった。

 そのためアンシュラオンは、人間は全員がレベル限界が255だと思っていたくらいだ。

 それが下界に降りてみると、驚くべきことに100を超えている者すらいない。今まで見た中ではプライリーラだけである。(アーブスラットは現在レベルも限界も85)

 だから正直に言って、下界の人間がどういう成長をするのかは知らないのだ。

 そのあたりもルアンやサリータなど、自分のスレイブを使って研究中である。


(でも、豚君が死闘修練しても限界値は上がってなかった気がするな。ヤキチたちだって、けっこう激しい戦いをしているのに上がっていないぞ? ううむ…あっ、そうか。サナちゃんが天才だからだ!!!)


 最後にたどり着く答え = やっぱりサナは天才だからな!!


 完全なる兄馬鹿だ。過保護なこの男は、たったそれだけの言葉ですべてを済ましてしまう。

 普通に考えればおかしいことがわかるのだが、いかんせん火怨山が異常すぎた。

 周囲にいる人間が全員、歴史に名を残すレベルの武人なのだから仕方ない。歴史でいえば、ゼブラエスもいずれは覇王となる男である。

 覇王と覇王と、魔人と魔人の四人が集まった段階で、もはや人間が触れてよい領域を超えてしまっている。仕方ないことだ。


 さらにステータスを詳しく確認。何度もチェックする。


(うおおおお! 何度見てもステータスが『E』になってるぅううううう!! しかも全部が上がってるぅううううううう!! 統率まで『E』じゃん! オレを超えたな、サナ!! こんなに簡単に兄を超えるなんて、やっぱり天才やで!!)


 全部が平均的に上昇したため、魅力がアンシュラオンと同じ『A』となり、さらに統率に至ってはアンシュラオンの『F』を超えている。

 というより、この男の統率の値が低すぎるのだ。そこらの一般人あるいは無能役人と同じである。

 もっと言えば、ヤク中でラリっている駄目人間とも同じである。


(うーん、サナは全体的に上がるバランスタイプなのかな? プライリーラと似ている感じか? おっと、階級が『下扇級剣士』になってるぞ! ということは、サナはやっぱり剣士タイプってことかな?)


 ここに表示される「戦士」とか「剣士」は、現状で一番活性化している因子を示している。

 基本的に生涯変わることはないので、戦士と表示されれば一生戦士タイプなのだが、パミエルキがいつの間にか「魔人」になっていたことからも断定はできない。


(覚醒値も戦士と剣士が1になってる!! 覚醒限界も増えてるじゃないか! こりゃすごいぞ! 一気に大成長だ! やっぱりアーブスラット級の武人をあてがうとでかいな! 経験値が半端ない! これは素晴らしいぞ!)


 アンシュラオンの目論見通り、サナは確実に成長している。

 むしろ生まれ持って武人でない人間としては、年齢を考えれば恐るべき成長である。

 それもこれもサナの特異な性質と、魔人であるアンシュラオンとの出会いによってもたらされたことだ。


(…ん? 『エル・ジュエラー』ってなんだ? スキルが増えているぞ。これは…どういう意味だ? それと『闇に咲く麗しき黒花』? 前に表示されているエル・ジュエラーってのは、たぶん良いスキルだよな。じゃあ、後ろのやつはマイナススキルなのかな? うーん、わからん。いいかげん内容までわかるようになりたいよな。『情報公開』もそのうち進化しないのかな)


 サナには『エル・ジュエラー』と『闇に咲く麗しき黒花』というスキルが追加されていた。

 後者のほうは、狂人や悪人、駄目人間などといった人間社会におけるブラックな連中に愛されるスキルである。

 戦罪者たちと長く接し、敬愛されたからこそ生まれたスキルだ。

 自分の指揮下、あるいは自分を守る人間に対して補正効果が生まれる。

 戦罪者たちが一気に覚醒したのも、サナのこのスキルがあったからであろうか。

 光ではなく闇に愛されるというのが、いかにもアンシュラオンの妹であることを示している。



「ステータス確認はこれくらいでいいか。またあとでじっくり検証すればいい。それよりは無事でよかったよ。自分の力は信じているが、サナが見えないと不安になるよな…。かといって自分でいろいろとやれるようにならないと成長しないし…このあたりが難しいな。まずは安全な場所まで運んで―――」


 バチンッ


「いてっ! なんだ!?」


 サナを抱き上げた瞬間、静電気のような痛みが走った。

 まさに我々が日常生活で感じる「バチッ」というアレである。アンシュラオンもちょっとだけ痛かった。


(なんだこれ? 静電気か? そういえば昔、地球では静電気を発生させる小さな玩具が流行ったな。あれは意外と痛いんだよな。よく友達とやりあって遊んだものだが…乾燥でもしてたのかな?)


 と、当人は呑気に語っているが、実際はさきほどリザラヴァンを消滅させたエネルギーがわずかに残っていたのだ。

 モグマウスは戦気だったので感じなかったようだが、肉体の接触を通じてアンシュラオンにも流れたらしい。

 リザラヴァンを完全消失させた、あのエネルギーである。常人ならば触れた瞬間に爆散だ。

 それを単なる静電気と勘違いするとは、さすがアンシュラオンである。



 こうして大切なサナの回収が終わる。


 次は念願の【戦利品】を頂戴するお時間である。




307話 「プライリーラは甘いミルク味 前編」


 アンシュラオンは、サナを大切に抱きかかえながら元の場所に戻る。

 腕の中に感じる彼女の体温と心臓の鼓動に、ほっとする


「すりすり。ごめんよ、サナ。今回は少し激しすぎたよな。次はちゃんと調整して強くしてやるからな。…っと、あれは裏スレイブか?」


 サナを撫で、歩いていると―――死亡した戦罪者を発見。

 五人ともアーブスラットの死痕拳によって死亡している。


「ふむ、裏スレイブはしっかりと最期まで命令を聞くんだな。こいつらはギアスがかかっているから当然だが…やっぱりギアスはいいな。早くオレも自分で使いこなせるようになりたいもんだ。…ん? あっちはマタゾーか? あいつも死んだのかな?」


 遠くで倒れているマタゾーがいたので近寄ってみる。

 全身が焼け焦げており、目も腕も欠損している。ここで壮絶な戦いがあった証拠である。


「こいつもサナを守ったのか。それとも自分の欲求に従って戦ったのか? どちらにせよ時間を稼ぐことはできた。人間失格のお前たちにしたら上出来だ」


 正直、裏スレイブにサナを任せるのは怖い面がある。

 もともと駄目人間どもであるし、死ぬまでこき使うのは初めてだから、どこまでやれるのかわからない。モヒカン任せではギアスの精度も心配だ。

 ただ、今回のことで裏スレイブはなかなか律儀であることが判明。

 これならば問題なく計画を進められるだろう。


「魔獣や虫に死骸を食われるのも嫌だろう。せめてオレが焼き尽くしてやるよ」


 ボシュッ

 最初から彼らなどいなかったといわんばかりに、五人の戦罪者が一瞬で掻き消える。

 何も残らない。使っていた剣すら同時に消滅する。

 これが裏スレイブの人生。

 誰にも覚えられず、誰からも感謝されず、使い終わったら消えていくだけの存在だ。

 しかし彼らはそれで満足だっただろう。愛らしいサナのために死ねたのだから最後は満足したに違いない。


「人生なんて所詮は自己満足さ。お前たちが満足したなら、それでいい。他人が作った成功論に騙されなかったお前たちは勝ち組だよ。それだけはオレが保証してやる。さて、あとはマタゾーを…ん? こいつ、まだ生きているのか? …これは命気か?」


 マタゾーを弔おうとした瞬間、彼の体内から馴染みの感覚を感じる。


 それは―――命気。


 自分の気質なのだから間違えるわけがない。

 どうやらマタゾーは、サナがあげた命気足のエネルギーによって、かろうじて生きながらえたようだ。

 見た目はかなりボロボロだが、心臓と脳は生きている。


「どうりで命気足の消耗が激しいと思ったよ。マタゾーにも分け与えていたんだな。危ないことをしたもんだ。命気足はお前のために作ったもんなんだぞ。こんなやつらより自分を大切にしないと駄目だよ」

「…すー、すー」

「…こういうときのサナは頑固だからな。言って聞くような子じゃないか。どうしてこんなやつらに情をかけるんだろうか。オレには理解できないが、お前がそうしたいのならば仕方ない。サナがやりたいことができるように、命気足をもっとバージョンアップすればいいんだ。それだけのことさ。…しかしほんと、虫にも優しい良い子だなぁ」


 アンシュラオンからすれば、裏スレイブは虫程度の存在だ。

 いくらでも勝手に湧いてくるし、いくらでも用意できる。いくら使い潰しても問題ない。

 かといって意味もなく虫を潰す趣味はない。ゴキブリを見かけたら不快なので殺すが、懐いたコオロギの群れを無理やり踏み潰す必要もないだろう。

 サナに虫を労わる心があるのは良いことだ。兄として保護者として喜ばしいものである。

 むしろ姉のように積極的に潰すようになってほしくはない。

 ただ、虫のために命を失うことになっては本末転倒なので、そのあたりはおいおい理解させればいいだろう。

 まだ子供だ。これから多くを学べばいい。


「欠損部分がどうなるかわからないが、サナを助けた褒美として助けてやるか。どのみち、もうすぐお前たちの役割は終わる。生きている限り、戦って死ぬといい」


 マタゾーも命気水槽に入れて回復を施してやる。

 目の部分の欠損がかなり激しいので、もしかしたら片目は失われたままになるかもしれないが、再び戦えるくらいには治せるだろう。

 もう少し肉片が残っていれば完治も可能だったが、こればかりは仕方ない。



 マタゾーはそのまま命気水槽で放置して、今回の目玉商品である【戦利品】を拾うことにする。


 戦利品とは―――プライリーラのことだ。


 気を失って寝かされている彼女のところまで行き、ここでも命気水槽を作る。


「うーん、ただ作っても仕方ないな。ちょっと豪華にするか」


 パキパキパキッ

 命気で土台を作って結晶化。そこに同じく命気結晶で作った柱や天井などを加えると、即席の小型神殿のようなものが生まれる。

 その祭壇部分に広めの風呂を作って、温めた命気水で満たす。

 夕焼けに命気水晶が反射して七色に輝き、なんとも言えぬ美しい光景が出来上がる。

 突如荒野に生まれた謎の祭壇。実に不可思議な存在だ。


 そして、それは本当に―――【風呂】のためだけに作ったものだ。


 仮にこれが数百年後発見され、学者の間で論争になったとしても、よもや「風呂(卑猥目的)のために作られた」とは誰も思わないだろう。

 無駄なところに手間隙をかける。これも職人根性である。



「うひゃひゃひゃひゃっ!! 楽しいお風呂タイムだぞー。サナも一緒に入ろうねー」


 それはもう幸せの絶頂といった表情でニマニマ笑いながら、まだ寝ているサナの服を脱がす。


「ああ、サナちゃんはやっぱり可愛いなぁ。この微妙に浅黒い肌がいいんだ。すりすり、すりすり。はー、ええのー。すーーーはーー、すーーーはーー! くーーー、仕事終わりの最高の一杯だね!!」


 裸サナ吸いは最高の味わいだ。

 少し汗が滲んだ匂いがするが、もともとの濃厚な香りがブレンドされ、さらに深みを感じさせてくれる。身体中がサナで満たされるようだ。

 他人が見ればドン引き以外の何物でもないが、当人にとってはこれこそ至福の瞬間である。

 どぽんっ

 そのまま先にサナをお風呂に浸からせる。回復効果もあるので、このまま眠らせておけばいいだろう。


 それから寝ているプライリーラを抱え、意気揚々と運ぶ。


「うひょー、楽しみー!! どんな味がするんだろうなぁ!! 荒野で拾ったんだから、これはオレのもんだよな!! ひゃひゃひゃ!! たっぷり楽しんでやるぜーー!」


 村娘をさらってきた山賊のような発言をしながら、肌がただれているプライリーラを命気風呂に入れる。

 風呂は大きめに作ったので、自分を含めた三人が入ってもまだまだ余裕がある。


 どぷんっ じゅうう


 風呂に入れたプライリーラの肌が、本来の白い輝きを取り戻していく。


「さすがに痛々しい姿じゃ燃えないしね。女性の肌は健康で美しいほうがいい」


 ぬるりぬるりと、プライリーラの肌に粘ついた命気水を塗っていく。

 その手付きは姉に仕込まれた通り、実に洗練されていて慈悲深い。女性への愛情がこもっている。

 この傷を付けたのは自分であるが、生粋の女性好きである。女性は尊い存在なので優しく優しく傷を癒す。


「綺麗になったな。汚れも落ちたし。うむ、改めて見ても極上の獲物だ! 大収穫だよな! それじゃ、ちょっと味見しようかな。はてさて、どんな味かなー?」


 パーティー前のケーキ作りで、たまたまホイップクリームが手に付いたら、思わず舐めたくなるだろう。


 そんな心境で―――ぱくり。


 プライリーラの肌に噛み付く。


「あむあむっ…んん? んーー、ちゅうちゅうっ…はぐはぐっ。ちゅっちゅっちゅっっぢゅーーーー! …うむ、甘い。プライリーラは甘いぞ!!」


 きめ細かい肌を舐めると舌につるつるの感触があり、それから妙な甘さが残る。


「これは何の味だ? 気になる…気になるぞ!! もっと吸わねばなるまい! ちゅっちゅっーーーーずずずずずっ」


 当人が寝ていることにかこつけて、遠慮なく吸う。口の跡が残るくらい吸う。

 彼女の成分が口一杯に広がったので、それを舌で転がしながら味わう。


「むぅう…なんと表現すればいいんだろうな。まったりべったりと舌に残る甘さだ。…これはどこかで味わったことがあるぞ。この匂いもそうだ。くんくん、ぺろぺろ。ふーむ、ハチミツとか水飴とかじゃないな。そっち系じゃない。もっとこう…ミルク系だな。甘いバターのような…そう、たとえばクッキーを食べた時に残る後味のような…まだちょっとよくわからないな」


 べつに無理にプライリーラの味を表現しなくてもいいのだが、はっきりさせないと気が済まない性格でもあるので、じっくりと味わう。



「腕だから駄目なんだ。せっかくだ。乳を吸おう」


 せっかく胸があるのに腕を吸うなんて、おっぱいに失礼だ!!

 というのがアンシュラオンが提唱する礼節である。人としては賛同しづらいが、男であれば否定もしづらい説だ。


「うひゃひゃっ!! いただきまーす!! 乳だ! オレのもんだ!!」


 もにゅり かぷっ!!

 大きな胸を両手で掴み、一気に乳房に、もっとはっきり言えば乳首に吸い付く。

 大きく口をあけて全部を飲み込む。


「ちゅーーちゅっーーー。むっ!! こ、これはっ…!! むうううっ! ちゅっちゅっちゅっーーー! むふむふっ!! ちゅっちゅっ!! むほほっ! ももふふを!! むほいほおおっ!!」


 何かを言っているようだが、乳を吸っているのでよく聴こえない。

 話すときは吸うのをやめてからにしてほしいものだ。話すときは口の中のものを食べ終えてから、と同じである。


 それから数分、無我夢中で吸っていた。やりたい放題である。


「ぷはっ!! これは良い!! 素晴らしい! 深いミルクの味わいがしっかりと出ている! 超濃厚ミルクだ!! なんだこれは! プライリーラは身体中が甘いのか!? ちょっと待て! 落ち着け! サナちゃんはどうだ? ぺろんっ」


 隣で寝ているサナも、ぺろんと舐める。


「…う、美味い。サナはやっぱり美味いな。こっちも甘い。舌にじっとりと残る甘さは格別だ!! うーん、表現しづらいが…サナが饅頭《まんじゅう》や大福の『こし餡《あん》』だとすれば、プライリーラは砂糖菓子かな? 和風と洋風といった感じだろう。おお、我ながら素晴らしいたとえだ! そうだよ! そうだ!」


 言っておくが、女性の肌を舐めた感想である。

 もうこの男の変態化は止められない。なぜならば最初から変態だからだ。

 実姉とイチャラブして暮らしたいと願うような人物である。まともなわけがないのだ。



「乳以外はどうだ? 髪の毛は…はむっ! うむ、こちらもいいぞ。耳も…はむっ!! 首…と見せかけて、もう一度乳をはむっ!! ちゅっーーー! 美味い!」


 なぜ見せかけたのか、誰に対してそうしたのかは謎だが、実に楽しそうである。


「じゃあ、次は…うむ。ここの味も見ておくか。大事なところだからな。念入りに調べねばなるまい」


 プライリーラの腹を撫でながら、さらに下に手が伸びる。その先には【女性の本質】が存在する。

 軽く触ってみると、つるりとした感触が手に残った。


「おや? 毛がないな。つるつるだ。剃っているってわけじゃないのか。単に生えていないってことかな? まあ、なくてもいいしね。というか…姉ちゃんもなかったかな? おや? そういえば…ホロロさんやシャイナたちもなかったような…」


 ふと思えば、女性の下の毛を見ていない気がする。

 自分の下腹部にも陰毛は生えていないので、無いことが当たり前に思ってしまっていたが、地球時代を考えれば違和感が相当ある。

 地球で暮らしていた頃、陰毛をバリカンで整えていたらうっかり手が滑って、片側をごっそり剃り落としてしまった記憶が蘇る。

 あの時の喪失感は半端なかったものだ。何かが足りない感じに戸惑ったものである。

 が、それが当たり前の世界ならば、無いのが自然なのだ。


「これも美化された世界ってことなのかな? よくわからないが、どうでもいいや。エロゲーだって描く人のほうが少ないしね。じゃあ、こっちも味見しようかな」


 プライリーラの股を広げ、その場所を手でいじくったあとに―――


「あーーーんっ」


 口を開ける。

 この男、やる気である。やってしまう気である。さすがだ。

 やはり直接吸ってみなければ本質はわからない。これは相手を知るために重要な行為なのだ。たぶん。きっと。おそらくは。



 そして、アンシュラオンが口をつけ―――ようとした瞬間、ぐいっと頭に何かが乗った。



 たぷんとした柔らかいもの。乳が頭に乗っている。

 乳が勝手に動くように進化したのかと思って見上げるが、そんなわけはない。


「…待ちたまえ。何をしているのかな?」

「あっ、起きたの?」


 そこには、まだ寝ぼけて目が完全に開ききっていないプライリーラがいた。

 どうやら目覚めたようだ。これだけ好き勝手やっているのだから当然だろう。


「…で、何をしているんだい?」

「プライリーラの味見をしようかなって」

「そこの?」

「うん、ここの」

「君は寝ている婦女子の股を舐めて楽しむ趣味があるのかい?」

「うん」


 肯定である。迷いがまったくない。


「だって、美味しいじゃん」

「そ、そうなのか?」

「プライリーラの乳は美味しかったよ」

「寝ている間にそんなことまでしていたのか!! 君って男は、相変わらずケダモノだな!!」

「うん、ありがとう。じゃあ、いただきまーすっ」

「ちょっ! 話を聞きたま―――あふんっ!!」

「ちゅーーーちゅっーーーー」

「ま、待て待て!! うはっ!! ほ、本当に待って…!!」


 寝起きにいきなり吸われる。処女の彼女には刺激が強いだろう。処女じゃなくても刺激は強いのだが。


「なに? せっかく盛り上がってきたところなのに」

「その…なんだ…。こういうものには順序が…」

「そんなものはない!! がぷっ!! ぺろぺろぺろぺろぺろっ!」

「あはんっ!!!」

「ちゅーーーちゅーーーっ!!! うむ、美味いぞ!! これは美味い!! 君は身体全部がミルクで出来ているのか!? メス馬というよりメス牛じゃないか!! どういうことだ! まあ、馬乳もあるが…これはけしからんな!」


 日本ではあまりメジャーではないが、モンゴルなどでは馬の乳を使った馬乳酒というものもある。


「ちゅーーーちゅっーーーー!」

「待て待て待て、あはぁあああ!!」

「ふんふんっ! ぺろぺろぺろぺろっ!!」

「アンシュラ…オン……ま、って…ああああ!」


 その後プライリーラは、サナが目覚めるまでの二時間、ずっと股間を舐められることになるのであった。

 いきなりこれである。先が思いやられる。


 ともかく、プライリーラはミルクの味がするのだ。

 ここ、テストに出るから覚えておくように!

 以上、アンシュラオン先生からのお報せでした。




308話 「プライリーラは甘いミルク味 後編」


「…むくり、ごしごし」

「あっ、サナ!! よかった! 目を覚ましたんだな!!」


 命気風呂に浸かっていたサナが、むくりと起きて目をごしごしさせている。

 その元気な姿にアンシュラオンは大歓喜である。


「サナ、今回は本当にがんばったな。よしよし、よしよし! なでなでなでなで!」

「…こくり」


 まだ眠そうだが、返事もしっかりするので問題はないようだ。

 サナはあの黒い世界に生きている。

 意思が無いということは、あらゆる精神攻撃も通じないということだ。反応するものがないのだから当然である。

 だから基本的には精神が損傷することはない。ただ、神経組織は普通の人間と同じなので、その器官が破壊されると動けなくなるのは常人と変わらない。

 その点で心配したが、とりあえずひと安心である。


「いやー、よかった。ぺろんっ。ふーー、こんなに焦ったのは初めてだよ。ぺろんっ。よしよし、良い子だ。なでなで、ぺろん」

「くっ!! 舐めるか撫でるか…どっちかに…くふっ!」

「オレは欲しいものは両方手に入れる! やりたいことも同時にやる! ぺろぺろぺろぺろぺろっ!」


 サナを撫でながらプライリーラも舐める。

 両方とも至福の瞬間なのだから、同時にやるのが男気であろう。


「ふううっ…ふうううう! あっ!! 待って…あはぁああああ!!」

「ほら、イクときはちゃんと『イクぅううう』って言わないと駄目でしょ?」

「そのような…ことは…はあっ!! うはっ!!」


 ビクビクビクッ

 股間を舐められているプライリーラが、また達した。

 身体を痙攣させてひくつき、アンシュラオンにとって素晴らしいご馳走を提供する。


 ぶしゃー とろんっ


「おっ、【蜜】が出てきたぞ。美味そうだな! ちゅうーーーー!」

「やめろやめろやめろ!! 吸ってはいけないのだ!」

「こんな甘い蜜を吸わないなんて罪だね。オレはアリの気持ちがわかったよ。アリさん、最高ーーー!」


 アリがアブラムシを助けて甘露をもらうが、なるほどなるほど、これは実に素晴らしい報酬である。何度舐めても飽きない。

 身体を舐めてもミルク味だが、この蜜はさらに濃厚なエキスであり、アンシュラオンがゾクゾク震えるほど甘い。


「くううっ! キスもまだなのに…こんなところにキスされるとは…!! な、なんたる…屈辱!」


 当然、吸われているプライリーラからすれば羞恥の極みだ。白い肌を桜色に染めて身悶えるしかない。

 なにせ処女。ファーストキスもまだなのだ。

 と、迂闊にもそんなことを言ってしまった。


 この男の前でそんなことを言ったら―――


「そうなんだ。そっちももらい!! がぶっ!!」

「むぐっ!!」

「ちゅーーちゅうーー。ほら、ベロ出して」

「むううっ、ぷはっ! 待て…駄目…んんんっ…はぁあ! し、舌が…痺れる! 何を仕込んだのだ…」

「何も仕込んでないって。これがオレの唾液の味だよ」

「な、なんだと…これはまるで…んんっ…」


(身体が言うことを聞かない…! 舐められていたときもそうだが…このキスもそうだ。抵抗できなくなる…!)


 プライリーラはサナが目覚めるまでの二時間、ずっと股間を舐められていた。

 その間も抵抗しようとがんばっていたのだが、身体がまったく言うことを聞かずにされるがままであった。

 もちろんアンシュラオンのテクニックが凄まじいこともある。

 最初は一定のリズムで舐めて身体に覚えさせつつ、次第にフェイントを交えてタイミングを変えてくるのだ。

 そうすると「次はこのタイミングで来るから、力を入れて我慢しよう」と思っていても、それが来ないので「あれ? どうして?」と気を緩めた隙に、一番感じる場所をぺろんと舐めてくる。


 それによってプライリーラは、いとも簡単に達してしまった。


 姉に仕込まれた技術は偉大で、耐性のない処女ならばちょろいものである。


(自分でやるのとはまったく違う…! 舐められるのが…こんなに気持ちいいとは! しかし、慣れすぎだぞ…! どれだけ舐めてきたのだ!)


 羞恥と同時に変な嫉妬心も感じるから、乙女心は面白い。

 ただ、プライリーラが感じている快感は、単にアンシュラオンのテクニックだけが要因ではない。

 シャイナやサリータとしたときもそうだが、彼の中の魔人因子が人間を支配しようとする際、快楽物質を出していることも大きな要因だ。


 この世の中で、快感や快楽というものは非常に重要である。


 人間が進化しようと思うのも、そこに達成感という快感が存在するからだ。寄付をして満足するのも、自分が誰かのために役立ったという満足感によって快感を得るからである。

 魔人因子は、肉体的接触によってそういった快楽を提供することで、自然と相手を引き寄せる実に怖ろしい【麻薬】である。

 それによってプライリーラは、次第に抵抗する気力が失われていくのだ。


 ちなみに当然だが、男に対しては効果がない。

 『姉魅了』や『年下殺し(恋愛)』スキルのように、アンシュラオンの魔人因子は完全に覚醒していないため、その多くが女性に対してのみ効果を発揮している。

 パミエルキのようにほぼ完全に覚醒すれば、男女問わずに力を発揮するのだろうが、アンシュラオンからすれば男に接触するなど罰ゲームに等しいので、このままでいたいと熱望するだろう。

 そして、そういう願望が彼の力を女性だけに限定させている、ともいえる。



 一方、アンシュラオンはこんなことを考えていた。


(やっぱり武人の女性は…美味い!! たまらんな! ゾクゾクするぞ! ホロロさんやサリータは従順でよかったが、こちらはまた違う感覚だ。強い獲物ほどオレを満たしてくれるんだな)


 自分がプライリーラに惹かれた(喰いたいと思った)のは、彼女が非常に美味しそうに見えたからだ。

 その予想通り、プライリーラは実に美味い。

 舐めているだけでも甘いミルクの味わいがする。地球時代に食べたミルク味の飴を舐めている気分だ。

 舐めれば舐めるほど力が満ちていくような気分になるのだ。

 そしてそれは錯覚ではなく、事実である。


 これは魔人因子が、武人の女性から因子を吸収しているからだ。


 べつに本当に因子を奪っているわけではない。これによってプライリーラの因子が減るわけではない。

 しかし、こうして魅了物質を相手に送ることで自分の【支配力】が増すので、それが【旨味成分】として感じられるのだ。

 アンシュラオンには、この世界の女性全般がやたら綺麗で美味しそうに見えているが、それ以外の人間同士からすれば普通の存在にしか見えない。



 【捕食者】と―――【被食者】の関係。



 人間の女性を支配する白き魔人にとっては、彼女たちは美味しい存在なのだ。

 快楽を与え、支配する。支配されるほうも快楽に酔いしれ、強い力に守られることで幸福感を得る。

 この甘美な関係には、いくらプライリーラとて簡単に抵抗できない。

 次第に心も身体も幸福感で満たされ、「この者に従いたい」と思いたくなる。まさに麻薬である。




「ねぇ、何回イッた? ぺろぺろは相当気に入ったみたいだったね。けっこうイッたでしょう?」

「それを…私に訊くのかい? と、普通に胸を揉んでいるね」

「だって、胸も好きだし。だいたいわかるけど…15回くらい?」

「今のキスで16回目だよ」

「ふーん、やっぱり強い武人だからかな。まだまだ平気そうだね。うちのスレイブの子たちなんて、すぐにダウンしちゃったよ」

「そうでもないが…普通の者よりは…そうかもしれない…な」


 これもアンシュラオンの予想通りである。

 普通の女性ならば、16回も達していれば感覚自体がなくなっているだろう。それでは長く楽しめない。

 しかし武人の因子が強く覚醒していると、それだけ耐久力がある。身体も強い。

 特にプライリーラはかなり強い武人である。ホロロたちならば相当の手加減が必要であるが、彼女に対しては普通に接触が可能だ。


(これは久々に楽しめそうだな。と、その前にだ。もっと完全に屈服させておかないとな)


「プライリーラ、これから君を本格的に犯すよ。だからその前に、君の中の【獣】を呼び出そうと思う。そうでないと意味がないからね」

「あっ…」


 ざばんっ

 ぐいっとプライリーラを引っ張り、ひっくり返す。

 この体勢は、いわゆる後背位と呼ばれるものだ。


「な、何をするつもりだ!? こ、こんな格好で…」

「このほうが、より動物的かなって。さて、プライリーラ。舐めていたときは快感とショックが大きくて頭が働いていなかったようだが、今は少し落ち着いただろう? もっと状況をよく思い出してごらんよ」

「状況…?」

「そうだ。君は負けた。負けたら全部を奪われるのが荒野の掟だ。見てごらんよ。君はもう何もない裸だ。君が持っているものはその身体一つ。今まで手に入れたすべてを失ったんだ。守護者はもういない。死んだ」

「ぎ、ギロード…私の親友が……そうだ…彼女は…死んだ……殺されたのだ」


 そう言われて、ようやく状況を思い出す。

 自分が子供の頃からずっと一緒にいたギロード。まさに家族であり、一番心を許せる相棒である。


 それが―――死んだ。


 負けて、バラバラにされて、最後は頭まで消滅させられた。


「そう、あの馬は死んだ。オレが殺した。君はこうして美味しくいただけるけど、あいつはオレにとって生かす価値がないから殺した。馬になんて興味がないしね」

「はぁはぁ…ギロードは…私の……」

「あっちを見てごらん。あの十字架だ」

「十字架…? なぜあのような場所に…―――っ!! あれは…まさか!!」


 なぜ気付かなかったのだろう。

 傷が癒されたことと、快楽を与えられたことで意識がぼんやりしていたのだろうか。

 それにしても、ありえないことだ。自分がギロードと彼のことを忘れているなんて。


 その氷の十字架には―――老執事。


 自分が一番信頼するアーブスラットが氷付けにされて磔《はりつけ》にされていた。

 あまりの衝撃的な映像にまったく言葉が出ない。


「あいつは強かったよ。自分の寿命まで犠牲にして君を守ろうとした」

「じ、爺は…!! 生きているのか!? 殺したのか!?」

「ん? 死んだかな? いや、どうだろう。直接技を当てていないから、もしかしたら生きているかもしれないね。ただ、あの中だと細胞操作もできないだろうし…死んでるかもね。わからないや。あいつもオレにとって必要ないし、どっちでもいいよ」

「ふざけるな! 私の大切な家族だぞ!! 爺!! 今行くぞ!」

「おっと、自分の立場を忘れてもらっちゃ困るな。君は今、オレが捕まえているんだ。わざわざ狩りをして捕まえた獲物だ。このままここで犯される運命なんだよ。そういう約束だっただろう? これは君も了承済みだ」

「くっ…そうだが…くそっ!! すべては私のミス…だというのか…。だが、まずは爺を…!」

「おっとっと、動いちゃ駄目だよ。もみもみ。うむ、いい乳だ」

「そんなことの前に爺を…爺を助けなければ!!」

「だから駄目だってば」


 プライリーラはじたばたと暴れるが、後ろから覆い被さって乳を揉んで妨害。

 こんな上物の獲物を逃がすなんてありえない。


「は、放せ! あとでいくらでもやらせてやる!!」

「信用できないな。オレは欲しいものは好きなときに食べる。そうやって生きてきたし、これからもそうする。それ以前にオレが捕まえているんだから、君に選択肢なんてないんだよ」

「は、放せ!! ううううっ!! 放せ放せ放せ放せ放せぇええええええ!!」


 ボォオオオッ

 プライリーラから戦気が放出され、束縛から脱出しようとする。

 だがアンシュラオンは、さらなる強い力でそれを抑え込む。


「はははは! まさに暴れ馬だね。それくらいじゃないと面白くないよ。活きのいいメス馬に乗るのが夢だったんだ。どれどれ…ここはもう準備OKかな」

「っ!! ま、まさか…や、やめろ!! 今はそれより…」

「それじゃ、たっぷり楽しんでくれ。いけ! マイボーイ!!」


 プライリーラの穴を広げ―――インッ!!


 アンシュラオンJrが、すでに二時間も舐められてトロトロになっている穴に、突撃リポートを敢行!!


 ズブズブズブズブッ!!


「あぁあっ!! はぁあああああああああ!!」

「んっ…おおっ!! いいぞ! まったりと絡み付いてくる! 本当に処女なのか? 身体の中までバターじゃないか! いいぞ、これは楽しい!!」

「はっはっ! 待って…爺を……たすけ……あはっ!」

「そんなに行きたければ、強引に行けばいいよ。ほら、抜け出してごらんよ」

「はぁはぁはぁっ! ううっうおおおおおおおおおおおお!!!」

「ほいほいほいっ! パンパンパンッ!」

「あああ! はぁはぁああああああ!! ううはあぁあ!!」


 プライリーラはさらに戦気を放出して、力づくで脱出しようとする。

 が、突かれるたびに凄まじい快楽が脳まで響き、身体全体が硬直して身を任せたくなる。

 そのせいで気合なのか嬌声なのか、よくわからない声を出してしまう。


「はぁはぁっ!! ああーーーー!! こんな…もの…でっ…はああ!」


 だらだらと口からよだれが垂れるも、なんとか気持ちをとどめて耐える。


「おお、やっぱりすごいね。普通の子なら、この段階で気絶だよ。プライリーラは本当に極上だな。これなら普通にセックスできるかもしれない。うひゃひゃっ! ようやく遠慮なくやれるぞ!! ずっと我慢してきたんだ! たっぷり楽しませてもらうからね!」

「はぁはぁっ! 抜け出して…みせる!!! うううっ…ううううっ!! こんな屈辱を受けて…黙ってなど……いられない!」


 マングラスに対抗できると思った。自分の力があれば、戦獣乙女ならば何でもできると思っていた。

 だが、それは浅はかだった。何も知らない乙女の妄想だった。

 ギロードが死んだのは自分が愚かだったからだ。アーブスラットも自分の策のせいで巻き込んでしまった。

 そんな自分が、ショックと快楽になど負けてはいられない。

 この状況から抜け出すために、自分の中からすべての力を出さないといけない。

 せめてアーブスラットだけは助けねばならない。そうしないと自分はもう生きてはいけない。


 探す、探す、探す。


 自分の中にある力を探す。



 そして―――彼女の本性が、少しずつ出てくる。



 哀しみやショックから、怒りの感情へ。

 それが彼女の中にいる凶暴な獣を呼び覚ます。




309話 「オスがメスを屈服させるのは最高に気持ちいいぞ!! 前編」


「ウウウッ…ウウウウウウッ!!!」


 プライリーラの声が、どんどん人間離れしたものになっていく。

 現状ではどうにもならない状況に対し、本能に身を任せようとしているのだ。


「あ、そーれ、パンパンパンッ!!」


 アンシュラオンはプライリーラの中の獣を挑発するように腰を振る。

 肉体的な抑圧に加えて精神的な圧力を加えていく。それは徐々に彼女の中に蓄積され、怒りの感情に変わっていく。


 誇り高い『暴走せし暴風の獣』が犯されている。支配されることに怒りを感じている。

 こんなオスに、いいようにやられている。


 ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!!!


 喰らうのは―――こちらだ!!



「ウウッ…ウウウウウウウウ!! ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」



 ボオオオオオオオオオッ!!

 今までよりもさらに激しい戦気が放出され、身体に力を与える。

 ぎちぎちと筋肉が膨れ上がり、瞳孔が細くなって肉食獣の輝きを帯びる。

 その獣の中にあるのは、ただただ喰らいたいという欲求。他者を支配したいという欲求だ。



 獣が―――目覚める。



「オオオオオッ!!! ウオオオオオオオオオオ!!」



 バシャバシャバシャッ!!

 ドンドンドンドンドンドンッ!!


 唸り声を上げながらプライリーラが狂ったように暴れる。命気水を叩き、命気水晶で出来た風呂を叩く。

 檻に入れられたライオンが怒り狂って、衝動のままにすべてを破壊しようとする行動に似ていた。

 それを見て、満足そうにアンシュラオンが笑う。


「出てきたね。それが君の本性か。これを屈服させてこそ本当の意味で犯すってことになる」


 これは獣と獣の喰らい合いである。

 さきほどまでの甘めのやり取りも嫌いではなかったが、強い者が弱い者を喰らうという神聖で厳粛な儀式なのだ。

 中途半端では終われない。ただ犯すだけでは意味がない。

 心の奥底から屈服させ、彼女の本性を叩き潰す必要がある。



「さあ、【調教】の始まりだ」


 ジュボボッ

 まずはサナが傷つかないように、プライリーラの身体の表面に自分の戦気で膜を作り、さらにその上から命気を覆って彼女の戦気を内側に閉じ込める。


 それからプライリーラの頭を掴み―――


 ざぶんっ!


 命気水に押し付ける。


「グウウッ!! ゴボゴボッッ!! ヴヴヴヴヴヴヴッ!!」


 顔が命気水に浸けられて呼吸ができない。

 サナが入る時の命気水は意図的に酸素を多く取り入れているので、肺に入っても呼吸ができるようにしてあるが、プライリーラのところだけ酸素濃度を減らす。

 そうなると普通の水と同じように息ができなくなる。


 ジタバタ ジタバタッ!! ざばんざばんっ!


 プライリーラはそこから抜け出すために必死に暴れる。

 まだ苦しいという感じではない。単純に束縛が不快なので解こうとしているだけだ。

 だが、それがずっと続けば、さすがの彼女も息苦しくなってくる。

 呼吸ができなければ練気もできなくなっていくので、彼女の戦気とともに抵抗も弱くなってくる。


「ゴボゴボッ!! ボハッ!! んぐっ…んぐううっ、ごくっごくっ」


 次第に命気水を飲み込まねばならないようになってくる。

 本来ならば回復効果があるものなので、いくら飲んでもよいのだが、今は互いを【侵し合っている】状況である。

 相手のものを体内に取り入れることは、相手の支配が強まることを意味する。


 アンシュラオンは、命気水を操作して身体の中からも彼女を【犯す】。


 喉や食道、胃や肺に侵入した命気水が、撫でるように彼女の内部で蠢く。

 それはなんとも気色悪い感触である。完全に身を任せれば心地よくもあるのだが、敵対するものが入ってくると思うと寄生虫並みに不快である。


「ヴッヴッヴウウウウッ!! ウグウウッッ!!」


 にゅっちゅ ぐっちゅっ パンパン

 その間もアンシュラオンは腰を振って、彼女との交尾を続ける。

 ズルズルと突き入れ、引き抜くピストン運動を繰り返すごとに、プライリーラの身体が震える。

 なんだかんだいって肉体的接触は気持ちいいものだ。

 少なくとも健康な肉体を持つ者同士ならば、相容れない相手であっても一応は感じることができる。


 それに加え、アンシュラオンとプライリーラの相性は―――【抜群】。


 アンシュラオンが因子の高いプライリーラが美味しいように、彼女もまた自分より高位の存在と接触することに興奮している。

 今まで自慰で満たしていた性的欲求であったが、やはり自分では限界がある。満たされない欲求が残るものだ。

 それが強引とはいえ、非常に強い肉体と高いセックススキルを持つアンシュラオンによって満たされていく。


 ズルリッ


「ウグッ!! ゴボッ」


 アンシュラオンの男性器が恥丘《ちきゅう》の裏側、お腹側をこするたびに激しい快感を感じる。そこからさらに奥に入り込み、子宮口を絶妙な圧力で刺激してくる。

 びくびくびくっ

 プライリーラが簡単に達する。

 顔を真っ赤にして震えながら、腰がびくびくと痙攣している。



「アーーーーアァァッァァ!」



 命気水で体内を犯されつつ、女性器も犯される。

 苦しみや不快と同時に快楽も与えることで、プライリーラに複雑な感情を与えていく。


 ザバンッ


「ブハッ…ハーーーハーーーーッ!! ゲホゲホッ、ハーーーハーーーッ!!」


 一度プライリーラの頭を引き上げると、貪るように荒い呼吸を繰り返す。

 目からは涙が流れているが、苦しさや哀しみから出たものではない。強すぎる快感による生理現象だ。海亀と一緒である。



「どう? 少しはおとなしくなった?」

「ウウウウッ!! オオオオオオオッ!!!


 バッシャバッシャッ!!!

 プライリーラの中の獣はアンシュラオンをギロリと睨みつけると、再び暴れ出した。

 彼女は常人とは違う。こんなものでおとなしくなるような獣ではない。

 爪や手を掻き立てて、アンシュラオンの顔を抉り取ろうとする。まだまだ元気で凶暴だ。


「おっと、悪いおててだ。ちょっと縛っておこうか」


 ギュルルッ ピキンッ

 命気水がプライリーラの手首に絡まり、浴槽の縁にまで引っ張ってから水晶化。

 がっちりと固まった結果、頑丈な手錠のように手が縁に固定される。

 これによって完全に四つん這いのような体勢になる。


「ブウウウウッアァアアアアアアア!!」

「魔獣用に作ったからね。どんなに力を出しても抜け出せないよ。殲滅級魔獣でも自切しなければ無理だろうね」


 プライリーラは力を込めて手錠を破壊しようとするが、命気水晶の硬さはダイヤモンドを超える。しかも靭性《じんせい》も高いので非常に割れにくい。

 戦士因子が5あるプライリーラでも、さすがにこれを破壊することは不可能に近い。

 たとえそれを破壊できる攻撃力を持っていても、外側から直接打撃ができるわけではないので、がっしり縛られた状態では土台無理な話である。


「うん、いいね。似合うよ。可愛いけど凶暴なメスには手錠をしないとね。首輪も好きだけど手錠も嫌いじゃないんだ。くくく、ゾクゾクするよね。ねえ、どんな気分? こうして縛られて後ろから犯されるなんて最高だろう?」

「ヴヴヴヴウウウウウッ!! オオオオオッ! オオッ!! ウオオオオオっ!!」

「ははは、まだまだ元気が有り余っているね。そうそう、いいよ。…そうだ。ほら、サナ。乗ってごらん。お馬さんだよ。ここだよ、ここ」

「…こくり」


 まるで馬に乗るかのように、そのままサナをプライリーラの背中に乗せる。

 じたばた じたばたっ! ドンドンッ

 プライリーラが暴れるたびに、ロデオのように背中に乗ったサナが軽く跳ねる。

 手が押さえられているためか動きはそこまで大きくなく、サナもがっしりと髪の毛を掴んでいるので振り落とされることはない。


「おっ、いいぞ。なかなか上手いな。どうだ? 気に入ったか?」

「…こくり」

「おー、そうかそうか。それとお馬さんはな、こうしてお尻を叩いてあげると気合が入るんだ。あそーれ、ばしんっ!!」

「ウグッ!!」


 バシンッと尻を叩くと、びくんと跳ねる。

 それと同時に女性器も締まったのでアンシュラオンの快楽も増す。


「フーーーーフーーーーッ!!

「おや? いい感じに締まったぞ。けっこう気に入ったんじゃない? プライリーラはマゾっ気があるのかな? まあ、女性の大半はマゾだと個人的には思うんだけど…君が楽しいならオレも嬉しいよ。じゃあ、もっと遊ぼうか! あそーれ、ハイハイハイハイッ!」


 パンパンパンパンッ

 ずぶずぶずぶっ にゅるにゅるにゅるっ

 尻を叩き、締まった女性器の中を猛った男性器が勢いよく往復する。

 普通は労わるようにやるほうがいいが、今回は少し乱暴にやるのがコツだ。多少の痛みが伴うほうが効果がある。

 ジィイイインッ

 何度も叩かれてプライリーラの尻が真っ赤になってしまった。

 だが、セックスの快感のほうが強く、その刺激もまたスパイスとなって快楽を助長する。

 身体は正直だ。しっかりと反応している。


「ウウウウウッ!!」

「まだまだ反抗的だね。調教し甲斐があるよ。サナはちょっと降りててね。えっと、そうだな…あっ、あれは何だ?」


 バンッ


「っ!?」


 突如、プライリーラの目の前で小さな爆発が起こった。

 それに驚いて彼女が前を向いた瞬間―――


 ドクンッ



「っ―――!?!?!?!!!」



 どくん どくん どくんっ

 ドプドプドプドプドプッ ゴボゴボゴボゴボッ

 ドクンドックンドックン ドクドクドクドクッ

 ビューーールびゅるびゅるびゅっくんどくんっ!!


「おぉおおおっぅうううっ!!! うううううぁああ! アァァッァァアァアアアア!!」


 意識を逸らした瞬間に子宮に精液を叩き込む。

 さすがに身体が強靭なだけあって、処女膜を破られたくらいではたいした反応はなかったが、いきなり子宮内にこれだけの精液を注がれたら驚きを隠せない。

 初めて感じる子宮への射精。それも、とびっきり強くて濃いオスのエネルギーが込められたものである。


―――絶頂




「オォオォオオオオオオオオオウウウウウウッ!!!!! ウウウッ! ウッ!!! ウウウッ!!!」




 びくんびくん びくんびくんっ

 ガクガクガクガクッ ぶしゃーーーー


 大量の蜜を吐き出しながらプライリーラも達する。

 今までよりも遙かに大きな絶頂で、身体が完全に引きつって硬直している。

 なにせ魔人の本気の精子である。生命誕生の力を秘めた活力である。

 ホロロやシャイナたちに注いだものは、かなり薄めていた常人用のものだが、こちらは姉に注いでいたものとほぼ同じ濃度だ。


 まるで炭酸のように―――刺激的。


 女性にとってもっとも重要な器官が、凄まじいエネルギーによって蹂躙される。

 ジョーージョーー

 そのあまりの刺激にプライリーラが失禁。

 命気水は汚れ全般を吸収分解するので、こうした尿もすべて取り除いて蒸発してくれるから、そういった衛生面ではまったく問題はない。

 それより、こんな姿を晒しているほうが彼女にとっては問題だろう。


「はははは、いい眺めだね。でも、粗相をした罰は与えないとね。ほら、こっち向きな」


 命気手錠を一度縁から離し、普通の手錠のように両手で合わせてから、髪の毛を引っ張って対面させる。


「ハァアア…あぁぁーー…ああ…はあぁぁ……」

「そんなによだれを垂らして、目もとろんとさせて、随分と気持ちよかったみたいだね。じゃあ、もっと飲ませてあげるよ」

「んぐっ…んっ!!」


 アンシュラオンの男性器が―――口に捻じ込まれる。


「んっーーー、んっーーー、んぐんぐっ…」

「噛み切ろうとしても無駄だよ。オレの如意棒は金剛さんだからね。そんなもんじゃ切れたりしない。って、怖いことするなぁ」


 普通の男性がやられたら涙を流して謝罪し、助命を懇願するところだが、魔人の如意棒はそんなヤワではない。

 肉体操作でカチコチになったそれは、歯程度で噛み切れるものではないのだ。

 たぶん剣気で強化した刃でも切れないだろう。肉体そのものの強さが違う。


「噛み切ろうとしたメスには、さらに罰を与えないとね。いや、ある意味でご褒美かな?」


 ぐいっと後頭部を押さえ込み、さらに奥、喉に捻じ込む。


「むぐうううっ…んっーーーー!」

「ほら、ご主人様に奉仕するんだ。丹念に舐めるんだぞ」


 ずりずりっ にゅるにゅるっ

 かなり奥まで突っ込んでいるので、舌の感触があるのは根元だけであり、ほとんど尖端は喉で愛撫しているようなものだ。

 そのため彼女の意思はあまり関係なかったりする。

 プライリーラが何をしようが、どう抵抗しようが、この愛撫を止める手立てはないのだ。


 にゅるにゅるにゅるっ どぷんっ

 
 そこからさらに―――【闘魂注入】。


 どっぷんどっぷんっ どくどくどくどくどくっ


「んぐっ―――んんっーーーごくごくごくっ!!」

「そうだ。喜んで飲むんだぞ」

「んぐっ…んっーーーげほっげほっ…んぐっ!!!」


 喉に出されているため、これまた抵抗できずに飲み込むしかない。

 シャイナも薄めたカルピスジュースを飲んだ(飲まされた)が、こちらは原液である。

 今さっき出したばかりなのに濃度も濃いままで、ねっとりしたものが大量に注がれていく。

 そのたびに身体中が魔人因子に侵され、激しい快楽と目眩がプライリーラを襲う。

 目の焦点が合わずに、瞳孔がぎょろぎょろ動き回り―――



 ぶしゃーーー とろとろっ



 彼女も大量の蜜を出す。


「おー、すごいすごい! これは大漁だ!! あとで楽しく飲ませてもらうとしよう」


 彼女が出した蜜は別途保存しており、あとでまったりと飲ませてもらう予定だ。


(これ、絶対売れるよな。下手をすれば十ミリリットルで一億円くらいはいくかもしれん。なにせアイドルの蜜だもんな)


 これを好むのはアンシュラオンだけではなく、都市の男たちにも相当な高値で売れそうな気がする。

 世の中には、そういったものを手に入れて喜ぶ変態(褒め言葉)もいるのだ。




310話 「オスがメスを屈服させるのは最高に気持ちいいぞ!! 後編」


「カハッ…がはっ…ごほごほっ…ァァア…ァーー」

「どうしたの? こんなもんでへばったわけじゃないでしょう?」


 ぺしぺしっ

 口から白くてどろっとしたものがこぼれて、少しぼけっとしているプライリーラの頬を叩く。


「ウウウウッ!! ガブッ!!」


 すると、いきなりアンシュラオンの首筋に噛み付いてきた。

 ググググッ

 歯を突き立てて頚動脈を噛み切ろうとしてくる。

 手が使えないのならば歯で戦え。まさに武人の鑑のような行動である。

 より獣らしい行動でもあるので、彼女がこの選択をしたのは自然なことであろう。だが、もちろんこんなものは通じない。


「ははは。くすぐったいな。メスの甘噛みってのは気持ちいいもんだよ」

「グルルルルッ!!」

「噛み付きってのは、こういうふうにするんだ。がぶっ!!」

「ヒグッッ―――!!」


 アンシュラオンに噛み付いたことで首筋が晒されたプライリーラに、お返しとばかりに噛み付く。

 ググググググッ ミシミシッ


「カハッ…はっ!!」


 ぎちぎちと絞まり、歯が喉に食い込んでいるので呼吸ができない。

 明らかに彼女の噛み付きよりも強い力だ。その気になれば首を噛み切ることもできるが、これはあくまで威圧なのでそこまではしない。

 次第にプライリーラの噛む力が弱くなり、最後は逆にだらんと口を開けることになる。


 アンシュラオンはそのまま噛み続け、風呂の縁に押し付ける。


 プライリーラは必死に起き上がろうとするが、両手が動かないうえ首まで噛まれているから力が入らない。

 結局、自分よりも小柄なアンシュラオンに簡単に押さえつけられる結果になる。

 猫が交尾をする際、オスはメスの首を噛んでおとなしくさせるが、そういった光景にも似ている。

 あれは排卵を促す目的があり、尖った性器で刺激を与えるので、その際にメスから攻撃されないようにするためであるが、この両者においては力関係を示す大切な行事でもあった。



「フーーーッ、フッーーー!!」

「よしよし、少しはおとなしくなったかな。じゃあ、また入れるぞ」


 ズブズブッ

 上の口は凶暴だが、下の口は非常に素直に自分を受け入れる。


(やっぱりプライリーラは気持ちいいなぁ。もっともっと味わいたい)


 肉体の感度はまったく下がっていない。むしろ交われば交わるほど馴染んで気持ちよくなっていく。

 姉には及ばないが素晴らしい逸材であることには違いない。

 こうして噛み付いている間も口の中には甘いミルクの味が染み渡っている。それだけで口が溶けそうだ。

 姉の果実のような甘みとはまた違って、これも独特の良さがあるので癖になりそうだ。


「くふっ…フゥウウウッ!!」

「なんだか手がつらそうだね。全力を出せないから勝てないとか思っているのかな? なるほどなるほど、ならば手も外してあげよう。さあ、これで君は自由だ。全力を出せるよ」

「フッ!!!」


 バチンッ!!!

 命気手錠を外した瞬間、プライリーラがビンタしてきた。

 アンシュラオンはあえて戦気なしでそれを受けるが、それでもダメージは与えられない。


 バチンッ! バチンッ!!! ドゴンドゴンッ!!


 プライリーラは何度も何度も叩く。時には戦気付きの拳で殴りつける。

 が、何度叩いても結果は同じである。びくともしない。


「どう? 満足した? それなら次はオレの番だね」

「ッ!!」

「いくぞ、ほーれ!!」


 ブーーーンッ! ばっちーーーーーんっ!!


「ブハッ!!」


 アンシュラオンの張り手が、プライリーラの頬をぶっ叩く。

 かなり抑えた一撃だが、首がもげそうなほどの衝撃を受け、ぐらつく。


「ハーーー、ハーーーーッ!!」

「いけない子だね、プライリーラ。メス馬はオスの言うことをしっかり聞かないとさ!!」


 ブーーーンッ! ばっちーーーーーんっ!!


「ブフッ!!」

「これはお仕置きだよ!! オレは君を愛しているから殴るんだ!!」


 ブーーーンッ! ばっちーーーーーんっ!!

 ブーーーンッ! ばっちーーーーーんっ!!

 ブーーーンッ! ばっちーーーーーんっ!!


「見てごらん! オレの手が赤くなっているじゃないか! 君への想いが赤くさせているんだ!! 君がてこずらせるから、仕方なくこうしているんだよ!! なんて乳だ! けしからん!! もみもみっ!!」


 ブーーーンッ! ばっちーーーーーんっ!!

 ブーーーンッ! ばっちーーーーーんっ!!

 ブーーーンッ! ばっちーーーーーんっ!!


「股もこんなに濡らして、なんてイヤらしい!! 叩くたびに締まっているじゃないか! 本当は暴れて男の気を引いて、激しく犯してもらいたいだけなんじゃないのか!! まったく、真性のマゾだな!! これはお仕置きが必要だ!! ふんふんふんっ!!!」


 ブーーーンッ! ばっちーーーーーんっ!!

 ズブズブズブッ!! ぐっちゅぐっちゅっ


 殴っている間も交尾は続行する。

 実際に叩くたびに締まるのは事実なので、当人の身体はしっかりと反応しているようだ。

 これはマゾというよりは、武人特有の反応なのかもしれない。

 そもそも武人は戦えば戦うほど強くなる生物であり、肉体や精神が痛めつけられるほどに因子が覚醒していく。

 常に肉体的な苦痛が伴ってこそ進化するので、武人は常人よりも痛みに強いし、苦痛を快楽として受け入れる物質が脳内で分泌しやすいのだ。


 彼女は―――喜んでいる。


 叩かれるたびに、犯されるたびに、少なくとも身体はアンシュラオンの有用性を認め、欲している。

 だから女性器はさらなる刺激を得ようと蜜を生産して男を誘惑し、彼女自身にも強い快楽を与えていく。



「フーーーーッ、フーーーーッ!! ハァハァッ…ハッ!」


 何度も叩かれ、プライリーラの頬が真っ赤になっている。

 口内が切れて血が垂れ、瞳孔もショックでぐるんぐるん動いており、自分の状態をどれだけ認識しているのか怪しいものだ。


 しかし、そんな彼女にも一つだけわかることがある。



―――自分が犯されていること

―――目の前のオスは、自分よりも強いこと

―――何をやっても抵抗できないこと

―――あらがえばあらがうほど、反撃と束縛が強くなっていくこと



(なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは!!!)


 『暴走せし暴風の獣』はパニックに陥る。

 今まで自分が力を出せば、どんな相手にだって勝ってきた。

 相手は自分の支配下に入り屈服してきた。オスだって関係ない。全部服従させてきた。

 それが目の前のオスに対しては、まったく通じない。武器がない裸同士だからこそ、それがはっきりと示されるのだ。


 ドキドキドキドキドキッ ドキドキドキドキドキッ
 ドキドキドキドキドキッ ドキドキドキドキドキッ
 ドキドキドキドキドキッ ドキドキドキドキドキッ


 心臓の鼓動が速くなっていく。呼吸が荒くなっていく。

 恋をしたわけじゃない。自分より強い相手に焦がれたわけでもない。

 徐々にその感情が暴風の獣を汚染していく。




―――恐怖




 という感情が。



「ウウウッ…ウウウウッ、ウワァアアアアアアアアアアアア!!」



 その感情がピークに達した瞬間、突如暴風の獣は逃げ出そうとする。

 今までは相手を攻撃して倒すことを念頭に置いてきたが、このオスには何も通じない。


 このままでは―――喰われる。


 暴風の獣は、それをようやく理解したのだ。

 そうなった場合、獣が取る選択肢は一つしかない。


―――ひたすら逃げる


 ということ。

 勝てない相手には逃げるしかない。どんなにみっともなくても喰われるよりはいい。

 これも野生の本能である。


 がしかし、この白き獣がそんな逃走劇を許すわけがない。


 ブーーーンッ! ばっちーーーーーんっ!!


 逃げようとしたプライリーラの頬に、再び強烈な張り手がかまされる。

 脳と意識が揺れ、身体から力が抜ける。


「ッ!!!」

「くくく、逃げられると思うなよ。がぶっ!!」

「ギャフッ!!」


 ずぶずぶずぶずぶっ

 プライリーラの両手を自分の両手でがっしり押さえ込み、首筋に噛み付きながら交尾を続行する。

 むにゅんっ ぐにゅっ ぷるんぷるんっ

 胸と胸が重なる感触が実に心地よい。


「ああ、美味いな。お前は美味いぞ。ふんふんふんっ」

「あっ、あっあっ!! あぁああああ! アーーーアーーーーーーっ!!!」


 ブーーーンッ! ばっちーーーーーんっ!!


「ひうっ!!」

「逃げようとしたら殴るからな。お前はオレには勝てないんだぞ。それを何度も何度も身体に教え込んでやるからな!!」


 ブーーーンッ! ばっちーーーーーんっ!!

 ずぶずぶずぶっ ぐっちゅぐっちゅっ

 ブーーーンッ! ばっちーーーーーんっ!!

 ずぶずぶずぶっ ぐっちゅぐっちゅっ


 プライリーラが逃げようとすれば叩き、腰の動きを速める。

 それから首に噛み付き、おとなしくさせる。どちらが強いかを教え込むのだ。たまに胸に噛み付いたりもする。


 それを何度も何度も繰り返す。暴風の獣が理解するまで繰り返す。



(獣の調教方法は簡単だ。圧倒的な暴力でどちらが上かを示せばいい。これが自然界の掟。強い者に従うという動物の本能だ!!)


 ブーーーンッ! ばっちーーーーーんっ!!

 ずぶずぶずぶっ ぐっちゅぐっちゅっ

 ブーーーンッ! ばっちーーーーーんっ!!

 ずぶずぶずぶっ ぐっちゅぐっちゅっ


 イヌ科の動物を見ればわかるように彼らは群れを作り、リーダーの命令には絶対的に従う。

 それは人間社会でも同じだ。より強い者が弱い者を支配し、統治するシステムが生存競争においてもっとも効率が良いからだ。

 そのためリーダーとなる者は、己の強さを相手に示さねばならない。


 その最たる手段が―――暴力


 この世界、この宇宙のすべてにおいてパワーは完全なる要素の一つだ。

 何よりも力がなければ生きていけない。力があってこその安定と平穏である。これをより多く、より大きく、強力に宿す者に従うのが自然界の掟だ。

 逆らう者には徹底的にこの事実を教え込まねばならない。その者が弱いのならば特に重要だ。


 なぜならばその弱い人間は、放っておけば違うより強い者に喰われて果てる運命にあるからだ。


(そうだ。これはプライリーラを守る行為だ! オレは君を守りたいんだ!! わかれ! わかってくれ!! ぐへへへ!! どうだ、こいつめ!! わかったか!! オレのマイボーイをくらうがいい!)


 かなり素の支配的欲求が出ているが、当人は良かれと思ってやっていることである。


 ブーーーンッ! ばっちーーーーーんっ!!

 ずぶずぶずぶっ ぐっちゅぐっちゅっ

 ブーーーンッ! ばっちーーーーーんっ!!

 ずぶずぶずぶっ ぐっちゅぐっちゅっ


 叩き、刺す。叩き、刺す。叩き、刺す。
 叩き、刺す。叩き、刺す。叩き、刺す。
 叩き、刺す。叩き、刺す。叩き、刺す。


 そして―――出す!


 ドプドプドプドプッ!! どっぷんどっぷんっ!!

 どくどくどくどくどくどくっ!!


「ふーー! どうだ、オレの白くてどろっとしたものは!! 美味いか!!」

「ヒッヒッーーーッ!! ヒゥウウウッ!!」

「美味いと言うんだ!! これはお前のためなんだからな!!!」


 ブーーーンッ! ばっちーーーーーんっ!!

 ずぶずぶずぶっ ぐっちゅぐっちゅっ


 一度出しただけでは止まらない。燃え出した欲求と行為は、ちょっとやそっとで止められるものではない。

 叩き、刺し、出す。叩き、刺し、出す。叩き、刺し、出す。

 ときどき乳を揉む。少し乱暴に、もみもみもみっ!


 これを何度も何度も繰り返す!


 どんなに抵抗しても交尾を強要され、服従を促される。

 それに逆らえば、また交尾を強要され、服従を促される。

 それでも逆らえば、また交尾を強要され、服従を促される。


 交尾を強要され、服従を促される。
 交尾を強要され、服従を促される。
 交尾を強要され、服従を促される。
 交尾を強要され、服従を促される。


 これを繰り返すとどうなるか。


 バキンッ



 獣が―――折れる。




「ううっうううっ…ああああああ!! いやぁああああああああ!! やだぁあああああああああああ!!」



 プライリーラの声に人間性が戻ってきた。

 今まで表に出ていた獣性が引っ込んできたのだ。中に宿った暴風の獣が恐れをなして逃げ出した、というわけだ。


 つまりそれは―――敗北。


 絶対に勝てないと知った獣が、自らの敗北を認めたということである。



「くくく、勝ったな!! オレの勝ちだ!!」


 アンシュラオンは満足そうに笑う。

 女性を屈服させる瞬間は、いつだって最高の気分である。自分の支配力が高まることで魔人因子も震えて喜んでいる。

 やっていることは完全にDVによる精神支配なので、地球ならば完全に犯罪だが、そもそもここには法律自体が存在しない。誰もそれを裁くことはできない。


 何よりも、これが獣と獣の普通の戦いの様相である。


 野生の獣において、どちらが強いかをはっきりさせることは安全のためにも重要なことだ。これも自己防衛策の一つである。


「はーーっ、はーーーっ!」

「どうだ、プライリーラ? オレに逆らわないと誓うか?」

「うううっ…ぐすっ…ぐすぐすっ…ううううっ」

「ほら、返事はどうした?」

「…わ、わかった…わかったからぁ……はーー、はーー、許して……ぐすっ」

「ふぉおっ! なんだその可愛い顔は!! まるで乙女じゃないか! はぁはぁっ! こ、興奮するぞ!!」


 獣が消え去ったプライリーラは、急におどおどした様子になっていた。


 その姿は―――まるで乙女。


 戦獣乙女から、『戦う』と『獣』をなくすと『乙女』になる。

 この極限状態で、プライリーラがわずかばかりにもっていた乙女要素が、ついに表に出てきたのだ。

 しかし、その様子が逆に白い獣を刺激してしまう。

 如意棒がさらに大きくなり、やる気全開になる。


「はぁはぁ、たまらんな!! やるぞ! やりまくるぞ!!」

「ま、待て…やめろ……ぉおっ! やだぁあああああ!!」

「駄目だ!! 君だってまだ満足していないはずだぞ!! 気を失うまでやるからな!! ふんふんふんっ!!」

「ああぁあああああ!! ひっ、ひっーーーーー!!! あんあんあんっ!!」

「っ!!! なんだその喘ぎ声は!! た、たまらん!!!」


 乙女要素が前面に出れば出るほどアンシュラオンは興奮していく。


 ここからは泥沼だ。



「も、もう…許して…!! し、死ぬっ!」


 ドプドプドプドプッ!!!

 どっくんどっくんどっくんっ!!


「うひゃひゃひゃっ!! たまらんなーーーーーー!!!!」



 サナの食事タイムを除いた三日三晩、ひたすらプライリーラとやりまくることになるのであった。




311話 「プライリーラとの別れ」


「サナは可愛いなぁ…うっとり。さわさわ、なでなで。お肌もつるつるだねぇ。はぁ、綺麗だねぇ…可愛い、可愛い」

「………」


 アンシュラオンは命気風呂に入っているサナを触りまくる。

 この三日間、ほとんどの時間で入っていたので、お肌はつるつるで非常に瑞々しい。

 まだ子供なので肌自体もぷにぷにかつ、さらさらだ。ずっと触っていても飽きない。


「やっぱりサナが一番可愛いよな。こんな可愛い子は世の中にいないよ」

「アンシュラオン、それを私の前で言うのかね?」

「だって、事実だからしょうがないんだよ。サナが一番だ。ちゅっ、ちゅっ、ぎゅっ」


 サナの頬にキスをしながら優しく抱きしめる。

 離れていた間はずっと焦燥感を感じていたので、こうして一緒にいられる時間がとても愛しいのだ。


「まったく…人にこんなことをさせておいて…子供とはいえ他の女性を可愛がるとは。んっ…んんっちゅっ。私に対して何か言うことはないのかね?」


 プライリーラは、アンシュラオンのマイボーイの奉仕をさせられている。

 簡単に言えば、お口でしている、ということだ。

 そんなときに他の女性に意識が向けられていれば嫉妬するのは当然だろう。


「うーん、そうだな…。プライリーラってさ、お尻の穴が綺麗だよね」

「っ…! さすがにそれはデリカシーがないとは思うがね」

「褒め言葉なんだけどなー。だって、うちの(シャイナとかいう)飼い犬なんてけっこう黒いしね。そのあたりは生活環境なのかもしれないけど…今度徹底的に洗おうかな?」


 べつに黒いから悪いというわけではなく、単なる色素の問題なのだが、それを気にする女性もいるにはいるだろう。

 これはグラス・ギースのトイレ事情が影響している部分もあるはずだ。

 水で洗えればよいのだが、質の悪い紙などで拭いていると色素沈着が起こる可能性も高くなる。

 要するに貧乏人は悪いものを、一方で金持ちのお嬢様は良いものを使っているので、そっちも綺麗だということだ。まさに格差社会が尻にまで表れた例である。


 そこで命気の出番だ。


 命気は細胞を分解構築できるので、その気になればいつでも尻周りを白くすることができる。


「オレはべつに気にしないけど、どうせなら完璧を目指したいな。スレイブの子たちには綺麗にするサービスも始めようかな。うん? これは商売になるんじゃないのか? 定期的に診察所で一般無料サービスを展開しながらスレイブ集めに利用する。スレイブにしない場合は有料にしてもいい。おお、これは良いアイデアだ! 女の子もゲットしつつ尻も綺麗にする。まさに女性への社会貢献じゃないか! こ、これはいけるぞ!! ん? 逆か? 尻を綺麗にしつつ女の子もゲットするのか?」


 どっちも同じである。

 一見すれば汚い話題でもあるが、そういう部分まで改善を目論むアンシュラオンは、ある意味ですごい男なのかもしれない。

 女性の問題に対しては常に真剣に挑むのだ。男とはえらい違いである。



 そんなことで悩むアンシュラオンに、プライリーラは首を振る。


「まったく、君って男は清々しいまでに女性のことしか考えていないんだな」

「そうだよ。男として生まれた以上はしょうがないね。オレは欲望に忠実なんだ。しかしまあ、プライリーラも随分と慣れてきたね。じゃあ、次はパイズリでもお願いしようかな?」

「またかい。そんなに気持ちいいのかな?」

「うん、とっても。プライリーラだって嫌いじゃないでしょう?」

「たしかに…自分でやるのは嫌いじゃないな。ふぅ、つい三日前まで処女だったのだが…全部君のせいだ」

「そういえばそうだったね。つまり君の中は、オレのマイボーイの形状にぴったりはまるように調教されたわけだ。実に素晴らしいよ。大満足だ」


 初めてがアンシュラオンであり、三日三晩どっぷりはめたので見事にJr色に染まったことだろう。

 男の支配的欲求がこれほど満たされることはない。感動である。


「負けた以上、喰われるのは仕方ない。受け入れるよ」

「そうそう、何事も諦めが肝心だよ。上手く立ち回れば挽回のチャンスもあるんだからさ」

「まだ君でよかったと言うべきかな。それにしても…綺麗な身体だよ。さわさわ、ちゅっちゅっ」


 プライリーラは、アンシュラオンの真っ白な身体を触り、キスをする。

 今ではそうした動作も手慣れたものになっていた。アンシュラオンも違和感なく受け入れる。


(最初は喚いて大変だったけど、だいぶ落ち着いてきたな。『険が取れた』って感じかな。男と女という生き物はシンプルなもんだ。肌と肌が触れ合えば、互いを簡単に受け入れることができるんだからさ)


 今のプライリーラは本来の落ち着きを取り戻していた。錯乱していた頃の彼女ではない。

 ただ、初めて会った時ともだいぶ違う。もっと穏やかで柔らかい感じがする。

 今までの彼女は戦獣乙女としての誇りが強く、ジングラス総裁として気を張って生きてきた。

 若くして社長になれば誰だって気負うし、性格がきつくなりがちになる。それと同じだ。

 彼女はまだまだ若いし、何より責任感が強かった。それが圧力になっていたのだ。



 が、アンシュラオンに負けたことで―――【解放】された。



 戦獣乙女という幻想と偶像は打ち砕かれ、ただのプライリーラになった。


 そのうえ処女と彼女の中に眠っていた―――【獣】を失った。


 獣は彼女そのものなので完全にいなくなることはないが、負け知らずだった御山の大将が負けてしおらしくなるように、暴風の獣の影響力もかなり落ちたようだ。

 結果として、より理知的に、より穏やかに、女性らしい側面が強調されてきた。

 荒々しい女性が好きな男ならば物足りないかもしれないが、従順な女性が好きなアンシュラオンからすれば、今の彼女のほうが綺麗で可愛く見える。


 むにゅんっ ぬるぬる


 肌を触れ合うことにも慣れ、こちらも手慣れた様子でアンシュラオンのものを胸で挟む。

 柔らかい感触で包み込まれたボーイは、とても満足そうだ。

 プライリーラはその体勢のままアンシュラオンを上目遣いで見る。


「これではもうお嫁にはいけない。こうなったら私と結婚する権利をあげよう」

「それってプライリーラが結婚したいだけじゃん。オレは結婚なんて無理だよ。サナとならいいけどね」

「君はシスコンでロリコンかね?」

「サナが特別なだけさ。自分が育てた子なら何歳でもいいよ。オレは自分のものを心から愛しているからね」


 アンシュラオンは姉も妹もどっちもOKである。それぞれ違う良さがある。

 そして、自分が育てるということに意味を見いだしている。そこに愛情を感じるのだ。

 だから仮にサナやラノアが何十年も経って年老いたとしても、自分が彼女たちに注ぐ愛情はまったく変わらない。そう断言できる。


「君という男は…不思議だな。ただの鬼畜にも思えるし、一方そういうところはとても懐と情が深い。判断に困る」

「無理に頭で考えるからさ。感覚や感情を大切にしたほうがいいよ。結局、最後に頼るのはそこだしね。どんなに金持ちの結婚相手だって、自分と相性が悪ければつまらない人生を送るだけさ」

「私が相手ではつまらないと?」

「今のままならね。君がジングラスを捨ててオレのスレイブになるなら、身内に入れてあげてもいいけど…どうせ捨てられないでしょう?」

「…それは……そうだな。戦獣乙女を失ってもジングラスは捨てられない。…家族だからね」

「そうか。…名残惜しいけど、そろそろ終わりにしようか。サナ、行こう」

「…こくり」


 ざぱんっ

 アンシュラオンとサナは風呂を出て、着替え始める。

 もう十分出したので満足した。交尾はもういいだろう。


「ほら、プライリーラも着替えなよ。予備の服しかないけどね」

「成人女性用の服を持ち歩いているのかい?」

「まあね。いつ何があるかわからないしね。下着もあるよ。突然パンツが破れるかもしれないし」


 謎の現象である。いきなり破けたら怖い。

 というのは冗談にしても、ここは未開発の地域なので何かの拍子で服が破ける可能性はある。


 アンシュラオンが出したのは極めて普通の白いワンピース。下着も白だ。


 もしサリータが戦闘で服が破けたら、これを着せてみようかと思って入手しておいたものだ。

 彼女は嫌がるだろうが、美人なので何でも似合うだろう。が、今のところ機会がないので倉庫に突っ込んであったものだ。


 ちなみにプライリーラのポケット倉庫は、アンシュラオンとの戦いで完全に消失してしまったらしい。

 ポケット倉庫が壊れると術式が崩壊し、基本的には中身がその場でぶちまけられるという。

 ただ、あまりに強い力が衝突すると術式事故を起こして、そのまま消失する可能性もゼロではない。

 今回はアンシュラオンの力が強すぎた結果、消失という自体になってしまったようだ。


(…案外怖い情報だよな。オレもポケット倉庫に頼りすぎないようにしよう。そう考えると金庫とかも必要かもな)


 今のところ重要なものは持っていないが、不安になるものだ。

 せいぜいハンター証くらいだが、あんなものはいつでも再発行できる。問題は金品の類だろう。

 金のためにいろいろとやっているのだ。その金を失ったら意味がない。

 ハローワークで預けてはいるものの、通帳がなくて緊急時にすぐに引き出せないと困る。


 そんなことを考えている間にプライリーラがワンピースに着替え終わる。


「こういう服はあまり着ないな。こんな普通の姿は他人に見せられないよ」

「そのほうが女の子らしいよ。人気が出るかもね」

「人気…か。いまさら、そんなものはどうでもいいよ。それで、これからどうするつもりだい? まだ我々から奪うつもりかな?」

「オレに敵対しないのならば、これ以上ジングラスと関わるつもりはないかな。君との交わりだって、あくまで契約の範囲内でやったものだ。あとは輸送船をもらって、君が雲隠れすれば終わりだ」

「そのあたりは義理堅いのだね」

「生粋の強盗稼業じゃないしね。本当にそうするなら誰も生かしてはおかないよ。全部もらうグマシカには死んでもらう予定だけどね」

「そうか…君と本格的な敵対関係でなくてよかったよ」

「そうだね。少なくとも君はオレに対して好意的に接した。それは英断だった。だから、できるだけのことはしよう。ついておいで。アーブスラットの様子を見に行こう」

「っ! 爺は…生きているのか!?」

「君があまりに泣き叫ぶから、かわいそうになってね。好きな女の子をいじめるのは嫌いじゃないけど、やりすぎるのも萎える。女の子は笑っているほうが可愛いだろう?」


 獣が消えた時の彼女の狼狽ぶりは相当なものだった。

 それはそれで興奮したものだが、そこまでやるのはかわいそうに思える。

 そのため彼女と交わっている間に遠隔操作で十字架の中身を確認していた。


 その結果―――まだ息があることが判明。


(そういえば、あいつのスキルを封じるために、オレの命気を張り付けておいたんだよな。あの凍結状態で、よく養分にできたもんだな。さすがにしぶといね)


 瀕死状態のアーブスラットはその命気を体内に取り込み、生存に必要な心臓と脳、血管などを重点的に保護したまま眠りに入っていた。

 いわゆるコールドスリープというものだ。

 なかなか現実では難しい話だが、精子の冷凍保存などが行われているように不可能ではない。

 武人という強靭な生命力を持つ者だからこそ成し得ることができたのだろう。そのあたりはさすがである。

 現在はアンシュラオンによって十字架内部は命気で満たされており、延命措置が図られている。さらに切断された箇所もつなげてある。

 まだ彼には死んでもらっては困るのだ。困る理由ができた。この三日間で。


(プライリーラにはアーブスラットが必要だ。オレがいない間、彼女を守ってもらわないとな)


 プライリーラのことは気に入っている。姉以外でここまで性的欲求を満たすことができる貴重な人材だ。

 単純に嫌いではないのだ。もともと魅力に溢れた素敵な女性であるし、肌を重ねた相手に情が移ったこともある。

 本当ならばスレイブにしたいところだが、さすがにジングラス当主という立場では難しい。今のアンシュラオンでは養えない、という意味でだ。


(まだシャイナ程度でてこずっている状況じゃな…。そのうち都市が落ち着いたら考えればいいや。それまでは守ってやらないとな)




 アンシュラオンとサナ、プライリーラの三人は、氷の十字架に向かう。

 今は夜であるが、月明かりに照らされて今でも十字架は美しく輝いていた。


「じゃあ、解放するよ」


 ぱちんっ ボロボロボロッ


 アンシュラオンが指を鳴らすと、十字架が崩れる。


「爺っ!!」


 どさっ

 一緒に落ちてきたアーブスラットをプライリーラがキャッチする。


「ううっ…」


 ふらふら どすんっ

 その衝撃でプライリーラも倒れてしまった。

 彼女は命気水に浸かっていたとはいえ、暴れると困るので中身まで回復させてはいない。

 まだ身体はアンシュラオンにボロクソにされた状態のままなのだ。常時気だるい疲労状態である。こうなるのも仕方がない。

 それでもアーブスラットを大切そうに抱きしめ、頬に手を当てる。

 氷から解放されたばかりの老執事はまだ冷たく、意識が戻らない。


「爺っ! 爺っ!! しっかりしろ!! ああ、こんなになってしまって…」


 アーブスラットは一気に老化が進み、もともと初老といった様相だったものが、八十歳くらいの見た目になっていた。

 これもユニークスキルを限界まで使った代償だ。

 しかし以前のような張りはないものの、その中に強さと気高さが宿っていることには変わらない。


「大丈夫。傷は塞いだし、まだまだ生きているよ。そのじいさんは強い。それは君が一番よくわかっていることだろう?」

「ああ、ああ、そうだ! 爺は…強い。ずっと私を守ってくれていたのだからな! 爺、ありがとう…本当に…ありがとう…」


 プライリーラは涙を流して老執事を抱きしめる。

 そこには家族に対する愛情だけがあった。こうして見ると普通の女性と変わらない。


「君にそこまで慕われるんだ。じいさんも幸せだ。それじゃ、ここでお別れだね。あとのことは自分たちで何とかしなよ。一緒に戻ったらおかしいしね」

「別れるのか? 私をあんなに犯しておいて? 結婚もせずにか?」

「いやいや、ソブカを狙っていたんじゃないの?」

「こんなにされたら…好きになってもおかしくはないさ。身体は君を求めているしね。アンシュラオンだってそうじゃないのかな?」

「たいした女性だ。それくらい図太いほうが君らしいよ。ただ、そういう重い話は落ち着いてからにしよう。それより都市には戻らないほうがいいね。このままどこか安全な場所に雲隠れすることを勧めるよ」

「いきなり当主がいなくなればグループが動揺する。…一度は戻らねばならない」

「総裁ってのは大変だね。そうするにしても、できるだけ目立たない方法を選ぶべきだ。今の君は力を大きく失っている。武具も失くし、守護者はもういない。アーブスラットだって、すぐに戦える状態には戻らない。十分気をつけることだね。一応、万一のために術具は少し置いていくよ。魔獣にやられたら困るし」

「…優しいな。アンシュラオンは」

「好きな相手にだけはね」

「これが輸送船のキーだ。持っていくといい」


 プライリーラがアーブスラットのポケット倉庫からキーを取り出す。

 彼のものは無事だったようだ。凍結させたことが幸いしたらしい。


「輸送船くらい、べつにいいよ。むしろ君たちのほうが必要だろう?」

「いや、これはケジメだ。約束した以上、もらってくれ。それにジングラスの輸送船はまだある。君だって見ただろう?」

「…そっか。わかった。もらっておくよ。じゃあ…名残惜しいけど…またね」

「ああ…また…会おう」



 そっと手を触れ合わせてから―――離れる。



 まるで恋人同士のワンシーンのようだが、この三日三晩ずっと交じり合っていたのだ。

 初めて自分と普通に交わることができた女性である。サナとは違う愛情を感じてもおかしくはない。

 プライリーラも獣を宿していたほどの女性だ。自分より強い獣を持つアンシュラオンに惹かれるのも無理はない。


 しかし、二人の道は―――交わらない。


(誰かを好きになる…か。今までそんなことを考えたことはなかったよ。オレの中にあったのは姉ちゃんくらいだったし。だが、オレにはサナがいる。二人も背負えないな)


 今までの経験から、本当に好きなものは二つは作らないようにしている。

 二兎を追う者は一兎も得ず、とはいうが、それは真実である。

 いざというときに自分が守れるのは一つしかない。漫画のように二つ同時に守れるなんてことはないのだ。


 ならば―――サナを守る。


 一度愛した存在に対しては、自分からは絶対に裏切らない。

 それもまた自分自身に課した誓約である。


「サナ、行こう」

「…こくり」


 とことことこっ

 アンシュラオンはサナの手を引きながら、夜の荒野に消えていった。

 サナの温もりを噛み締めながら。




312話 「『この男に輸送船を与えるとこうなる』の巻 前編」


(気が付いたら三日経っていたな。あれからもう四日目か)


 太陽が昇り始め、アンシュラオンはその輝きに目を細める。

 まさに三日三晩やり続け、気付けば四日目の朝が来ていた。

 こんなに長居するつもりはなかったのだが、プライリーラがあまりに気持ちよかったので仕方がない。

 ただ、これだけ留守にすれば都市内部の情勢に変化があるかもしれないので、まずはグラス・ギースに戻ることを優先する。


(ジングラスの戦力も削ったし、ホワイト商会としてのオレの役割も終わりかな。そろそろ後始末をしないといけないな)


 アンシュラオンの役割は、敵勢力の戦力を削ぐことにある。

 今までの戦いによって、ハングラスとジングラスの戦力は事実上壊滅状態となっている。

 一番の敵であるマングラスは残っているが、グマシカの性格を知った今では、それもまた想定通りだ。

 プライリーラが負けたことは遅かれ早かれ伝わるはずなので、腰の重いマングラス側も必ず動いてくるはずだ。

 もしかしたら、すでに動いている可能性もある。

 三日以上も音沙汰がなければ不審がる者もいるだろうし、あれだけの戦いである。遠くから異変に気付く者もいるだろう。

 戦獣乙女のプライリーラの存在は大きい。彼女がいなくなれば、これより事態は急速に動いていくはずだ。



 それは同時に―――ホワイト商会の終わりが近いことを意味する。



(グマシカが動く動かないにかかわらず、これで終わりでいいか。あとはソブカ次第だな。さて、それよりだ。もう一つのお楽しみタイムが始まるぞ!)


 アンシュラオンはキーをくるくると回しながら、非常に嬉しそうに輸送船に向かって歩いていく。

 プライリーラの帆船を見た時から、いや、ガンプドルフの戦艦やダビアのクルマを見た時からずっと気になっていたのだ。


 いつかは自分のクルマや船が欲しい、と。


 それがいきなり輸送船になるとは思わなかったが、ずっと夢だったものである。嬉しくないわけがない。




 しばらく歩くと輸送船が見えてきた。

 離れた場所で戦っていたので船は無事だったようだ。白く美しい外観が朝日の光を受けて輝いている。

 こうして改めて見ると船を手に入れた実感が湧いてくる。


「うおー! オレの船だ!! まだ何もないけど、それがいいんだよ。これを改造してちょっとずつ強くするのがいいんだ!」


 物を運ぶだけの輸送船であるため船体は何もないほぼ真四角であり、本物の戦艦や武装商船と比べると遥かに見劣りする。

 それでも初めて手に入れた船である。感動もひとしおだ。

 何事も最初に手に入れたクルマというのは、何かが足りないものである。

 赤いクルマを持つハンターが砲身だけ奪っていって、主人公はとりあえず副砲だけでがんばるというのはクルマ作品の定番である。


「あそこを削って主砲を付けたいな。それとも屋根に載せるか? 副砲は必要だろうし…どこに穴をあけようかな。うーん、考えるだけで楽しいぞ!!」




 いろいろな改造案を考えながら輸送船に向かう。

 少しずつ全体が見えてくると、そのクルマの近くに誰かがいるのがわかった。


「あっ、マタゾーだ」


 輸送船の傍にはマタゾーが立っていた。

 どうやら回復が終わって自力でここまでやってきたようだ。

 アンシュラオンが輸送船に興味を示していたので、いつかここに戻ってくると思ったのだろう。なかなか頭の良い男だ。


 アンシュラオンはマタゾーに近寄り、話しかける。


「よっ、生きていたか」

「はい。おかげさまで生きながらえました」

「傷はどうなった? だいぶ欠損部分も治ったようだが…完全ではなさそうだな」

「腕は治りましたが、左目の視力は半分程度でしょうか。それでも見えるだけ御の字でござる。助けていただいた黒姫殿にも感謝いたす」

「…こくり」


 マタゾーの左目の色が、右目と違って白内障のように白く濁っている。

 防御の戦気なしで爆発の直撃を受けたので、この部分の欠損が特に激しかったのだ。

 ちなみに今は天蓋が壊れているので素顔である。

 思えば彼の顔の描写はほとんどなかったが、素の顔は…はっきり言えばブサイクである。

 昔の劇画調漫画に出てきそうな濃い顔つきかつ、坊主なので頭は剃り上げており、その四角い形がくっきりと浮き出ているからけっこう目立つ。

 戦罪者になるくらいなので威圧感も強く、「この顔を見たら110番」と掲示板に貼られそうな人相である。

 だが、人相と強さはまったく関係ないので、彼自身は一度たりとも気にしたことはないだろう。彼が求めるのは純粋な強さのみである。


「お前はサナを命がけで守った。望むなら時間をかけて修復してやるが、どうする?」

「問題ありませぬ。武闘者たるもの、いつも万全の状態とは限りません。その中で全力を尽くしましょう。失ったからこそ得るものもあるでござろう」

「そうか。それもまた正しい生き方だな」


 武人の中には失明してから強くなった者もいるので、一概にハンデとは言い切れない。

 人間の身体はよく出来ている。目が見えなくなれば聴力が高まり、今まで見えなかった世界が現出するものだ。

 それによって新しい才能が開拓される。追い詰められれば追い詰められるほど、人間は強くなっていくのだ。

 それに、片目がよく見えないから戦えない、などという言い訳は武人には通じない。

 戦場では怪我をするのが当然であり、その中で対処できない者から死んでいく。

 皮肉なことだが、むしろ弱っているからこそ細心の注意を払い、生存率が向上することもあるのだ。


「ところでオヤジ殿、あの執事の御仁はどうなったでござるか?」

「ああ、倒したよ。プライリーラがかわいそうだから助けてやったが、まあまあ強かったな。たしかにあれじゃ、お前は勝てない。負けた件は許してやる」

「あれほどの強者を軽々と倒すとは…さすがでござるな」

「お前たちが弱すぎるだけさ。それよりあとでサナの戦いぶりを詳しく教えろよ。今後の育成の参考にするからな」

「承知」

「では、せっかくもらった輸送船だ! これでグラス・ギースに帰るぞ!!」



 マタゾーと合流したアンシュラオンは、さっそく輸送船に乗り込もうとする。


 そして、ハッチを開けるのだが―――



 むわぁぁあんっ



「うっ!! くさっ!?」


 何か形容しがたい臭いが鼻をつく。


「…むにっ」


 サナも鼻をつまんでいるので臭いのは間違いないようだ。

 だが、入らないわけにもいかず、致し方なく中に入って様子をうかがう。


 中は帆船と同じく、大きな倉庫状の空間が広がっているだけだった。

 輸送船なのだから、ジュエルエンジンと運転室以外はすべて倉庫である。しかし、特に何かを積んでいる様子はない。


「何もないが…やはり臭うな。なんだこれ? 何の臭いだ?」


 輸送船はしばらく放置されていたので空気がこもっている。多少の臭いがするのは仕方ないだろう。

 だが、それだけでは説明できない臭いがする。これは明らかに何かの臭いだ。

 そのヒントになるものに最初に気付いたのは、マタゾーだった。


「オヤジ殿、あちらに大量の『干し草』があるでござるよ」

「干し草だと? なんでそんなものが…」

「こちらには野菜が積まれたケースがありますな」

「野菜…? なんで野菜が? 食糧か?」

「人間に干し草は必要ありませぬ。なればこれは…厩舎《きゅうしゃ》なのでは?」

「厩舎? 厩舎ってのは馬を管理する場所のことか? 馬…? 馬ってまさか…!!」

「ですな。あの大きな馬が住んでいた場所のようです。すんすん。この干し草がかなり臭いますな。おそらくはこれが寝床でござる」

「な、なにぃいいいいいいいいいいいっ!! この臭いは、あの馬のか!!」

「あれは守護者という秘匿された存在だったのでござろう? この輸送船が家だった可能性が高いですな」

「たしかに普通の場所で飼うのは難しいだろうが…ここが…そうなのか? じゃあオレは、馬小屋をもらったってことかよぉおおおおおおお!! 最初に言ってくれよぉおおおお!!」


 こうしてショックな事実と、臭い原因が判明。


 この臭いは―――ギロードのものであった。


 馬という生き物は、太陽が降り注ぐ草原で暮らしていることが多いので、基本的に臭いというわけではない。むしろ草の匂いがして、いい匂いと感じる人も多いようだ。

 臭さの大半は糞尿なので、もし臭いとすれば厩舎の管理に問題があるのだろう。

 しかし、この輸送船はしっかりと掃除されているようなので、そこまで不衛生とは思えない。

 ただ、一つだけ思い当たることがある。


(あの馬は【包帯】で巻かれていたな。もしかして…あれの臭いか? 蒸れないように薬品とかも使っていそうだしな…)


 ギロードは術式包帯で力を封じられていた。どれだけの時間、あの状態だったのかはわからないが、いくら魔獣とはいえずっと巻いているのはつらいだろう。

 そのストレスを緩和させるために薬品を使っていた可能性もある。実際、医者に行った時のような消毒液系の匂いも混ざっている。


 さらにこの輸送船は、ギロードの住処であった。

 あんな魔獣を都市内部で飼うわけにもいかない。そのまま外で飼うにしても他の人間や魔獣と接触あるいは交戦する可能性も否めない。

 風龍馬がこのあたりの魔獣に負けることはないはずだが、秘匿性を保つために簡単に外に出すわけにはいかなかったのだろう。

 となれば専用の馬小屋が必要になる。

 そこで抜擢されたのが、この輸送船というわけだ。これはプライリーラの私物であり、何に使っても文句は言われないものである。

 だからあんなに気軽にくれたのだ。


 では、なぜそのことをアンシュラオンに言わなかったのかといえば、彼女からすれば馬と一緒に暮らすのは自然だからだ。


 たとえば愛犬家は、犬と一緒に暮らすのが当たり前になりすぎて、犬の臭いに気付かなかったりする。

 しかし、普段犬と接しない他人が家に遊びに行くと「なんだこの臭いは!?」と驚くことがある。これは猫や他の動物でも同じだろう。

 彼女にとってはありふれた臭いでも、馴染みがないアンシュラオンたちには臭いのだ。

 どちらにせよ、臭い。

 何にしても、臭い。


 ここは―――臭い!!



「くそっ、掃除だ! 掃除!! 徹底的に洗うぞ!! こんな場所にサナを置いてはおけない!! 水気で一気に焼き払ってやる!!」

「ところでオヤジ殿」

「なんだ? まだ何かあったのか?」

「いえ、ふと思ったでござるが…この輸送船はどこに停める予定ですかな?」

「は?」

「拙僧の記憶では、都市内部には持っていけないでござる。置くスペースも内部にはなかったようでござるし…どうするのかと思ったでござる。まあ、オヤジ殿のこと。何か考えがあってのことでござろうが…」

「………」


 アンシュラオンは黙り、しばし考える。

 いつもならば「当然だ。すべてはオレの思った通りだ!」と言い張るのだが、今は何も言えない。


 なぜならば―――完全に盲点だったから。



(しまった!! 置く場所を考えていなかった! そりゃそうだよ! こんな大きなもんだ。置く場所がないと駄目じゃんか!)


 家に駐車場がないのに車を手に入れた気分である。

 よく芸能人が景品で車をもらったという話を聞くが、駐車場がなかったので売ってしまった、という話も同様に聞く。

 輸送船ならば、なおさらのこと。

 当然、邪魔だ。激しく邪魔だ。普通のクルマの数倍邪魔だ。

 そもそも輸送するものがないので精神的につらい。一般家庭の営業マンが大型トラックを手に入れても困るだろう。

 さらに管理維持費用もかかる。荒野に置いておけば誰かに奪われるかもしれないというリスクもあるので、安全な場所を確保しなければならない。

 とどめにジングラスの家紋入りである。

 このままでは問題なので、これもあとで削らないといけないだろう。面倒な問題が山積みである。


(くっそっー、思いつきだけで言うんじゃなかった。思えばもっと必要なものもたくさんあったのに…オレってやつはどうしてこうなんだ!! だが、後悔はしないぞ!! あの時は欲しかったんだ!)


 男は武器や戦艦には夢中になるものだ。これは仕方なかったのだ。

 一度決めたことは貫き通す。それが男の生きざまであろう。


 よって、掃除の開始だ。



 ジュオオオオッ



 アンシュラオンが輸送船の扉を全開にして、内部を一気に水気で洗い流す。

 どこまでやっていいのか迷うが、この臭いの中で暮らすことは不可能なので徹底的に洗う。


 三十分後、船内にあったものはすべて撤去されて綺麗になった。


 床や壁も表面をかなり削ったので塗装が剥げてしまったが、これはまた改めて貼り直せばいいだろう。今は臭いをなくすことが優先である。


「ふぅ…ようやく綺麗になったか。それじゃ試運転といくか」


 アンシュラオンは運転室に行く。

 さすがの大きさなので、普通のクルマと違って運転室は船内の二階部分にあった。

 階段を上り、大きな扉をあけて中に入ってシートに座る。


(うーん、操作方法はトラクターとほとんど同じだな。この世界のクルマは簡略化されていて楽だな)


 オートマチック車のようにクラッチ自体がなく、単純にハンドルとアクセルとブレーキしかない。

 動力が風力ジュエルなので、アクセルを押し続ければ勝手に出力が上がって速くなる。止めたければブレーキを押せばいい。

 これならば誰でも運転ができるだろう。手で操作するのでサナにだって動かせそうだ。

 アンシュラオンは運転席に座り、外を眺める。


 見渡す限り荒野だ。日本のように狭い道路など存在しない。素晴らしい開放感である。

 ここなら遠慮なく飛ばせるだろう。



「良い眺めだ。よし!! グラス・ギースに出発だ!!」



 こうして輸送船で帰路に着くのだが、まさかこの数時間後に輸送船を失うことになるとは、この段階では夢にも思っていなかっただろう。




313話 「『この男に輸送船を与えるとこうなる』の巻 後編」


 ブロロロロッ

 輸送船は荒野を進む。

 かなりの大きさなので加速力はないが、スピードに乗れば最大で百キロ以上の速度は出るようだ。

 低木くらいならばバキバキと破壊して進めるので、なかなか爽快である。(船体が傷つくので普通はできるだけ避けるが、アンシュラオンは気にしない)


 しかもさきほど、『こんなもの』を発見した。


 厳重に強化ガラスで保護されたレバーである。

 ちょうど足元に解説書があったので読んでみたが、予想していた通りのものであった。


(やはり【速度リミッター】か。安全のためにこれ以上出ないようにしているんだ。地球の大型トラックと同じ仕組みだな)


 この輸送船には、どうやらリミッターが設置されているようだ。

 日本でも大型トラックの事故が相次いだ結果、一定速度以上に出ないように制限がかけられている。

 中には違法覚悟で取り外す業者もいるが、あくまで安全のためにあるので守ったほうがいいだろう。

 ただ、こういった商業船に関していえば、リミッターよりも「ブースター」とでも呼んだほうが正確かもしれない。


(なるほどなるほど、雷のジュエルも搭載しているのか。風と雷を反発させて一気に急加速する仕組みなんだな。輸送速度を上げるというより、魔獣に襲われた際の【緊急脱出装置】だな)


 仕組みは簡単だ。風と雷の反発する性質を利用して、リニアモーターのように加速するようだ。

 想定上では、一時的とはいえ三百キロ近い速度が出るらしい。

 しかしながら、あくまで緊急用ブースターだ。こんな大きなものが急加速すれば至る所にダメージが蓄積し、最悪はそのまま大破もありえる。

 一番最悪なのは自壊よりも制御不能になることであり、そのまま都市や街に突っ込むことだ。

 よく地球でも店に車が飛び込むニュースがあるが、どの世界でも事情は同じらしい。クルマは凶器。それを忘れてはならない。

 そのため使用には細心の注意が必要であると書かれている。


(まあ、スピード狂ってわけじゃないし、いくらオレだって安易に使わないさ。ただ、ちょっとノロいよな。オレとしてはダビアのクルマみたいなやつでよかったんだ。輸送船をもらっても使い道がないんだよなぁ。いっそのこと、ここを拠点にするかな)


 帆船の中でも考えたことだが移動用の拠点も悪くない。この中で暮らす生活にも憧れる。

 というよりは、それしか使い道がないのだ。

 金庫にするにも船ごと盗まれる危険があるし、輸送するほどの物資もない。いまさら運送屋もできないだろう。


(もらった以上、どうにかするしかないが…どこに置こう。ううむ、最悪は第三城壁の外にでも置いておくか。野ざらしだが仕方ないよな。…と、あれは何だ? 魔獣か?)


 置き場所に不安を感じながら走行していると、前方にワイルダーインパスの群れを発見した。

 さらに後ろからはエジルジャガーの群れが追い立てている。どうやら狩りをしているようだ。


(あいつら、どこにでもいるな。どっちも食物連鎖の下層にいるから数も多いんだろうな。…ふむ、せっかく出会ったんだ。ちょっとからかってやろうかな)


 狩りは非常に重要なものなので、邪魔をされればどんな魔獣だって激怒するはずだ。

 デアンカ・ギースだって怒ったのだ。エジルジャガーだって怒るだろう。


 ここでアンシュラオンの悪い癖が出る。


 誰かの邪魔をして怒らせるのが好きな男である。火怨山時代も、よく魔獣に嫌がらせをして楽しんだものだ。

 この行為にまったく意味はない。単なる気まぐれであり趣味である。たまたま見かけたから、なんとなく殴ってみるだけのことである。


 そのノリで徐々に輸送船を彼らに近づけていく。


 ブロロロロロッ


 こちらが近寄るとワイルダーインパスもエジルジャガーも微妙に進路を変更して遠ざかろうとする。

 彼らは特に人間のクルマに攻撃を仕掛けたりしないようだ。もっとも、自分たちよりも大きな輸送船なのだから当然といえば当然である。

 動物は自分より大きな相手を怖れるものだ。あえて近寄ろうとする必要がない。

 その習性を利用して、彼らを少しずつ岩石地帯の方角に誘導していく。



 そしてしばらく進むと、ちょうどよい岩山があった。

 この荒野にしてみれば石ころ程度の存在だが、人間からすれば高さ数百メートルもある巨大な岩山が数十キロに渡って連なっている。

 輸送船と魔獣は互いに距離を維持しつつ岩山に登っていく。

 彼らからすれば、なぜか船が追いかけてくるので距離を取っていたら、いつの間にかここに追い立てられていた、という状況である。

 そのまま岩山を進んでいくと、左側に切り立った大きな崖があった。


(いい場所じゃないか。にやり)


 アンシュラオンは不気味な笑みを浮かべると、彼らをその壁に押しやっていく。


 つまり現状を図で示すとこうだ。



 |岩壁 ― ワイルダーインパス ― エジルジャガー ― 輸送船 ― 岩壁|



 文字で表現すると見づらいが、両側に壁がある場所であり、逃げ道は前後しかない。

 エジルジャガーの一部は右側に多少膨らんで、ワイルダーインパスを囲むように併走している。

 だが、狩りをしているはずのエジルジャガーの背後にはもっと凶悪な存在がいる構図である。


(くくく、馬鹿め。本当は自分たちのほうが追い込まれているとも知らずに呑気なものだ。見てろ! 目にもの見せてくれるわ!!)


 ブオオオオオオオオッ!!



 突如輸送船が急接近し―――幅寄せ。



 魔獣は背後から迫ってきた輸送船を回避しようと左側に寄るが、並んだと思ったら今度は、その大きな船体で圧力をかけてきた。


 昨今話題にされている「あおり運転」である。


 これは非常に危険な行為であるので絶対に真似をしてはならない。

 当然、エジルジャガーは困惑する。


「グルルッ!?(なんか寄ってくるぞ!)」

「グルッ! バウッ!(何だあれ? でっけえ!)」

「グウウッ!(やばいぞ! 速度を落とせ!)」


 なぜか幅寄せをされたエジルジャガーは、驚いて速度を落とす。

 獲物は惜しいが、得体の知れないものが接近するほうが危ない。慌てて減速である。

 だが、なぜか輸送船も減速して、さらに自分たちに圧力をかけてくる。


「グルルッ!?(どうなってんだ!? なんかついてくるぞ!)」

「グル! グルルッ!(こいつ絶対やばいって! 逃げようぜ!)」



「くくくっ! 待てよぉーー。置いていくなよぉ〜〜ゲラゲラゲラ!」


 ブオオオッ ブオオオッ

 必死に逃げようとするエジルジャガーに執拗に幅寄せをして楽しむ。


「おっと、お前たちも逃げるんじゃない」


 この混乱に乗じてワイルダーインパスは逃げようとするが、こちらも簡単に逃がしてはつまらない。

 ギュウウウウウンッ

 アクセルを限界まで踏み込んで加速。


 ブウウウウウッ ブウウウウッ ぐしゃっ!


 群れの後方にいたワイルダーインパスを巻き込んで、潰す。

 輸送船は地上から八十センチ程度浮いているので、その隙間に巻き込んで引きずる感じだ。


 ズリズリズリズリッ ぐじゃぐじゃぐじゃぐじゃっ!


 地面との摩擦で削れ、ワイルダーインパスが挽き肉になっていく。

 その様子は運転席からは見えないので残念であるが、波動円を使えばどうなったかはわかるので、それなりに楽しめる。



「くっふーーー! たのしーーー! クルマって最高!!」


 一番やってはいけないクルマの使い方である。

 クルマに乗ると性格が変わるという話があるが、その多くは普段のストレスが暴走して起きるものだ。

 しかしアンシュラオンの場合、最初からこういう性格なので何も変わっていない。単に凶器が肉体からクルマに変わっただけだ。


 その犠牲になるのは―――哀れなる魔獣たち。


 そしてこの瞬間、奇跡が起こった。



ワイルダーインパス:「ブルルッ!(逃げるのよ!! もっと早く!!)」

エジルジャガー  :「ガルルルッ!!(殺されるぞ! 逃げろーー!)」



 共通の敵を得た彼らは、食物連鎖の壁を越えて一緒になって逃げ出したのだ。

 肉食獣と草食動物が一緒になっても争わない。なんという奇跡だろうか。

 いや、なんという悪夢だろうか。

 彼らにとっては食事や生活どころではないのだ。もっと明確な危険が迫っていることがわかる。明らかな悪意を感じるからだ。

 魔獣たちは全力で逃げ出す。


「くっくっく! オレから逃げられると思うなよ!!」


 ブオオオオオオッ

 輸送船は追う。執拗に追う。

 この時の魔獣の恐怖たるや、いかほどのものだったのか。目を血走らせながら決死の逃避行を演じる。

 さすが魔獣だ。本気を出すと時速百キロ以上も出る。

 中には弱い個体もいたので数匹は轢き殺すことに成功したが、多くには逃げられそうだ。


「ちっ、遅いな。これじゃ逃げられるじゃないか! …そうだ! こいつがあった!! いけぇええええ! ブーーースト・オンッ!!!」


 ばりんっ!! ぐいっ!!

 アンシュラオンがリミッター解除のレバーを引っ張る。

 どのみち一度使ってみないといけなかったので、これ幸いと躊躇なく発動させたのだ。

 目的はともかく試運転という意味では間違ってはいない判断だ。どの程度の性能かを実際に知っていたほうがいいだろう。



 だがこれが―――悲劇をもたらす。



 ブブウウウウッ ブオオオオオオオオオオッ!!!


 リミッターが解除された輸送船は、思った以上の加速力で一気に速度を上げる。

 あっという間に二百キロに達し、さらに伸びようとする。


「おおお! 速いじゃんか!! いけーーー! やっちまえぇえ! ひゃっはーーー!!」


 ブチブチブチッ! ドガシャッ! ドッガンッ!


 輸送船が魔獣と激突するたびに軽い衝撃が走り、船体が傷ついていく。

 だが、いまさらそんなことは気にしない。アンシュラオンにとって、これはもうダンプカーのノリなのである。

 何事もそうだが、他人からもらった物はあまり大切にしないものだ。自分で買ったわけではないので愛着もないし、気ままに楽しもうと思っている。

 だから全速フルスロットルで突っ走る。



 ブオオオオオオオッ!!


 一気に魔獣を追い込み、あと一息という時である。

 魔獣たちが丘を越えて、姿が見えなくなった。


「んなろ! 逃がすかぁ!!」


 アンシュラオンは何も考えずに突っ走る。

 だが、丘を駆け上がった瞬間、なぜ魔獣が消えたのかがわかった。



 そこは―――崖。



 もう断崖絶壁と呼ぶに相応しい完全なる崖であった。

 ふと下を見ると、ワイルダーインパスたちが転げ落ちていく光景が広がっていく。

 彼らは轢き殺されるよりは、多少ながらましな道を選択したのだ。まだ転落したほうが生き残る可能性が高いと思ったわけである。

 エジルジャガーはもともと岩場にも暮らしているので、足をガクブルさせながら岩場のでっぱりに必死にしがみついている。



 輸送船が―――宙に浮く。



 ようやくその状況を認識したアンシュラオンは、輸送船に語りかけた。



「うおおおおっ!! とべぇえええええええ!! お前ならやれる!! やれるはずだ!! 勇気を出して翼を広げろ!! ブレイブ!! ソウル!! ワンダホオオオオオオオオ!!」



 ジングラスの羽馬の紋章が描かれているといっても、輸送船が飛べるわけがない。

 昔は低スペックPCに「負けるな! 粘れ! お前ならやれる!」とか根性論をぶつけた時代もあったが、結局は機械なのでどうしようもない。

 最後は「あーーー! フリーズしたぁあああ!」となるのが落ちである。(今では性能が上がったのであまりないが)


 その後どうなったかは、語るまでもないだろう。



 そのまま―――落下。



 ヒューーーーーンッ ドゴーーーーーンッ!!!


 船体の前方から一直線に落下し、地面に激突する。

 追いかけていることに夢中で気付かなかったが、ここはすでに岩山の中腹に当たる場所だったので、二百メートルくらいの距離から落ちてしまう。

 これだけ大きな輸送船が落ちれば相当な衝撃である。一瞬、地震かと思うような振動が岩山に走った。

 唯一幸いだったのが、ガソリンなどの引火性燃料を使っていないため、それによって火災が発生しなかったことだ。

 風力エンジンは環境にも優しいのである。




 そして、中破した輸送船からアンシュラオンとサナが出てきた。


「うおー!! やっちまったぁああ!! サナ、大丈夫か!?」

「…こくり」


 当然アンシュラオンは無事である。サナもしっかり保護したので問題ない。

 ただ、倉庫で瞑想していたマタゾーが、その浮遊感を「今、拙僧は悟りを開いた」とか勘違いしていたのだが、そんなことはどうでもいい話だ。


 問題は船である。


 アンシュラオンが慌てて確認するが、思いきり船体が傾いており、頭から地面に突っ込んでフロント部分が完全にひしゃげている。

 まさに崖に真っ逆さまといった具合だ。これはJ〇Fでもどうしようもない。

 この事態にアンシュラオンは頭を抱えた。


「やっべええ! もらっていきなり壊したとか小学生以来じゃんか!! うおおお! ミニ四駆のトラウマがーーー!」


 昔、ミニ四駆の試運転をした直後、フロント部分を壁にぶつけて割ったことがある。あれは最悪だった。

 しかしながら実はそれは友達から借りたものだったので、本当に泣きたいのは友達だったはずだ。

 いつの時代でも、住んでいる星が変わってさえもやっていることは同じである。まるで成長がない男だ。


「こ、これくらいなら大丈夫だよな。なっ?」

「…こくり」

「うんうん、そうだよな。クルマは動けばいいんだ。動けば…」


 ただ、悪夢はこれで終わらない。


 ドドドドドドッ


 直後、地面が割れていくつもの【触手】が船体に絡みつく。

 ズズズズズズズズッ

 そして、そのまま地面に吸い込まれて消えてしまった。


「………」


 アンシュラオンは特にコメントを発せず、ただただその光景を見つめていた。

 何が起きたのかよくわからなかったのもあったが、まさかの追い討ちに言葉を失ったのだ。

 ここで何があったのかといえば、単なる食物連鎖の営みが発生したにすぎない。 


 崖下は砂場であり、ハブスモーキー〈砂喰鳥賊〉の縄張りであったらしい。


 そこにワイルダーインパスや、さきほどの衝撃で崖から落ちたエジルジャガーが集まったので、彼らを喰らおうと大型魔獣が殺到したのだ。

 大量に巨大イカが集まった結果、輸送船も巻き込まれて一緒に砂の中に呑み込まれたようだ。

 撒き餌は魔獣の狩場でアンシュラオンがやった作戦でもあったが、今回はまったく望んでいない結果となった。



 しばらく呆然としていたが、なんとか気持ちを切り替える。


「…まあ、しょうがないよな。どうせもらったものだ。他人の物をもらって浮かれるなんて、人間としてどうかと思うよ。なっ、サナ?」

「…こくり」

「じゃあ、行くか…」

「…こくり」


 アンシュラオンがやったことは―――自己弁護。


 最初から『なかったことにした』のだ。


 そんなものは何もなかった。輸送船なんて存在しなかった。それだけのことである。

 そう自分を納得させたアンシュラオンとサナは、静かに荒野に消えていった。もう歩いて帰るしかない。


 ちなみに輸送船の中にいたマタゾーは完全に忘れられており、その後なんとかハブスモーキーの狩場から抜け出して、自力でグラス・ギースに戻ったようである。

 やはり武闘者は逞しい。というか、彼が一番災難である。



 ただ、これで終わりではなかった。



 こうして輸送船をあっさり失ったアンシュラオンであったが、サナと一緒にグラス・ギースに戻ると、都市では異変が発生していた。


 東門では数多くの衛士とマキが待ち構えており―――



「アンシュラ……じゃなくて、ホワイト君。…君を拘束するわ」




 逮捕・拘束・投獄のコンボが待ち受けていた。





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