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「欠番覇王の異世界スレイブサーガ」

作者  園島義船



□ 第四章 「裏社会抗争」 編 第二幕 『激動の白』


221話 ー 230話




221話 「ソブカとプライリーラの会談 中編」


「君の言いたいことは、だいたい出揃ったようだね」

「ええ、一通りは」

「…そうか」

「何か間違っていますかねぇ?」

「いいや、問題はない。すべてその通りだろう。だが、足りないものがあるな」


 ソブカの言葉に嘘はない。すべて本当のことだ。

 貧困街も入植の件も懸念材料であり、けっして見過ごしてはおけないものである。

 しかしながら、これもアンシュラオンがよく使う手と同じだ。


 嘘はないが―――真実ではない。


 意図的に情報を統制して自分に不都合がないように編集する。あえてその要素と言葉を抜かす。政治家や団体がよくやる手法である。

 商談などでもよくあることなので、プライリーラはその手口を知っている。その手には乗らない。


「どうやら君はこの話題に触れたくないようだから、あえて私から訊くとしようか。正直に答えてほしいのだが…」


 プライリーラはすでにぬるくなってしまった紅茶を一口飲み、改めてソブカの目を見る。


 そして―――鋭い矢を放つ。



「君はホワイト商会と関係があるのかね?」



 プライリーラの目は極めて真剣だった。何一つ見逃さないようにとソブカを観察している。


(なるほど、これが本題でしたか。当然といえば当然ですが…相変わらず甘いですね。最初に問い詰めればよかったものを)


 おそらくこれが一番訊きたかったことなのだろう。そのためにわざわざここに呼んだのだ。

 ジングラスの総裁なのだからホワイト商会のことを知らないわけがない。なにせ今までの損害は彼らによって引き起こされたものだからだ。

 さきほどからタイミングの話をしていたのは、すべてこのため。ソブカとアンシュラオンの関係性を問いただすためである。

 ただ、プライリーラはやはり甘い。

 もしソブカならば、ジン・メイ商会がいた公衆の面前で問い詰めたことだろう。そもそも言い逃れなどできる状況ではないのだ。拘束などの強硬手段に出ることもできたはずだ。


(それをやらなかったのは、商会間の抗争には参加しないという戦獣乙女としての責任感か、あるいは旧友としての手加減か。どちらにせよ、そのあたりがまだ詰めが甘いですねぇ。これも武人としての力量があるからでしょうがね)


 プライリーラは武人として自分が優れていることを知っている。

 プロボクサーやプロレスラーが一般人に手出ししないように、自分の力を自覚している人間の多くは自制が利くものである。

 だからこそ【猶予期間】を設けることが多い。

 いざとなれば力づくで何とかなるので、それ以外の手段をすべて試そうとするのだ。もちろんこれが普通のやり方。アンシュラオンのように最初から暴力を振りかざすほうがおかしい。

 だが、それもまたソブカの想定内の出来事である。揉めた段階では博打ではあったが、おおかた予想していた通りに話が進んでいる。

 だからこそ慌てることなく予定されていた言葉を並べる。


「ホワイト商会ですか。名前は知っていますよ。最近、かなり暴れているそうですねぇ」

「ああ、我々の輸送隊も相当やられたよ。たしかに貧困街の人口増加は問題だが、それ以上にこちらが痛い。供給量が通常通りならば最低限の維持はできたのだからね」

「護衛は付けたのでしょう?」

「もちろんだ。しかし、すべて撃退されている。強力な裏スレイブもいるようだ。渡り狼程度では対応できないほど強いらしい」

「それは災難でしたねぇ」

「他人事のように言うが、君たちと関係性はないのか?」

「ない…と言いたいのですが、信じてはくれませんよねぇ」

「信じる…か」


 『信じる』という言葉にプライリーラは少し逡巡する。

 この場合、ソブカの性格という個人の問題ではなく、組織全体の話となってくるので今までとは意味合いが異なる。

 この信じるとは、キブカ商会を信じるかどうか、となる。

 ラングラスへの信頼であり、キブカ商会を今まで維持してきた者たちへの敬意であり、同じ城塞都市のグラス・マンサーとしてどうするか、という問題なのだ。


(信じるとは難しいものだ。そもそもすべてを信じていれば城壁など築かないのだしね)


 この世界にいると信じることが難しくなる。他者が信じられないからこそ人間は武装して身を守ることを考える。

 だが、そうした現象は閉鎖された城塞都市では破滅しか呼ばない。


「信じるしかない。それが唯一破滅を回避する方法だ。ここではそれがルールだ」

「ルール…ですか。そのルールのせいで今の硬質化が起こっていることも事実ですよ」

「そうかもしれないが、信じることは大切だ。相手に信じてもらうには自分から信じるしかない。それが道理だろう? そうやってグラス・ギースは都市を維持してきたんだ」

「それで裏切られたらどうします? あなたは多くのジングラス派の人間を抱えている身だ。代償は大きくなりますよ」

「君は私を陥れたいのか? それとも心配してくれているのか?」

「さて、どちらでしょうねぇ。個人としては心配しています」

「では、組織としては陥れたいのかな?」

「穿った見方ですねぇ。一般論として述べたまでです」

「君の一般論こそ、いまいち信用できないな。常にこちらを惑わそうとするからね。結局、君は本心を語らないままだ」


 ソブカは簡単に相手が結論を出すのを許さない。二つの可能性を常に提示して揺さぶってくる。

 それが自分にとって有利な結論であっても、あえてそうすることで相手の不安を増大させるのだ。同時に自分の思惑を隠すやり方である。

 心が弱い人間ならばその手法に見事引っかかり、知らずのうちに誘導されてしまうので注意が必要だ。

 だが、それを知っていれば対処は可能である。


「はっきりと答えてもらおうか。彼らと関係はあるのか? ここで明言してもらいたい。なんなら一筆書いてもらおうかな。それが一番確実だよ。当然、虚偽だったら代償を支払ってもらうよ」

「そう言われると困りますねぇ。あなたが言ったように百の現象などありえませんし」

「それで誤魔化されるほど私はウブではないよ。さあ、答えてもらおうか。はっきり、すっきり、どっしり、ばっしり、くっきりとね」

「どっしりは違うのでは?」

「それだけ重みがある発言だということさ。よくよく注意して語るべきだね」

「仕方ないですね。…ホワイト商会はソイド商会と関係を持っている組織ですので、キブカ商会とは直接は関係ありません。ですが、ラングラス一派と関係しているのかと問われれば、間接的には関係している、としか言いようがありません。我々からすればソイド商会の『末端関連組織』といった扱いですしね」

「ソイド商会…ソイドビッグがいる商会か。たしか麻薬の製造販売が仕事だったね。なぜホワイト商会と関係を持ったのかな?」

「もともとホワイトは医者でしたからね。その取引で接触したのでしょう」

「その話はこちらも聞いている。ソイド商会が彼らに資金提供をしていることもね。その真意はどこにある?」

「むろん彼らも意図したことではないはずです。医者と麻薬組織の癒着はよくあることですしね。たまたま接触した相手が凶暴な存在だったということです。不運な事故だと思いますよ。事実、ソイド商会は関係を否定しています」


 取引先がブラックだったり、仲良くなった友達の親戚がヤクザだったり、出席したパーティーで出会っただけの人間が不正を働いて政治家が追及されるように、ある意味で交通事故のようなものである。

 当人にとっては災難や不運でしかない。まったく意図していないものだ。

 しかしながら被害に遭った人間にこの理屈は通じない。実際に受けた損害は大きく、しかも資金提供まであったとしたら言い逃れはできないだろう。

 そのためソイドファミリーは、半ば「村八分」状態になっている。微妙な嫌がらせから取引拒否など、徐々に損害が増してきているようだ。

 ただし、まだ抗争状態には突入していない。城塞都市の性質上、制裁を加えるには時間と手間がかかるからだ。


「そうだとしても歯止めが利かなくなった一端にはなっているようだね。しかもまだ関係は続いていると見るべきだろう。ホワイト商会のパーティーにビッグが出席していたという報告を受けている。これはどう説明する?」

「その情報は言葉足らずですね。そこには医師連合のスラウキン代表も来ていたはずです。彼だけではありません」

「ますますラングラスが怪しくなるじゃないか」

「医師連合は各派閥から独立した組織です。こちらも完全に干渉はできません。あくまで推測ですが、おそらくは治療に関しての相談…といったところでしょうね。彼の治療技術は脅威ですから医者としても興味を抱くでしょう。ビッグに関しては、ホワイトに釘を刺しに行ったと見るべきです。『これ以上やれば、うちも黙っていないぞ』というようにね。どうです? このほうがすっきりしませんか? ソイド商会が他派閥を敵に回すほうが、よほど非現実的です」


 ソブカはアンシュラオンとスラウキンの会合の内容を聞いてはいない。ビッグに関しても、なぜ呼んだかも知らされていない。

 両者は協力関係にあるが、事が始まってしまった以上、迂闊に接触するのは危険である。多少のイレギュラーやアドリブが入るのは仕方がないことだ。

 よって、これもすべてソブカが自ら考えて察したこと。

 アンシュラオンならばこうする、という予測に基づいてのフォローなのであるが、ほぼ実態通りであるのはソブカの能力が高いからだろう。

 ガンプドルフの祖国を調べ上げた情報力も侮れない。裏側に強力な情報網を持った誰かがいるのかもしれない。

 そして、事実がゆえに言葉には説得力がある。それにはプライリーラも頷くしかない。


「…相変わらず筋は通っている。筋だけはね。だが、この状況では彼らを弁護するのは難しいな」

「では、制裁しますか? 疑わしきは罰せずのほうがグラス・ギースらしいとは思いますがねぇ」

「あの時も言ったが、私としては制裁はしたくない。こんな狭い世界で身内を潰すのは自殺行為でもあるからね。だが、庇いきれない部分があるのも事実だ。その点に関してラングラス側はどう考えているのかな?」

「さて、どうでしょうねぇ。特に本家から招集はありません。自分たちとは無関係だと思っているのでしょう。こちらに被害はありませんからねぇ」

「それは少々無責任ではないかな」

「ホワイトという人物の独断ですからねぇ。こちらとしても商会を認可していません。下手に動くとラングラスが関係したことを示すことになります。逆に動けませんよ」


 ラングラス側としては静観という立場を崩していない。

 ソイド商会が接触したことはすでに【噂】で知っているだろうが、それはあくまで上位組織が行った取引の一つであって、彼らがホワイト商会と盃を交わしたわけでもない。

 そうなれば他人事。要するに関係ない、無関係という立場である。

 むしろそこで躍起になって対応を始めたら付き合いがあったことを示すことになるし、そうした実態はないのだから無視するのが一番だろう。そういう考えである。


「では、彼らがラングラス以外の派閥を襲う理由は何かな? すでに我々ジングラスとハングラス、マングラス共に被害が出ているが、なぜかラングラスには攻撃を仕掛けていない。とても不思議だと思わないかな?」

「まったく不思議ではありません」

「その理由は?」

「考えてもみてください。我々ラングラスは医療を担当しています。医者の彼からすれば、さして魅力的ではないでしょう。そもそも不思議な術を使って癒しているのです。医療器具や薬品を奪っても転売くらいしか価値がありません。わざわざ襲う理由がないのです」

「ソイド商会とつながっている理由は?」

「唯一、麻薬が別物だからです。睡眠薬、痛み止め、興奮剤、こうしたものは病人以外にも需要があります。それで金になると思ったのでしょうね」

「金、か。その発想はまるで節操のない盗賊だな」

「襲った場所を見ている限りは正しい認識だと思いますよ。どうやらホワイトという人物は欲望に忠実な様子。自分が欲しいものを狙っているのでしょう」

「食べ物、女性、ジュエル…理解はできるがね」

「納得していただけましたか?」

「理解はしたが納得はしていないな。問題の根幹が解決されていない。ホワイトなる人物がこちらにちょっかいを出した時期に、君が堂々と食料品に手を伸ばそうとしている。これを疑うなというほうが難しいだろう」

「それも言った通りです。彼が横暴な略奪を働くので都市の住人が困っています。都市機能の維持のためです」

「そのスタンスは崩さないわけだね」

「残念ですが、これ以上の釈明は不可能です。なにせこちらも【災厄】には困っているのですから。お互いに被害に遭っている者同士です」

「災厄…か。面白い表現をするね」

「ええ、彼は災厄ですよ。ファレアスティが言い始めたのですが、あながち間違ってもいないでしょう」

「…ふむ、災厄ね」


 災厄という言葉にプライリーラは少しばかり反応を示した。顎に手を当て思案している。


(どうやら興味を持ったようですね。災厄という言葉は我々には特別な意味を持ちますからねぇ。戦獣乙女としても見逃せないものでしょう)


 今のプライリーラはジングラス総裁として物事を考えているが、もしホワイト商会が『災厄』ならば、戦獣乙女として活動しても差し障りないのである。

 かつてグラス・タウンを破壊した災厄。それを防ぐための存在が彼女なのだから。

 ファレアスティが言い始めた言葉だが、ここで利用できたのは大きい。




222話 「ソブカとプライリーラの会談 後編」


 ソブカはプライリーラを誘導していく。

 会話の中で不自然にならないように、少しずつ少しずつ情報を出していき、相手の興味を引き付けていく。

 知力と魅力がBなので、皮肉な性格に多少引っかかるところはあれ、どうしても話術では勝てないのだ。(※プライリーラ 魅力A 知力D)

 これに対抗するには、アンシュラオンのように対話能力では劣っていても熟練した経験がなければ難しい。

 ただ、彼女もそこそこ頭の切れる女性である。この程度では納得しないだろう。追及は続く。


「質問を変えよう。なぜ食料品を選んだのかな?」

「必需品だからですよ。人間は飢えなければ死ぬ確率は相当低くなります。当然の判断です」

「ハングラスのジュエルはどうかな? あれも必需品だと思うよ。倉庫が襲われたのだから、まず最初に援助してもいいはずだ」

「勘弁してください。そんなことをしたら私は彼に殺されてしまいますよ。縄張りには非常に神経質な御仁ですからねぇ。以前、間違ってジュエルを搬入してしまった商会がどうなったかご存知でしょう? 怖い人たちがいますからねぇ」

「その心配はないだろう。ザ・ハン警備商会はかなりのダメージを負ったそうだ。すぐには動けない」

「いえいえ、それでも執念深さは相当なものです。私は恨まれたくないですねぇ。あとで必ず復讐されますから」

「私ならば恨まれてもいいというのかね?」

「そんなことは思いませんが…マングラスとハングラスと比べれば、少しは知った仲です」

「見くびられたものだね。これでもジングラスの総裁だ。やるときはやらねばならないよ」

「私もキブカ商会の看板を背負っています。組員を守るためには手段を選びません」

「それがあの武力行動か」

「実際には衝突していませんから、あなたと同じく示威行動と取るべきでしょう」

「詭弁だね。…ソブカ氏、君は矛を向ける先を間違えているのではないか? あまり言いたくはないが、その憤りはラングラスに向けられるべきだろう。君がラングラス本家に怒りを覚えているのは知っているよ。君の母親だって…」

「私はラングラスだけに不満があるわけではありませんよ。それを言い出したらキリがありません。食料品を選んだのは必需品だからです。それ以外に理由はありません」

「………」


 ソブカの強い否定にプライリーラは黙るしかない。だが、その言葉こそが胸に怒りを抱えている人間の態度である。

 冷静で狡猾なソブカであっても抑えきれない感情があるのだ。それもまた彼の魅力の一部ではあるのだが、危うさのほうを強く感じる。


(ソブカ氏、君はまだ怒りを覚えているのだろうな。…当然だ。人間の怒りは簡単には消えない。それどころか加速していくものだからね…)


 プライリーラはソブカがラングラス本家を嫌っていることを知っている。序列や評価だけが人を動かす原動力ではない。怒りや恨みもまた大きな力になる。


 ソイドビッグが子供の頃、誘拐されるという事件が起こった。


 その際、都市外の勢力の関与があったわけだが、内部情報を漏らしてしまったのがソブカの母親である。

 人柄がよく温和で、あまり他人を疑うことを知らなかった女性だったので、そこを狙われてしまったのだろう。

 結果的にビッグは助かり事なきを得たのだが、彼女には都市外への追放という処分が下った。これでも分家筋なので処分は軽減されたほうである。本来ならば殺されても文句は言えない。

 城塞都市は内部の結束を最重視する。開かれた都市ならば「そこまでしなくても…」と思うことでも、厳罰対象になることが多い。追放もやむなしである。

 母親はその後、ソブカの父親の援助もあって他の都市で暮らしていたが、人生なんてものは呆気ないもの。強盗に刺されて死んでしまった。あっさりと、簡単に。


 それからだ。ソブカが変わったのは。


 権力を握ることに異様に執着し、多少のルール違反などまったく気にせず強引にのし上がっていった。本来ならば組長になるのもまだ先だったが、半ば父親を蹴落とす形でトップになったのだ。

 父親はその時、何も言わずに身を引いたという。母親の負い目があったのだろう。それもまたソブカにとっては不愉快だったと思われる。

 組長になってからは、さらに陰湿な手を使って利益を上げていった。そのせいで同じラングラス一派の組織からも煙たがられているが、そんなことはまったく気にしていない。

 彼の中には、けっして許せない激情が眠っているのだから。


 母親が死んでから、彼は常々こう言っていたものだ。


―――「オレがラングラスを変える。腐った街も変えてやる」


 と。


 その少年が大人になり、今こうして活動していることは偶然ではないはずだ。心の中に大きな何かを秘めている。


(もともと激情を宿していたソブカ氏が、ホワイト氏によって刺激を受けてしまった。影響を受けたのは間違いないだろう。利用しているのも間違いない。あるいはすでに結託していると考えるべきかもしれないな)


 父親の代からいるジングラスのご意見番の中には、そうした見解を述べる者もいた。

 ソブカの様子を見る限り、その可能性も否定はできない。また、彼自身も完全否定はしていない。

 ただし、プライリーラは彼の事情も性格も知っている。そこに感情の乱れが生じた。


(ジングラスの総裁としては、ここで認めるわけにはいかない。しかし、彼を放っておくわけにもいかない。なんとかこの流れから救い出さねばな。彼を救えるとすれば私しかいない。この私しか…)


 プライリーラの個人的感情が、ここで大きな決め手となる。

 それもまたソブカの予想通りであるのだが、女性が感情で動くことは有史以来変えられない絶対の事実でもある。



「話はわかった。これ以上君を問い詰めても同じ意見しか出てこないだろう。となれば答えは簡単だ。私がホワイト商会を何とかしよう。彼がすべての原因なのだろう? そこを止めればいいだけだ」

「制裁ですか?」

「形はどうなるかわからないな。制裁には四大会議の決議が必要だが、話を聞く限りでは商会認定はされていないようだ。それは間違いないね?」

「ええ、マングラスが常時潰していますので、彼ら自身が商会を名乗っていても扱いは一般人のようなものです。ラングラスも派閥として認めていません。どこかの武闘派が動いても文句は言われないでしょう」

「だが、それで動かないのはホワイト氏が強いからだね?」

「その通りです。誰も止められないのです。ザ・ハン警備商隊がやられたのも大きいでしょうね。あそこを超える武闘派集団はなかなかいません。どの派閥も独断で動いてパワーバランスが崩れることを怖れています」


 グランハムたちは非常に強い戦闘集団だった。もしアンシュラオンがいなければ、戦罪者だけでは勝てなかった可能性も高い。術具と術符の攻撃はそれほど強烈だったのだ。

 それが簡単に壊滅。

 こうなると実害がない限りは動けない。もし自分たちが返り討ちに遭えば、各勢力のバランスが崩れてしまいかねない。


「ふむ、グランハムは私でも少しは手こずる相手だろう。それを倒したというのは気になるな」

「あなたほどの武人でも自信はありませんか?」

「ソブカ氏、あくまで単体での話だ。私個人の力はアーブスラットとそう大差はないよ。しかし、戦獣乙女の本領は魔獣と一緒になってからだ。武具もそのために調整されている」

「なるほど。噂の守護者ですか」

「そういえば君は見たことがなかったね。まあ、ジングラスの機密だから当然だな。自信過剰に聴こえるかもしれないが、私と【アレ】が組み合わされば不敗だ。グランハムたちが何人いても負ける要素は何一つないよ」


 『暴風の戦乙女』は単体で使われることを想定していない。あの武具は『守護者』と一緒に戦場を駆けるために用意されたものだ。

 よって、単体での力はあまり重視されない。そのままでも強いが、たとえばガンプドルフの魔剣のように依存するほど特筆すべきものではないだろう。

 しかし、両者が合わされば劇的に強くなる。

 もし完全な状態でグランハムと対峙すれば、おそらく秒殺が可能だ。それだけの力の差はあると自負している。


「なるほど。さすが頼もしいですねぇ。多くの人々があなたを待っています。その力でぜひ悪を成敗してください」

「悪というのは言いすぎだね。ホワイト氏にも何か理由が……聞いている分ではなさそうだが、どちらにせよ強い武人であることは間違いないようだ。強い人間には強い理由があるものだよ。強くなりたいという動機は必要だからね」


 初期動機 = 優雅に姉とイチャラブしたい


 もはや懐かしいが、彼の動機は至って不純である。今もほとんど変わっていない。


「ホワイトは外から来た存在。言ってしまえば外敵です。それを討つための戦獣乙女でしょう。正当性はあります」

「それはそうだ。だが、私が動くためにはいくつかの条件をクリアしなければならない。強い力を持っているからね。迂闊には動けない。何かしらのきっかけが必要だな」

「ジングラスにも死人が出たと聞きましたが」

「総裁として動く分には問題ないが、それでは弱いね。少なくともアレは出せない。そうなるとグランハムを倒したホワイト氏と正面から戦うのは分が悪いだろう」

「案外慎重なのですね」

「もちろんだ。どんなに強くなっても警戒を怠るべきではない。それにハングラスが報復の動きを見せている。どちらにせよそれが終わらねば動けないだろうね」


(さすがに慎重ですね。簡単には出てきませんか。現段階で動いても無傷で勝てない以上、ジングラスだけが損害を受けることになる。総裁としては当然の判断ですねぇ。逆に他派閥でもう少し暴れてくれたほうがジングラスにはプラスですか)


 人間でも魔獣でも強くなれば慎重になっていくものだ。一つのミス、一瞬のミスが命取りになることを知っている。

 プライリーラを都市に戻すことまでは成功したが、戦場に出すにはあとひと工夫が必要らしい。

 そちらはアンシュラオンが大々的に暴れれば問題ないだろうが、一応こちらからも押してみる。


「では、状況が整えば出るのですね?」

「おや、君のほうが乗り気じゃないか。そんなに私の戦う姿が見たいのかい?」

「それは見たいですねぇ。訓練は見たことがありますが、実戦を見ることなどほとんどありません」

「仕方ないね。魔獣を使った実戦訓練は人目のつかない遠方ですることが多い。見る機会はないだろうし、見られては困る」

「さぞかし美しいのでしょうね。もともと美しいのです。さらに綺麗になることは間違いありません」

「うむ? それはお世辞だな? そういうのは嫌いだと言ったはずだよ」

「いえいえ、世辞ではありませんよ。こうして話していて、ふと思ったのです。私はあなたの本当の魅力に気付いていないのではないかと。日常のあなたしか知らないということは、魅力の半分しか知らないことになりませんか?」

「ふむ…そうだね。君が同性愛者でない限り、私にこれほど興味を示さないのはおかしいと思っていた。なるほど。たしかにそれは言える。私は武人だ。戦ってこそ映える」

「ええ、そうです。だから見てみたいという欲求はあります。直接見る必要はありませんが、ホワイト商会を潰して凱旋する姿を見れば新しい発見があると思うのです」


 今自分ができることは会話だけだ。ならばそれを生かすしかない。

 その中でソブカが取った戦術は至って単純なもの―――【ヨイショ】である。

 ひたすら持ち上げてその気にさせる。ただそれだけだ。

 プライリーラは世辞が嫌いだと言っているが、人間は褒められると嬉しい生き物である。

 それも普段は滅多に褒めない人間であり、少なからず好意を抱いている相手であると効果は抜群だ。


 事実―――乗ってきた。


「君にそう言われると悪い気はしないな。どうやら少しは本音みたいだしね」

「そもそもあなた以上の美人は、この都市にはいないでしょう。いや、他の都市にだっていない」

「そう言う者もいるね。まあ、好みはそれぞれだし、私はそこまで言うつもりはないがね。ただ、少しは気を遣って管理しているのは確かだよ。この髪の毛は自慢だし、肌だって艶を保つようにしている。若いといっても二十歳を過ぎれば衰えていくものだ。普段の食事にだって気を遣っている。女性は大変なんだよ」

「なるほど、なるほど。それだけの価値はありますね」

「ソブカ氏も成長しているようだね。そういうところに気付けるのはよいことだよ。うむ」


 今までそんな行動はまったくなかったのだが、急に髪の毛を触りだしたり、肌に触れたりしている。これは意識を始めた兆候である。

 たとえば「その髪の毛、綺麗だね」と褒められる。すると鏡を見た時、自分でも何度も見返し「そうよね。やっぱり綺麗よね」とニヤニヤするものだ。男だって「イケメンだね」と言われれば、同じことをしてしまうだろう。

 他人に褒められるというのは、こういうことである。

 褒められて嬉しくない女性はいない。よほどの人間不信を除いて、自分に自信がある人間ほど効果的である。

 ここでのポイントは「少しでもいいから本音であること」が重要だ。完全なお世辞では見破られるので、本当にそう思っていることを重点的に攻めるといい。

 実際に思っていることなので、そこに嫌味があまりないわけだ。


「人の中身は外見にも表れるものです。あなたの強さと美しさがブレンドされた戦獣乙女こそ、真なる姿なのだと思っていますよ」

「うむ、そうだな。私は武人であることに誇りを持っている。戦ってこその私だ」

「もうあなたしかおりません。他の人間はあてにできないです。我々のためにも、ひと肌脱いでもらえませんかねぇ。ラングラスも大事な都市のパーツ。部品です。結果的に都市のためになります」

「ううむ、都市のため…か。耳障りがいい言葉だな」

「あなたには個人的に期待しているのです。私の憧れですからね」

「ふむ、そこまで言われるとな…迷うな」


 いろいろと迷っているようだ。迷うということは、あとひと押しで動く。

 最後にとっておきの一言。

 これだけは使いたくなかったが、ここで最大の力を発揮する言葉を口にする。


「わかりました。では、この戦いが終わったら【結婚】しましょう」

「すべて私に任せておきたまえ」


 即答だった。

 完全に死亡フラグで使われる台詞だが、飢えている女性にはこれが一番だったようだ。


 ガタガタガタ バタバタバタッ


 プライリーラがものすごい勢いで書類の準備をしている。

 普段からの信用がないせいか、口約束だけで終わらないように覚書を用意するようだ。


「うむ、できた。ほら、手を出したまえ。朱肉に付けて…ポンと。よし! これで仮契約は終わりだ! 約束を破った際はキブカ商会の全財産を没収する。これでいいね」

「…ええ、たしかに。…ちなみにですが、『子供は最低二人以上かつ、女性が生まれるまでは無制限に精子を提供する』と書いてあるのは気のせい…」

「ではないから安心したまえ」

「ですよねぇ」

「この幸せ者め。こんな美人とやりたい放題だぞ。羨ましいものだね」

「…なるほど」

「うむ…うむうむ!! やる気が出てきたぞ!! なんだこの私の身体に溢れるパワーは!! 自分で自分が怖い!! やれる! 今の私ならば何でもできるぞ!!!」


 「戦いが終わったら結婚しよう」は、奇しくもアンシュラオンがマキたちに言った台詞と同じであったが、意味は完全に真逆だ。


(仕方ありませんよねぇ。こうするしかないですし。頼みますよ、ホワイトさん。もしあなたが負けたら私は餌になってしまいますからね…。そうなったら恨みますよ)



 こうしてプライリーラの参戦が決定した。


 そしてその後、この結婚話を聞いたファレアスティが怒り狂ったのは言うまでもない。とばっちりを受けたのはベ・ヴェルたちであったが。




223話 「メイドは最高だ。『ラノア吸い』も堪能しよう」


「やあ、セノア、ラノア、久しぶりだね。元気にしていたかい?」

「は、はい! お久しぶりです…ご主人様」

「んー、はーい!」


 久々にホテルに戻ってきたアンシュラオンは、ロゼ姉妹と再会。

 アンシュラオンとサナが部屋の中に入ると、二人がとっとこ小走りで出迎えてくれた。その仕草が妙に可愛い。


「こら、ラーちゃん、ご主人様でしょ!」

「ははは、まだ子供なんだ。そんなことは気にしないでいいよ。それにしてもラノアは元気だねー。セノアはまだまだ表情が硬いかな?」

「も、申し訳ありません」

「謝る必要はないって。元気ならそれでいいよ。ホテル生活は楽しめているかな?」

「そ、その…緊張して……まだ実感が…」

「遠慮することはない。君たちはオレのスレイブだ。堪能する権利がある。それによくがんばってくれたからね。十分な働きだ」

「そ、そんなことはないです。こんな豪華な食事を食べられるだけでも…」

「ねーね、さいきんあまりたべてないね」

「しっ、そういうことは言わないの! あっ、いえ、今の言葉は嘘じゃなくて…値段を考えると食べるのが怖くて…うっ、また吐き気が」


 なんだかデパートでのシャイナを彷彿させる台詞だ。

 一般人や労働者階級にとっては高級ホテルに泊まること自体が異常事態なのだろう。食事はさほど豪華ではないと思うが、それでも彼女たちにとってはご馳走である。

 豪華すぎると逆に食が細るというのだから、人間とはなんとも報われない生き物だ。


(そりゃまあ、いきなりこんなホテルに連れてこられたら驚くよな。両親が亡くなってからさして時間も経っていない。しばらく絶望しかなかっただろうし、そこからの急上昇だもんな。疑うのが当然だ。最初は逆に身の危険を感じるのが普通の感性だろうし…)


 最初は驚き感動しつつも「もしかして騙されているのでは?」という疑念が湧き、徐々に不安になってくる。

 しかもホテルに閉じ込めるというのは明らかに怪しい。ほぼ軟禁である。こうなるとエロいイメージしか湧かないので心配して当然だろう。

 ただ、身の危険はないと察したようで、幾分か安心感は見て取れる。それだけでも十分な進歩だ。


「そのうち慣れるさ。ただ、ホテル暮らしはそう長くは続かないかもね」

「そのほうが…気が楽です」

「えー? そうなのー? もっといたいー」

「こら、ワガママ言わないの! す、すみません!」

「いいっていいって。微笑ましいよ。なでなで」

「うきゅ、んふふ、ふふふ♪ これ好きー」


 ラノアの頭を撫でる。まるで綿のようなふんわりとした髪質が心地よい。彼女も気持ちいいのか、安心して頭を委ねてくるから可愛い。

 まだ常識を知らないだけなのかもしれないが、ラノアはまったく物怖じしない。世間でいうところのフリーダムな「次男次女タイプ」なのだろう。

 一方のセノアは長女としての責任があるのか、多少神経質なところがある。これも他人の中で生きてきた緊張感ゆえだろう。

 本当はラノアのような態度が他人に溶け込む秘訣だが、このご時勢どこに危険があるかわからない。彼女の警戒感は必須である。そう考えるとバランスの取れたよい姉妹だ。


(うーん、どっちもいいなぁ。サナとは違う反応があって楽しいよ)


 セノアの少し硬い表情でさえ楽しく思える。サナとは違い、感情というものが強く出ているからだ。


「…じー」


 その様子をサナも観察している。

 普通の女の子たちなので、この二人の存在もサナにとっては有益だろう。ぜひここで女の子らしさを学んでもらいたいものだ。

 理想としてはここでヤキモチを焼いてもらいたいものだが、その段階に至るにはまだまだ時間が必要なようである。

 「お兄ちゃんは私のなの!」と言って胸を擦り付けてくるくらいが理想だ。正直サナがそんなことをするとは思えないが、あくまで馬鹿兄の願望である。



「それにしても二人ともなかなか似合うね。すごく可愛いよ」

「は、はい、ありがとうございます!」


 可愛いと言われてセノアは赤くなる。そういった反応も子供らしくて微笑ましい。

 すでにアンシュラオンがホワイトとして活動を始めたので、二人は影武者を一旦辞めてメイドになっている。

 現在は可愛らしいメイド服に身を包んでおり、ホロロの隣にいると完全にメイド見習いといった様相だ。

 それに―――感動。


(メイドはいいなー。オレの言うことは何でも聞くし、従順だし。最高だよ! それに昔からずっと子供のメイドが欲しかったんだ。これで一つ夢が叶ったかな。でも、もっと欲しいと思っちゃうんだよなぁ。出迎えに三十人くらい並べたいし)


 支配欲が強いアンシュラオンにとって、主人に従うメイドは実に素晴らしい存在だ。ホロロも良いが、子供のメイドというのは個人的にも大好物である。

 何度かサナにもそういう格好をさせたことがあるが、彼女はほとんど反応しないので味気ない。観賞して楽しむくらいだ。

 その点、セノアの態度は初々しくてよい。着慣れないメイド服、突然の変化に戸惑う姿、謙虚な姿勢。コスチュームプレイとしては完璧だ。

 サナと比べると可愛さという点で数段劣るが、白スレイブになれるほどの容姿は持っている。十分合格点だろう。ラノアともども80点はあげたい。

 今のところロゼ姉妹に性的な欲求は感じないし、このまま可愛い愛玩メイドとしてがんばってほしいところである。

 ただ、当人が嫌がるようならば無理はさせたくない。メイド候補ならば白スレイブにいくらでもいるので、術の資質のある彼女たちにはある程度の自由を与えたいと思っている。

 なので、当人に感想を訊いてみた。


「メイドの練習もしているんだって? どう、楽しい?」

「は、はい。まだまだ至らないところが多いですけど…ご主人様のご期待に沿えるように…が、がんばります!」

「す、素晴らしい」

「…え?」

「ああ、いやいや、こっちの話だよ。大丈夫。うん、いいよ。そのたどたどしさ。さらに加点だ。ぜひそのままの君でいてくれ」

「は、はい」


 緊張しておどおどしている感じが嗜虐心をくすぐる。当然彼女をいじめたりしないが、見ているだけでゾクゾクするのは素晴らしい。

 スカート自体もはき慣れていないのだろう。時々恥ずかしそうに、ぎゅっと裾を握って下に引っ張る仕草もいい。これは個人的にポイントが高い。

 ぜひこのまま真っ直ぐに育っていってもらいたいものだ。

 セノアは問題なし。次はラノアだ。


「ラノア、膝においで」

「はーい。んしょっ…ん! のぼった」

「よしよし、いい子だな。なでなで」

「んふふ♪」


 ラノアを呼ぶと喜んでやってきた。背中を預けて膝にもちょこんと座る。

 どうやら頭を撫でられるのが気に入ったようだ。触っている間は、足をふりふり動かしてご機嫌である。


(この反応はいいぞ! 超可愛い!! まさに子供を膝に乗せている感覚だ!! サナがこれをやってくれたら…本当にやばいかもしれん。いけない欲求を抱いて興奮しちゃうかもな!)


 という変態発言は置いておき、ラノアにも訊いてみる。


「ラノアはメイドは楽しいか?」

「んー、メイド?」

「お姉ちゃんと一緒にそういう格好をして暮らすことさ」

「たのしい!」

「そうかそうか。満足しているならそれでいいんだ。ほかに何か欲しいものはあるかい?」

「んー、なでなでして」

「そんなことでいいなら、いくらでもしてやるぞ。ナデナデナデナデナナデ」

「んふふ♪ きゅっきゅっ♪」


(すごい甘えてくるな。そうか…まだ子供なんだよな。この子も守ってやらないといけないな)


 ラノアはアンシュラオンを完全に信頼しているのか、身体を預けて甘えてきてくれる。可愛い反面、親を失った寂しさが影響しているのは間違いないだろう。

 これもサナには欠けている感情である。寂しいとか甘えたいとか、イチャラブ要素はまだまだ足りない。これも彼女たちから学んでほしいものだ。


(すーすー、くんくん。うん、いい匂いだ。サナとは違って軽い感じだが、子供らしい甘さがあっていいな。うむ、これはいいぞ。すーーーすーーー、はーーー。素晴らしい味わいだ)


 さりげなく『サナ吸い』ならぬ『ラノア吸い』もやってみる。


(むぅ、軽い甘さが鼻に残りながら、けっして不快ではない。たとえるならば草原に自由気ままに咲く野花のように爽快で柔らかく、心が弾むような味わいだ。集中して吸うのではなく、気分が向いたときに感情に任せて吸うのが一番よさそうだ。すーーすーーー、うむ! 逸品だ)


 と、まるでソムリエのような感想だが、あくまで幼女の香りの話である。だんだん変態度が上がってきた気がしないでもない。

 むさ苦しい連中と一緒にいたストレスだろう。正直、あんなやつらと一緒にいると心が荒む一方である。臭いしムサいし汚いし醜いし、強さ以外にいいところが一つもないのだ。


 それと比べると、ここは―――天国。


 サナ以外の幼い蕾を思う存分堪能できる。まさに楽園だ。ここにやってきた目的の一つも女の子成分の補充であるので、たっぷり吸っておく。


(これは素晴らしい。やはりオレは間違っていなかった。この子たちは絶対守ろう)


「君たちの健康と豊かな生活を守るのがオレの仕事であり責任だ。二人ともまだ若い。まだまだこれから成長していくんだ。今はいろいろなものを見て学ぶことを大切にしてくれ。失敗してもへこたれないようにね。人生は失敗から学ぶんだから」

「はい。ありがとうございます、ご主人様!」


 セノアは、ぎこちなくも笑う。その笑顔は、少しだけ緊張から解放された本来のものであった。


(ご主人様は本当に優しい人みたい。ラノアは悪い人には絶対に懐かないし、あんなに甘えたりしないもの。それにすごく綺麗だし…お医者さん…だっけ? もしかしてすごい人なのかな…)


 アンシュラオンは、ホワイトの時と違ってとても優しい。ロゼ姉妹を見る目も慈愛と受容に満ちていた。

 今は仮面も脱いでいるので、その美しい顔も相まってセノアの緊張をほぐすことに成功している。

 自分のものに対しては心からの愛情を注ぐ男である。その点に関してはまったく問題がないだろう。買われたセノアは幸せだ。

 ただ、裏で不純なことを考えていると知ったらどう思うのかは怖いところだ。さきほどからの思考内容は、すべて変質者そのものである。そもそもラノア吸いの段階でドン引きだ。

 といっても、それもまたギアスを付けるまでの短い心配であるが。




「さて、今日はみんなに大切な話がある。よく聞いてくれ」


 歓談が終わったところでラノアを膝から降ろし、本題に入る。女の子成分補充も大切だが、一番の目的はこちらである。

 この部屋には、アンシュラオンとサナ、ホロロ、ロゼ姉妹がいる。サリータは律儀に扉の前で番をやっているので、あとで伝える予定だ。


「これから少し動きがある。最初は大丈夫だろうけど、時間が経つにつれてここも危険になるかもしれない」

「っ…」

「セノア、大丈夫だ。君たちはオレが守ると言っただろう?」

「は、はい!」

「ただ、オレも忙しいから常時傍にはいられない。むしろ敵はオレを狙ってくるだろうから一緒にいないほうがいいんだ。それはわかってくれるね?」

「あ、あの…ご主人様は誰かから狙われているのですか? あっ、す、すみません!」


 セノアが素朴な疑問を口にするが、ホロロが視線を向けたので慌てて口を押さえる。

 しかし、彼女の疑問ももっともだ。理由がわからないと怖いものである。

 いきなり襲われたりしても、過去に揉め事があれば「やっぱりな」と思えるが、通り魔だと「なんで!?」と思うに違いない。

 その覚悟の差が咄嗟の判断力に影響を与えるのは事実だ。説明はしておいたほうがいいだろう。


「医者なんてやっているとね、いろいろとやっかむ者たちがいるものなんだよ。そろそろ医者なんて辞めて商売でも始めようと思っているけど、その準備でも邪魔が入ってね。ほんと困ったもんだよ。オレが成功するのが憎らしいんだろうね」

「…そ、そうですか。いますよね、そういう人たちって」

「そうそう、迷惑しているんだ。それが収まるまで君たちには警戒してほしいってことだね。逆恨みで家族を狙う者だっているんだ。注意はしたほうがいいだろう。でも、大丈夫。安心してくれ。その警護のためにサリータを用意したんだ。今もああやって扉の前で見張っているだろう? 君たちは安全だよ」

「は、はい! わかりました」


 嘘ではない。

 最初に何も考えずに医者をやっていたらソイドファミリーから攻撃を受けたし、医者を辞めても暮らしていけるだけの金を得るためにソブカたちと計画を進行中だ。

 本当のことを言って混乱を呼ぶのは愚かである。「課長、太りましたね!」と素直に言ってはいけないのだ。

 課長が太ったところで自分には何の不利益もないのだから、そっとしておくのがいいだろう。


「それでその…私はまたご主人様の代理になればいいのですか?」

「ああ、そっちは大丈夫だよ。危ないから、ここから先は代理にならないほうがいい。もう十分に役立ってくれたからね。おかげで計画がかなり進んだ。ありがとう、セノア、ラノア」

「は、はい! お役に立てて嬉しいです」

「ほめられたー、なでて、なでて!」

「はいはい、ナデナデ」

「んきゅきゅっ♪」

「セノアもナデナデ」

「あっ…んん…」


 二人の頭をナデナデしてあげる。

 セノアは若干恥ずかしそうだが、まんざらでもない様子だ。彼女もまだ十二歳。親がいないといけない年頃なのだ。親代わりというのはなんだが、頼られる存在でありたいとは思う。

 実際、ロゼ姉妹にはかなり助けられたものだ。彼女たちが影武者として活動している間に多くの準備ができた。これだけで買った値段以上の価値はある。

 ただ、これからは危険がぐっと高まる。彼女たちの希少性を考えれば無理に影武者にする必要はないだろう。

 なにせもう『代用品』は手に入れてあるのだから。


「ホロロさんには今後の計画書を渡しておくよ。いくつかのパターンが予測されるけど、その枠組みから大きく変わることはないと思う。そうそう、読んだら燃やしておいてね」

「かしこまりました」

「うん、やっぱりホロロさんのほうがいいな」

「…え?」

「いやいや、ホロロさんがいると安心するってことさ。君と出会えたことがオレにとっては本当に幸運だったよ」

「それは…とても嬉しいです」


 ホロロは頬を赤らめて柔らかく笑う。主人だけに見せる事務的ではない本物の笑顔である。


(ファレアスティさんが冷たかったからな。ホロロさんには癒されるよ。やっぱりメイドはいいもんだなぁ)


「じゃあ、ホロロさんもナデナデしてあげるね。ナデナデナデ」

「あっ…ふふ…ふふふふ。恥ずかしいです」

「ついでに胸も揉んであげようね。もみもみ」

「あっ、はい…んっ…はっ…あ、ありがとうございます」


 胸を揉んで感謝される。やはりメイドは最高である。もっと増やそう。




224話 「オレは子供たちとちゅっちゅぺろぺろの楽園を作るからな!!」


 メイドの素晴らしさを堪能したところで、続いて武具の受け渡しに入る。

 ハングラスの倉庫襲撃の際、ザ・ハン警備商隊からいろいろと術具を奪ったので、それを渡すつもりでいる。

 これも大事な用事である。リスクを負ってまでここにやってきたのは、そのほうが身を守るうえでメリットがあると判断したからだ。

 重要そうなものはすでに速達便で送っているので、まずは具合について訊いてみた。



「渡した術具はどうかな? その腕輪は使える?」


 ホロロの腕には、グランハムから奪った『剛徹守護の腕輪』がはめられていた。

 赤いバングル状の腕輪で、中央のトップに赤いジュエルがはまっている。こうして見ると普通の腕輪でしかないが、『物理無効』を付与してくれる希少なAランク術具である。買えば数億は下らない。

 赤系のジュエルはデアンカ・ギースの原石が同じ赤であるように、物理系の術式と相性が良いようである。

 特性が合っていないと強い術式に耐えられないので、逆に言えばこのジュエルに強い物理系の術式がかかっていることが見た目でわかるということだ。

 これは重要なアイテムなので、ホロロには万一のために常時着用を命じておいたのだ。


「はい。数秒程度ならば問題ありません。最大で十秒くらいならば倒れることなく使えそうです」

「それはよかった。普通の相手はまず『物理無効』を貫けないからね。もし何かあったら、それを使って二人を守ってあげてね」

「お任せください」

「ただし、物理以外には気をつけるんだよ。術や爆発、直接的な炎とかは防げないからね。そっちは火炎防御系の術符を使ったほうがいい。別途持ってきたから、あとで見ておいてね」

「はい。注意いたします」

「鞭のほうはどう?」

「それが…やはり難しくて…」

「やっぱり駄目か。似合うとは思うんだけどなぁ」


 彼女にはグランハムの鞭、『断罪演軌の赤鞭』も渡してある。こちらもかなり強力な術具である。

 ホロロが持つと、その艶っぽさも相まって女王様のようになるのだが、やはり武人ではないので上手く扱えないようだ。


「サリータはどうだった? やらせてみた?」

「試させましたが…自分の顔にぶつけて悶えておりました」

「…彼女らしいといえばそうなんだけど…映像が目に浮かぶね」


 サリータにも振らせてみたが、彼女はもっと駄目だったらしい。

 素人にありがちな「ヌンチャクを回したら自分の頭に当たった」「釣竿の針が服に引っかかった」状態になったのだろう。

 慣れの問題もあるが、こちらは適性であろう。彼女には器用さというものがまるでない。ひたすら直進しかできない人間なので当然だろうか。


(うーん、どうやら武具には『装備条件』が付いているものがあるみたいだな。そりゃ戦士の武器を魔法使いが使えたらおかしいし、言われてみれば当たり前だよな。グランハムは器用そうだったしな。工作あたりの数値が必要なのかもしれない)


 武具には使用者のステータスが一定以上でないと装備できないものがある。

 この赤鞭もそういった部類の武器のようだ。事実、魔力がC以上、工作がC以上、攻撃がD以上でないと装備すらできない。


(オレは使うことはできるけれど…なんか違和感を感じるんだよな。今のセノアみたいに、初めて着た慣れない服みたいな感じでさ)


 アンシュラオンは数値を満たしているので装備すること自体は問題ない。

 が、しっくりこない。初めて着る服、新調したデスクチェアのように、まだ身体に馴染んでこないのだ。

 これは単純に熟練度の問題。やはり使い込まねば、いくら強い武器だからといっても力を発揮できないものである。

 アンシュラオンがガンプドルフ級の相手に包丁で戦わなかったのは、相手のほうが剣技では数段上だったからだ。慣れない剣同士での戦いなら遅れを取っていたかもしれない。それほど重要な要素である。


 さらに―――もう一つ。


(なんかこの鞭さ、オレが持つと変な感じなんだよな。妙に拒否されているような気がして…これだと愛着を持てないな。これも相性なのかな? まあ、グランハムが持っていた武器だしな。そのイメージもあるのかもしれないが…)


 アンシュラオンが鞭を持つと、武具から「触るなよ」みたいな雰囲気が感じられる。地味にショックだが、これもまた重要な要素の一つだ。


 情報公開には出てこないがデータの隠しパラメーターとして、RPGで言うところの「ロウ」「ニュートラル」「カオス」のようなものが存在している。


 この区分は善悪というより「論理的」か「直感的」かという分け方なので、そのままの意味でないことが重要だ。

 たとえばグランハムの動きを見ていると、常に全体の戦局を見極めながら論理的に動いていたので、ロウ側の人間であることがわかる。

 『断罪演軌の赤鞭』という名称からもわかるように、この鞭はロウ属性の人間が使ってこそ真価を発揮する武具のようだ。

 アンシュラオンは中間型、カオス寄りのニュートラル派なので微妙な違和感を感じるのだろう。この男は論理的だが気分重視でころころ動きを変えるので、結果的に中間に収まっているということだ。

 一方、ヤキチなどの動物的で直感的なカオス側の人間では、この鞭は一生使いこなすことはできないだろう。(サリータもこちらのタイプ)

 その代わり、カオス側の人間は相手を打ち倒すための凶悪な武具が多いので、それはそれでバランスが取れている。

 総合的に見れば、ロウ側は安定した力を出す武具が多く、カオス側は不安定だが強力な武具が多い、ということになるだろう。ニュートラルはその中間となる。


「うむ、さよならだな。ひとまずポケット倉庫行きだ」


 今のままではロープ代わりにしかならない。そのうち誰か使えるスレイブが手に入ることを祈って、赤鞭はしばらくお蔵入りである。



「じゃあ、ホロロさんにはこっちだね。調整が終わったから持っておいて」

「これは…銃ですか? 普段見かけるものとは形が違いますね」

「ハングラスの警備商隊が持っていた特注品だからね。しかも改造して六発撃てるようにしておいたから、そこらの銃よりは優れているはずだよ」

「銃の改造とは、すごいことなのではありませんか?」

「うーん、そうなのかな? でも、銃の機構って難しくはないんだ。こっちのは言ってしまえば強力な吹き矢みたいなもんだしね。あとは装填をどうするかだけど…それも案外シンプルだよ」

「さすがホワイト様です。何でもできるのですね」


 ホロロは感心しているが、これに関してはたいしたことはしていない。地球にあったものの丸パクリである。


(ずっと銃には不満があったんだよなぁ。地球の知識を使えばもっと良いものが作れるのはわかっていたしね。用意できたのは一丁だけだけど、それなりに使えるはずだ。やっぱり安全性と信頼性ではリボルバーが一番だよな)


 銃は誤装填を避けるためにリボルバータイプにして、六発撃てるようにしてみた。

 いわゆるシリンダー式のライフルである【リボルバーライフル】や【リボルビングライフル】というものだ。

 機構はとても簡単。撃ったあとに手動でレバーを引けばシリンダーが回転し、次の弾がすぐに撃てるようになる。

 自動回転式にしてもよかったが、そこまでやるのは面倒だったし誤射を防ぐために手動にしておいた。このほうが安全だろう。

 また、ハングラスの倉庫に鉄っぽい金属がいくつかあったので、それを包丁で切り、火気で溶接して細部を補強してある。耐久性も十分だ。

 ただし、改造できた試作品は一丁のみ。あとは警備商隊が使っていた三発式の銃をそのまま使うしかない。こちらも予備として何丁か渡しておくことにする。


「術式弾もけっこうあるし、どこかで試し撃ちをしてみてね。あとは適当に術具を置いていくから説明書を見ながら試してみて。こっちが術符ね。防御と回復系はロゼ姉妹にも渡しておいて」

「かしこまりました」

「うーん、こんなもんかな。…ん? サナ、どうした?」

「…じー」

「何を見ているんだ?」


 サナを見ると、何かをじっと見つめていた。


 その視線の先には―――ラノア。


「…じー」

「んー?」

「…じー」


 サナが見ていたのは、ラノアが持っていたクマのヌイグルミであるクマゾウだ。

 ラノアも見られていることに気付き、そこで初めてサナとの交流が始まった。


「さわる?」

「…こくり」


(へぇ、あんなものに興味を示すなんて珍しいな。今までは完全無視だったのに…。うむうむ、いい傾向だな! 女の子にヌイグルミは定番だもんな。いいぞ、サナ、がんばれ! はぁ、ドキドキするな! サナとラノアの初絡みだ。何も起こらないといいけど…何かないと進歩がないし…そわそわ。ああ、もどかしいな!)


 アンシュラオンがその様子をじっと観察。

 その姿は、公園で子供たちが遊ぶ様子を見つめる親に似ている。

 自分の子供の成長を見守りつつ、何かトラブルが起こらないか気が気でない状態。公園デビューを果たした親子の様相である。

 見ているだけでもドキドキする。心配になる。でも、成長は嬉しい。そんな葛藤を味わっている世の中のパパさんママさんには敬意を表したいものだ。


 そのストーカー(馬鹿兄)が見守る中、二人の交流が始まる。


「はい、どうぞー」

「…こくり、ぐいっ」


(えええええ!? そこっ!? そこを掴むの!? サナちゃん、そこ掴んじゃったよ!)


 ラノアがクマゾウを差し出すと、サナがむんずとクマの顔面を握った。まさに鷲掴みである。

 なぜそこを選んだのか問いただしたい気分だ。ほかにも手とか足とか胴体とか、持つところはいくらでもあるだろうに。

 だが、サナが選んだのは顔面。アイアンクローである。

 さすがサナ。センスが他人とはまったく違う。これが狙ったものならば寒いが、彼女に関しては素でそこを選んだのは間違いない。


 容赦なく握られ―――クマゾウの顔が、ぐにゃっと歪む。


(クマゾーーーーウッ!!! クマゾウが!! サナ、強い、強い。強いって! クマゾウの顔が潰れているじゃないか! 目が、目が取れそうだ!! っと、ラノアは大丈夫か!? 泣かないか? 喧嘩とかしないよな!? やばい。こうしたときってどうすればいいんだろう!?)


 サナもラノアも子供であり、二人とも自分の大切な所有物だ。仮に他人が彼女たちに害をなそうものならば、全力をもって排除するだろう。

 では、当事者同士が争ったらどうなるのか?

 そこは非常に悩ましいところだ。


(サナは妹だから当然ながらラノアより上にいるけど…ラノアだって大切な子供だしな…。さっき抱っこしたら超可愛かったし、サナと一緒に抱っこしてもいいくらい気に入ったし、オレとしては両方可愛いんだよ! うう、これは大変だなぁ。怒るのも好きじゃないしな。なんとか穏便に済ませられないものか。両方が傷つかないように収めないとな)


 ルアンが聞いたら仰天する内容である。

 少年にはあんなに厳しかったが、身内の女の子には超絶に優しい。それがアンシュラオンスタイルだ。

 もし二人が争ったら介入できるか怪しいものだ。二人とも可愛いので怒るに怒れない。


(仕方ない。最悪はホロロさんに頼もう)


「ひぅっ…」


 と、アンシュラオンが卑劣な逃げ道を考え出した時、姉のセノアも二人の様子を青ざめながら見守っていた。

 彼女の場合は、ラノアがサナに失礼な真似をしないか気が気ではないようだ。


 が、それは杞憂。


「…なでなで、さわさわ」


 掴みこそ顔面だったが、サナは普通にヌイグルミを撫で始める。

 ミスター・ハローへの対応のように最初さえクリアできれば観察モードに入るので、それ以後は手荒な真似はしなかった。

 耳を撫でてみたり、抱っこしてみたり、振ってみたり、遊ぶというよりはやはり観察であるが、極めて穏便な取り扱いである。


「サナさま、クマゾウ、すき?」

「…こくり」

「えへへ、ラーちゃんも好き。おんなじ」

「…なでなで」

「なでなでー」


 特に言い争うこともなく、二人でクマゾウを撫であっている。

 ラノアもサナのことを上だと理解しているようで『さま付け』である。


「ふひぃ…」


 その瞬間、セノアは魂が抜けたようにがっくりと崩れながら安堵。

 しかしまあ、普通の子は大変である。いろんなところで気を遣う。この調子が続けばイタ嬢のスレイブのように、そのうち胃腸検査が必要になるかもしれない。


(これだ。これを求めていたんだ! うう、やった、やったよ! 感動だなぁ…幸せだよ!! 子供同士の触れあいって、どうしてこんなに素晴らしいんだ! うう…うおおお! やばいって! これやばいって! 写真を取らないと!!)


 セノアが崩れ落ちる一方、アンシュラオンはポケット倉庫からカメラを取り出して記録を始める。

 これもハングラスの倉庫にあったものだが、領主城の衛士が写真を持っていたように、カメラ自体は市販の術具として普通に売っている。

 機能としては、カードに使われている『保存ジュエル』に映像情報を記録するらしい。

 映像系に適した保存ジュエルは希少なため、数が少なく比較的高額である。さらに現像には鑑定に似た術式を使うので、これまた金がかかる。昔のインスタントカメラを思い出す仕組みだ。


 だが、惜しみなく激写。


 自分が管理している子供たちが平和的に触れ合うなんて、なんと微笑ましい光景だろう。これだけでもスレイブを手に入れた価値があるというものだ。

 自分が作る箱庭で幸せそうに暮らすスレイブたち。自分が近寄れば「わーい♪」「お兄ちゃんー♪」「パパー♪」という感じで笑顔で群れてくる。

 そして、それを抱きしめ、頬ずりし、香りを堪能し、触りまくり、膝抱っこしたり、ちゅっちゅぺろぺろしたりするわけだ。


(し、至福だ。これぞ天国だ!! 素晴らしい!! オレの箱庭だけは絶対に作らねばならない! その第一歩がこれなのだ!!!)


 パシャパシャパシャパシャ パシャパシャパシャパシャ


 それこそアンシュラオンが求めていた自分だけの世界であった。

 だが、子供たちを見てニヤついている顔はあまりに酷い。少しは自重してもらいたいものである。




225話 「上下関係は大事だ! オレが神で、お前は犬だ! 前編」


 ドタドタドタッ ガタガタガタッ!

 バンバンバンッ!


「―――!!」

「―――っっ!?!?」


 ドサッ! ゴンッ!



「ん? なんだ? 外で何を騒いでいるんだ?」


 アンシュラオンがサナとラノアを激写しながら、ちゅっちゅぺろぺろ王国の建国を夢見ている時である。

 何やら外から物音が聴こえた。叫び声のようなものも聴こえたので誰かが争っているようだ。

 扉の前ではサリータが見張りをやっている。何かあれば対応するはずなので、この音は彼女が出しているものだろう。


 つまりは、異変が起きたのである。


 ホワイト商会の所業を考えれば、ここで敵の討ち入りがあってもおかしくはない。

 が、ホテル事業は領主であるディングラス家の管轄なので、グラス・マンサーであっても簡単には侵せない。

 特に今は勢力間で牽制しあっているところである。マフィアがやってきた可能性は低い。


「まったくあいつらは…人が感動しているときに。しょうがないな」


 アンシュラオンは波動円ですでに気配を察知していたので、特に慌てることもなくゆっくりと扉に向かう。

 そもそも自分がホテルにいる時に討ち入りは不可能である。

 波動円はホテル全体を超え、その周囲数百メートルまで展開されているので、何かあれば即座に知れるようになっている。

 さらに罠も仕掛けてあるので、討ち入りがあろうともホテルに入る前に全滅となるだろう。敵意のある者は水泥牢に囚われて溺死である。

 なので、ここに来られるということは、アンシュラオンが許可した人物であることを示している。


 ガチャッ


 扉を開けて廊下の様子を覗き見ると、予想通りの事態が起こっていた。


「おい、サリータ、何をしているんだ」

「あっ、師匠! この女が入ろうとしたので捕まえたところです!」


 まず見えたのは、扉の前で番犬のように見張りをしていたサリータ。

 そして言い争うのだから、彼女のほかにもう一人が必要となる。その一人は今、サリータに押さえ込まれて床で呻いている。


「せ、先生! なんですか、この人!? いきなり首を絞めようとしてきたんですけど!?」


 それはゴールデン・シャイーナと呼ばれる存在である。

 番犬のサリータとは違ってまったくの無力なので、いとも簡単に捕まっている。

 上から腕と頭を押さえつけられ、さらに胴体に乗っかられているため、その豊かな胸が床に潰されていた。妙にエロい。


「なんだそれは? オレへのアピールか? だが、まだ足りないな。もっと乳首を床に擦り付けて『あはぁ〜ん、せんせぇ〜い、イッちゃうぅう、ぺろぺろわぅ〜ん』と言え」

「いきなり卑猥な言動!? 言わないですよ! 見ていないで助けてくださいーー!」

「言わないなら助けんぞ。サリータ、よくやった。正しい判断だ」

「師匠に褒められた! あ、ありがとうございます! 怪しい女め! 成敗してくれる!」

「ちょっとーーー! 見捨てないでください! こわっ! この人、こわっ!! 目が本気だ!! むぎゅうう! 死ぬーーー!」


 褒められて興奮したサリータに締め付けられ、完全に落ちる寸前だ。


(こいつ、暴漢に襲われたら一発でアウトだな。駄目な犬だ。しかし、サリータは武人以外には強いな。能力値を見ても一般人レベルでは勝てないし、門番くらいには十分使えるか)


 いきなり首を絞めるサリータもサリータだが、あっという間に制圧されるシャイナにも不安を感じる。

 所詮は愛玩犬にすぎない。無力なものだ。一般人ではサリータに勝てないという証明にもなったので、これはこれでよしとしよう。


「サリータ、そいつはサナの飼い犬だ。放してやれ」

「え? この女が…ですか? ものすごく間抜け面ですよ?」

「言いたいことはわかるがな。馬鹿な犬ほど可愛いというだろう? これでも身内だ。そういう駄目な犬を飼うことで自身の成長を促すという深い理由があるのだ」

「なるほど! さすがサナ様です! 了解です!」

「うう…死ぬかと思った…。もう! なんですぐに助けてくれないんですかぁ!」


 サリータがシャイナを放すと、恨みがましい目で見てきた。

 すぐに助けなかったことが気に入らないらしい。


「また人相が悪くなったな。どうだ、売人は? 毎日が楽しいだろう?」

「え? 売人?」


 その言葉に反応したのはサリータ。

 これが初対面である。相手の素性など知らない。いきなり売人と聞けば訝しがるのも当然だ。


「そうだ。こいつは麻薬の売人だ」

「なっ! やはり敵のスパイか! おとなしくしろ!!」

「ぎゃーーっ! 変なこと言わないでくださいよ! 勘違いされるじゃないですか! あうううう! 首を絞めないでぇえぇえ!」

「事実だろうが」

「そ、そうですけど…って、なんなんですか! いきなり呼びつけたくせに攻撃されるって最悪ですよ!」

「師匠になんて口だ!」

「ぐえぇっ! この人、なんとかしてください! ちょっとおかしいですよ!!」

「おかしいのは認めるが、お前よりは役立つ番犬だ。どうだ。いいだろう? こいつがサリータだ。見た目も美人だぞ。…しかし、ふむ。犬が二匹か。うちは二匹も飼う余裕はないし、ゴールデン・シャイーナのほうはべつにいなくてもいいかな?」

「せ、先生ぃ〜〜、捨てないでくださいよぉ〜〜! サナちゃんに直訴させてくださいぃ〜〜」


 サナに直訴とは狡猾な女だ。

 自分が助かるためならば何でもする。それがゴールデン・シャイーナである。


「サナが気に入ってるからな。捨てはしないさ。安心しろ」

「うう…人間扱いされたい…」

「ほら、さっさと入れ」


 むにょーんっ

 乳を引っ張る。


「ぎゃー、また乳を揉まれたー!」

「なんだこの弾力は!? 相変わらずの餅だな。ほら、サリータも入れ」

「警備はどうしましょう?」

「問題ない。説明があるからお前も入れ」

「はい、師匠!」

「…なんで胸を張り出す?」

「あっ、いえ!? …そうやって入るものかと」


 そうやって入る = 胸を掴まれて入る

 なぜかそう思ったサリータも相当な頭の悪さだが、当人が望んでいるのならば試さねばならない。それが主たる者の責務だ。

 ふにふに

 …足りない。掴めなかった。柔らかさはあるが、さすがに持つほどの大きさではない。


「すまん。ちょっと無理っぽい」

「くうう! 自分で自分が恥ずかしい!!」

「うん、まあ…気を落とすなよ」

「先生、やっぱりおかしいですよ、この人!」

「お前ほどじゃない。さっさと入れ」

「さりげなくディスられた!?」


 このままでは埒が明かないので、二人とも中に入れてやる。

 ちなみにサリータを配置していればこうなると思って、あえてそのままにしておいたのだ。

 意味はない。ただ犬同士が出会ったらどうなるか見たかっただけだ。

 結果は予想通り。面白い見世物であった。




 中に入り、二人が改めて自己紹介を行う。


「サリータ・ケサセリアと申します。どうぞよろしくお願いいたします!」

「あっ、どうも。シャイナ・リンカーネンです」


 サリータは相変わらず手を後ろに組んで、軍人のように直立不動で立っている。あれがスタンダードのようだ。

 身長はサリータのほうが高いので、シャイナは見上げる形となっている。


(ふむ、こうして見比べてみるとなかなか対照的だな。金髪と銀髪だし、背の高さも胸の大きさも違うしな)


 シャイナがゴールデン・レトリーバーだとすれば、やはりサリータはシベリアン・ハスキーだろうか。

 あの犬も運搬や狩猟補助などの用務犬としての特性があるので、武人のサリータにはぴったりであろう。

 こうして並び立つとコントラストが際立っていいものだ。飼い主としては集めた甲斐がある。


「さきほどは失礼いたしました。まさかサナ様の身内の方だとは思わず…ご無礼をいたしました!」

「あっ、いえいえ。謝ってくれるなんて、意外といい人…」

「おいっ」

「あうっ!? いきなりお尻をつままないでください! 何ですか?」

「お前の反応が面白くてな。尻をつまんだことに意味はない」

「理由が酷かった!?」

「それとな、立場はサリータのほうが上だからな。それを忘れるなよ」

「え!? そうなんですか!?」

「そりゃそうだろう。サリータのほうがお前より六つ年上だし、能力面でも上だ。サリータもそのように振る舞え。こいつはお前の下だ」

「はい、師匠! よろしくな、シャイナ!」

「この人、急に偉そうになったんですけど!?」


 明らかにサリータの態度が変わった。上官が部下を見るように完全に見下す目である。


「まあ、体育会系だしな。上には従順で下には高圧的なんだ。そこは諦めろ。本当に年上なんだから、べつにいいだろう?」

「そ、そうですけど…また私が下なんですか?」

「しょうがない。それがお前の宿命だ」

「残酷すぎる言葉!?」


 一つ年下というだけの残酷な理由で、恐るべき上下関係が生まれる。それが体育会系の宿命だ。六つも離れれば、社長とアルバイト以上の差があるに違いない。

 サリータが一度シャイナを下と見たが最後、けっしてこの関係は崩れないだろう。

 上下関係に厳しい犬同士にありがちなこととはいえ、相変わらず不運な女である。




 全員がそろったところで大切なことを周知する。


「そうそう、ちゃんと【序列】を決めておくぞ。上下関係は明確にしておく必要があるからな」


 さきほどのサリータとシャイナの騒動は、これがはっきりしていなかったから起こったことだ。

 楽しかったが、毎度これでは面倒なだけだ。最初から序列が決まっていればこんなことは起こらない。


 アンシュラオンが目指す枠組みは―――【絶対支配制度】。


 そこには序列の存在が不可欠である。


(歴史上、今まで数多くの国や組織が滅んできた。その教訓を生かさないとな。資本主義は失敗だった。社会主義も衰退した。民主国家も専制国家も正しくはなかった。制度はそれなりによかったが人間に問題があった)


 いかなるシステムにもそれなりに良いところと悪いところがあるが、扱う人間が未成熟なのでいつも失敗に終わるのが常だ。

 しかし、今のアンシュラオンは個の生命体として、以前の星とは比べ物にならない力を持っている。



 目指すものは―――【絶対支配者による完全平等主義】



 である。


 アンシュラオンが絶対者となることで他を平等にする。一切の妥協や矛盾を挟まない【完全管理型の社会】である。

 すべてのものはアンシュラオンに帰属する。良いも悪いも決められるのはアンシュラオンのみ。もはや神である。

 そして、神の下でこそ人々は完全なる平等を得る。神以外はスレイブなのだ。間違いが起こることもない。

 子供を集めてちゅっちゅぺろぺろ王国を作ることも、お姉さんを集めてぺろぺろあはーん帝国を生み出すこともできる。


(す、素晴らしい。オレが神だ! 絶対支配者だ!! 制度も序列もオレが決めるんだ!! くくく、最高だな、おい! これだからスレイブはやめられないぜ。いつかオレのスレイブだけの国を創ってやるからな!)


 想像しただけで、よだれが止まらない。

 完全なる支配と(自分だけの)自由の世界。これこそが理想郷である。

 その第一歩として、この小さな集団で実践してみる。ギアスがない段階での貴重な実験となるだろう。


「いいか、一番上は当然オレだ。オレが神だ! 逆らうことは許さん! わかったな! そして、次に妹のサナ。この序列は絶対に覆らない。覚えておけ。サナが死ねと言ったら死ね。わかったな。…まあ、サナは今のところしゃべらないけどな」


 この序列は絶対だ。すべては自分とサナのためだけにある。

 たとえれば、アンシュラオンという神の下で統治される「サナが女王の国」のようなものである。

 スレイブが何人になろうが、グループや組織がいくら大きくなっても、ここだけは変わらない。


「次にメイド長のホロロさん。それから同じくメイドのセノアとラノアが続く。それにサリータが続いて、最後にシャイナだ。わかったな。以上だ! 質問はあるか?」

「先生、質問です!」

「なんだね、シャイナ君」

「私が最後なんですけど…」

「何が不満なんだ?」

「それで不満に思わないほうがおかしいですよ!! なんで私が最後なんですか!?」

「うん、犬だし。何度も言っただろう。そろそろ覚えろ」

「いいかげんその立場はなんとかなりませんか!? だってその、犬でも子供よりは役立つと思いますよ!」


 犬であることは認めているようだ。


「あ、あの…わ、私たちは…その…メイドですから…サリータさんとシャイナさんよりは下ではないでしょうか?」


 このやり取りに対し、恐る恐るセノアが意見を出す。

 いきなり年上の女性二人より上と言われて、びっくりしているのだろう。顔が強張っている。


「年齢は関係ないさ。君のほうが上だ」

「で、でも…その……」

「困惑する気持ちはわかるが、君たちはまだまだ伸びる。術の才能もあるし、もっと自信を持ってごらん」

「…は、はい」


 主人にそう言われてしまっては、セノアは受け入れるしかない。

 ただ、誰だって認められるのは嬉しいものだ。まだピンときていないので心からではないが、なんとなく嬉しそうではある。


「シャイナはこれ以上、何も期待できないしな…やっぱり最下位だな」

「わ、私だってまだまだ伸びますよ!」

「医者を目指すのならば、そうかもしれんな。たしかにお前が医者になれば、そこそこ役立つだろう。術式以外の医療術も人間生活には必須のものだ。術が使えない場所だってあるんだし」

「せ、先生が私を褒めた!?」

「お前ががんばれば、の話だ。オレの目は確かだ。看護や医療の素質はあるさ。ただ、最重視するのは【力】だ。まずは強さ、それから特殊な能力を持つ者が優先される。その点でロゼ姉妹はお前の上にいるってことだ」


 ロゼ姉妹は『念話』という貴重なスキルを持っている。

 しかも術の才能があるので、鍛えてやればこれからもっと伸びるだろう。希少な術要員は大切にしなくてはならない。


「そのうちもっと増えたら文武ごとに分けるかもしれんが、ひとまずこの序列でいいだろう。サリータもいいな? お前の代わりはいるがロゼ姉妹の代わりはいない。これが理由だ」

「はい! 問題ありません!」

「よし! 各人はこの序列に従うように。下の者は基本的に上に逆らうなよ。一つ上程度ならば少しは意見を言ってもいいが、二つ上になったらほぼ服従だぞ」




〇序列発表


1位 アンシュラオン 役職:神

2位 サナ・パム   役職:妹女王

3位 ホロロ     役職:メイド長

4位 セノア・ロゼ  役職:おどおどメイド

5位 ラノア・ロゼ  役職:なでなでメイド

6位 サリータ    役職:サリータン・ハスキー(番犬)

7位 シャイナ    役職:ゴールデン・シャイーナ(愛玩犬)



※男スレイブはすべて女性スレイブより下の序列となる。というかゴミと同価値である。



 以上、現状での序列が決定。

 アンシュラオンにとってはすべて平等なのだが、その下の世界では凄まじき競争が生まれるシステムだ。

 完全格差社会、ここに極まれり。




226話 「上下関係は大事だ! オレが神で、お前は犬だ! 後編」


(ふむ、こんなものかな。上を作る以上、必ず下が生まれる。これは仕方がないことだ。だが、これでしか完全な秩序は作れない。そもそも人間は平等ではない。霊が違う以上、生まれながらに差があるのは当然だ)


 人間は生まれながらに違うし、才能に差がある。これは霊が蓄積した経験値の差が影響している。

 初めてこの世界に人間の霊として生まれる者もいれば、アンシュラオンのように何度目かの人生の可能性もある。

 前者は未熟なので失敗をよく犯す。後者は叡智を宿しているので失敗をしにくい。その差である。

 進歩の速度には個人差があり、現段階での到達点を比べてしまえば平等は存在しないことになる。


 これがいわゆる「人は平等ではないぃいいいいい!」という言葉の所以となっている。


 これは仕方がないことだ。人間が生きているこの宇宙は段階的に進歩するようにできており、地上だけで暮らしているわけではないからだ。

 仮に今は未成熟な人間であっても、アンシュラオンのように何度か再生して経験を積めば、より強靭な精神力を持った人間となることができるだろう。

 他人から「変態!」だの「ロリコン!」だの「エロ!」だの言われようが、まったく動じないメンタルを得ることができる。「だからどうした。悔しいなら〇〇〇をしゃぶってみせろ!」である。

 ただし、ある程度成長した霊は、地上でそれ以上進化できないと知ると、それ以後は霊界の新しい世界で過ごすことになる。


 この世界における霊界とは一般的に、女神が管理する【愛の園《その》】のことを指す。


 これはどこにあるとかそこにあるとかいうより、次元やバイブレーションの違いなので、この星に重なるようにして違う世界が広がっていると思えばいい。

 戦気に使う神の粒子が肉眼に見えないように、霊視能力(霊の視力)でしか認識できない世界がある。

 空気と同じだ。そこにあっていつも利用しているが肉眼で見えない。それが霊界にも当てはまる。存在しているが見えないだけだ。


 そして、愛の園と呼ばれる霊界を管理しているのが女神と呼ばれる存在。この星の守護神霊たる光の女神マリスであり、闇の女神マグリアーナだ。


 アンシュラオンが転生する際に出会ったのが闇の女神。優しくて母属性全開の慈悲深い女性だ。彼女は光の女神が生み出す愛(霊)を物質レベルに変換する役割を担うので、再生の際に立ち会ったのである。

 これを人間に当てはめると、精神や心である「霊」を、肉体という「物質」で包んでいる状態。それによって霊が地上で活動するための媒体を与える、という仕組みである。

 意識というものは何かの物質とセットでないと維持できないシステムなので、心や精神がある存在は何かしらの媒体を持っている。霊の振動数でいえば、それが霊体、というわけだ。

 ただし、霊体と呼ばれているものも進化の程度によって振動数はそれぞれ違うので、地上の人間が霊がほとんど見えないように、同じ霊同士でも上位の存在は相変わらず見えない。

 また進歩して振動数が精妙になっていくと、地上で死んだ時のように新しい世界が見えるようになる。

 こうして無限の進化の世界が永遠と連なっているので、上の世界に行けば、この地上で高位の存在もまた低位からやり直しとなる。

 今まで六年生だと威張っていたやつでも小学校を卒業すれば、また中学生で下っ端からやり直しというわけだ。

 だが、上の世界なのでレベルが下がったわけではない。地区大会をクリアしたので、次は県大会にランクアップしたにすぎない。それは成長と進化である。


 このように連綿と宇宙は広がっているわけである。それはもう無限に。


 非常に前置きが長くなったが、その途上の世界である地上世界で平等を生み出そうとすれば、どうしても序列を設定する必要がある。


 つまりは、優れた者がそうでない者を支配するシステムである。



(階級制度はオレが作ったわけじゃない。絶対神が作ったシステムなのだから仕方がない。だから堂々と支配しよう。ぐへへ。最高だな!)


 霊の世界では、いわゆるヒエラルキーと呼ばれる完全階級制度が導入されている。

 地上では曖昧に感じられるが、直接霊界に行くとこの序列には逆らえなくなる。なぜならば、より力が鮮烈に表現される世界だからである。

 光の女神など、あまりの霊性の輝きに直視すらできない。まさに太陽を見るようなものだ。弱い者が見れば目が潰れてしまう。

 それだけ強烈に表現される世界なので彼女には逆らえないのだ。アンシュラオンなど即座にひれ伏すだろう。


 そう、神が宇宙を生み出した瞬間から、それ以前からも世界は完全管理社会なのである。


 ただし、おそらくアンシュラオンが考えている支配制度と、絶対神が作った支配制度は何か違うと思う。

 女神は愛をもって人を支配する。愛は何も傷つけず、ただ愛することで相手を魅了する。尊敬する人間にはどんな粗暴な人物でも敬愛の念を抱くように、心から自然とひれ伏す。だから偉大なのだ。

 一方アンシュラオンは暴力をもって人々を支配する。うん、まったく違う。

 違うのだが、こんな男でも女神にとっては「使い勝手のいい道具」なのだから、実に世の中は面白いものだ。

 たとえば戦罪者や人間のクズどもは、光を見ると一目散に逃げて、日陰の世界でうだうだとくだらない日々を過ごすだろう。それでは永遠に進化がない。

 一人たりとも見捨てない偉大なる女神様は、そんな連中を救うために「暴君」を用意する。ゴキブリのたまり場に殺虫剤を吹きかけて強引に散らして日の下にたたき出すように、特効薬を用意するのだ。

 蛇の道は蛇。悪は悪によって淘汰され、統一されて導かれる。停滞した未開の大地においては、こんな破天荒な男こそ相応しい。



「せ、先生! もう一つ質問です!!」

「ん? なんだシャイナ、まだ文句があるのか?」


 またもやシャイナが食い下がってきた。いいかげんしつこい。

 だが、当人にはどうしても気に入らない点があるらしい。


「お前な、しつこいにも程があるぞ」

「わ、私はいいんです! でもほら、あの人! あの人はどうなんですか!?」

「こら、ホロロさんと呼べ。お前より年上だぞ」

「年上なだけじゃないですか! いくら先生が年上好きだからって、それだけで上にいるなんて…ずるいです!」

「サリータも年上だ」

「そ、そうですけど…! どうしてあの人が! 納得できません!」

「お前の序列は最下位だぞ。納得する必要はない。ただただ受け入れろ」

「厳しい!?」

「当然だ。それが序列社会だからな」

「じゃあ、そんなのやっぱりおかしいですよ!」

「じゃあ、出ていけ。今日からお前は野良だ」

「厳しい!?」


 世の中は厳しいのだ。自由を求めるのならば、それを得るだけの力がなければいけない。


「野良は大変だぞ。お前はオレの財力なしで生きていけるのか? ああん?」

「ず、ずるい! お金を盾にするなんて卑劣ですよ!」

「その金を目当てでやってきたお前は卑劣じゃないのか?」

「そ、それは生活の知恵です!」


 ゴールデン・シャイーナらしい卑劣な理論だ。この犬は、いつでも自分を正当化しようとする。

 そんな駄犬に対してホロロが黙っているわけもない。


「ワンワンうるさい犬ですね。ホワイト様がお決めになったことに反論するとは、やはり恩知らずな女です。こうなったら保健所に持っていきましょう」

「ひぃっ! それはやめてください!? ワン権侵害ですよ!」

「勝手に変な言葉を作るな。生存権でいいだろうが」

「だって、だって〜〜! この序列だとホロロさんがすごい権力を持つじゃないですか!!」


 結局、嫉妬である。底の浅い女だ。


「そこは信頼度だ。ホロロさんは頭が切れるし冷静だ。お前より役立つ。それにオレの妻の一人になるんだ。上になるのは当然だ」

「ええええええ!! それだけの理由ですか!?」

「妹のサナが上なんだから、至極当然の成り行きだと思うがな。それに、さらに上に割り込む女性もいるぞ。マキさんと小百合さんが同列でそこに入ることになる」

「また増えたーー! 誰なんですか!?」

「だから、オレの妻たちだって」

「じゃあ、私もそこに入れてくださいよ!」

「駄目だ」

「即答だ!!」


 現在ホロロがいる序列三位の場所は、妻となる女性が入る予定となっている。

 マキと小百合もそれぞれタイプが違うので、おそらく三権分立みたいに系統は分かれると思うが、それぞれの分野における最高権力者になるだろう。

 ただ、あくまでアンシュラオンの好みで妻にしているだけなので、能力的に優れたスレイブが手に入るのならば、その補佐として何人か付けたいとは思っている。

 妻が大臣だとすれば、補佐役は官僚の事務次官のようなものであろうか。


「ということで、序列はこのままだ」

「全然納得できないんですけど…」

「だから納得する必要はないんだ。受け入れろ。ホロロさんはオレの秘書でもある。命令されたら文句を言わずに従えよ。そうしないと死ぬからな」

「えええ!? どういうことですか!?」

「これからいろいろなことが起こるということだ。その時、ホロロさんの言うことを最優先で聞け。わかったな? 死にたくないだろう? お前が一番やばいんだからな。自覚はしておけよ」

「うう…わかりました」


 とりあえずシャイナは理解したようだが、そんな彼女を見ていると若干不安になる。


(スレイブ・ギアスを付ければ、こいつもおとなしくなるのかな? もし効かなかったら最悪だな。面白いが和を乱すことになる。やはりギアスの調整は急務か…。この争いが終わったら最優先でジュエルを確保しよう)


 あくまで予感だが、シャイナにはギアスが効かないような気がしてきた。付けてもワンワンうるさいに決まっている。

 だが、ある意味でそれは才能だ。魔人の影響力に屈しないというのは、むしろ誇るべき特異な才能である。


(まっ、いいか。それはそれで面白い。飼うなら珍しい犬のほうがいいしな)




 序列はこれで確定である。

 そして、さっそくその序列が効果を発揮する。


「おいシャイナ、ジュースを買ってこい。全員分だぞ」

「サリータさんが鬼になってますけど!?」


 先輩による後輩への命令が始まった。

 さすがサリータ。「ジュース買ってこい」という基本的なところを押さえるとは、まさに体育会系のお手本といえる。

 一度こうなると、「弁当買ってこい」「お前が謝ってこいよ」「今日間に合わせがないんだけどよぉ、金貸してくれない? いつか返すからさ(二百年後くらいにな!)」「んん? ちょっとジャンプしてみろよ。なんだぁ、これは?」から「尻を出せ」まで、実に高度な命令へと発展していく。

 泥沼である。もう終わりだ。これが序列の怖ろしいところである。


「せ、先生! 序列が一つ上程度なら文句を言ってもいいんですよね!? ね?」

「駄目だな」

「駄目!? なんでですか!?」

「お前はいつも反抗的だからな、ちゃんと先輩犬にしつけてもらえよ。サリータ、教育は任せたぞ」

「はい、師匠! 任せてください! ほらシャイナ、ダッシュで買ってこい! ダッシュ、ダッシュ!」

「ひぃいいいい!! やめて! お尻を叩かないでください!!」


 パンパンパンッ

 馬の尻を叩くようにサリータが催促をする。

 恒例のダッシュである。これもパシリの宿命だ。


「あっ、私がお茶を入れます」

「セノア、こいつらに気を遣うことはないぞ。お前のほうが上だからな」

「そうですよ、セノア様。こんなやつに気を遣うことはありません」

「あっ、いえ…様というのはちょっと…」


 サリータは律儀に序列上位のセノアに様付けである。


(サリータは、なんか生き生きしているな。やっぱり上下関係が好きなんだろうな)


 自らアンシュラオンのスレイブになりたがる女性である。最初から頭が飛んでいるのは間違いない。

 支配されることが快感なのだろうか? 行き過ぎると怖い趣味である。


「私とラノアのことは普通に呼んでください」

「そうですか? わかりました! セノアの姐さん!」

「それ普通じゃないですよ!? 呼び捨てでいいです。敬語もその…普通で大丈夫です」

「わかりました。…じゃなくて、わかった。これでいいかな?」

「はい。そのほうが落ち着きますから」

「自分は落ち着かないが…」

「サリータ、それも上のやつからの命令だぞ」

「なるほど!! ならば喜んで受け入れます!!」


 やっぱり命令されるのが好きらしい。危ない趣味だ。


「お茶の練習もしているので、一度味見をお願いします。ご主人様、いいですか?」

「ふむ、そういうことならばいいか。命拾いしたな、シャイナ」

「命拾いってなんですか!? 怖い!?」


(セノアはいい子だな。こんな犬たちにもちゃんと礼節を守ろうとする。ほんと泣けてくるよ)


 セノアがいなければ誰も抑える人間がいないので、怖ろしいことになっていたかもしれない。

 アンシュラオンやサナ、ホロロとサリータは、何の躊躇いもなく権利を行使するだろうから。

 まさにシャイナは命拾いである。これを抜け出すには『さらに自分より下』を生み出すしかないのだ。

 実はこれもアンシュラオンの狙いである。


(自分が一番下になるのを誰もが嫌がる。そうなれば積極的に下の人間を増やそうとするだろう。こうやって人材を集めていけばいい。くくく、予想通りだな)


 こき使われるのが嫌なので、新しい舎弟を生み出そうとがんばって集めてくれるだろう。ほぼネズミ講の仕組みである。

 自分で自分の才能が怖い。実に素晴らしいアイデアだ。



(ご主人様に淹れるお茶だから慎重にやらないと…)


 セノアがお茶を淹れている姿は、案外さまになっていた。昔から家事をやっていたことがうかがえる。

 何度か確認しながらゆっくり淹れていき、室内に紅茶のいい匂いが広がっていく。


「よし、大丈夫そうかな」

「ラーちゃんがもってくー」

「大丈夫? 気をつけるんだよ」

「うん!」


 茶を受け取ったラノアが、おぼんを持って運ぶ。とてとてと歩く様子が異様に可愛い。

 こうして見ると、やはり女の子としてのグレードが相当高いのがわかる。モヒカンは人間のクズだが、女を見る目だけはある。さすがスレイブ商だ。


「そっとよ。そ〜っとね」

「うん」


 何が起こるのかわからないので、セノアも並行しながら安全に気を配る。


「あっ―――」


 だが、そういうときこそ思いがけないことが起きるものだ。

 自分が床に置いたヌイグルミに足を取られ、ラノアがおぼんを揺らす。


 グラグラグラ


 紅茶も揺れ、中身がカップからこぼれそうになる。


 この時、セノアは焦った。


(あ、危ない! ご主人様の前でお茶をこぼしたら役に立たないと思われちゃう! 私たちみたいな子供にも優しい、すごく素敵なご主人様だけど…できるだけ失敗はしたくない!!)


 普通の女の子がゆえに彼女は失敗を怖れた。

 いくらラノアが子供でも、それに甘えていてはいけない。自分たちは買われた立場なのだ。少しでも役に立たないといけない、と。


(なんとかフォローしなきゃ! 届いて!!)




「チョエエエエエエ!!!」




 もはや反射的に湯飲みに手を伸ばす。力が入りすぎたのか卓球選手のような奇声を発するほどに必死だ。

 しかし、セノアは才能があるとはいえ、現在はただの女の子。武人でもないので運動神経は普通以下である。

 その彼女が一生懸命手を伸ばしたとて間に合うわけがない。むしろ慌てている分だけ危険だ。



 指先がカップに当たり、弾かれて吹っ飛び―――






―――シャイナにかかる。






「あっつうううーーーーーーー!?!???!」




 そのままだったならば、きっと誰にもかからなかったはずの湯飲みが、見事にシャイナに飛んでいった。

 先輩の理不尽な命令から逃れ、ほっとしていたところに熱湯の一撃。

 完全に油断していたので、気付いたのは当たってからだ。思いきり頭の上にぶっかかっている。


「ひっ、ひぃいいいいいい!」


 それに青ざめるセノア。

 まさかこんな結末になるとは思わなかったに違いない。慌てて駆け寄る。


「しゃ、シャイナさん! 大丈夫ですか!? も、申し訳ありません!」

「あつあつっ!! な、何が起きたの!? なんでかけたの!? はっ、まさか嫌がらせ!? まさかあなたまで私を狙うなんて!? す、末恐ろしい!」

「ち、違います! なんとか押さえようと思って…!! じ、事故なんです!」

「セノア、見事ですよ。正しい判断です。よく教えを守っていますね」

「あっ…え? あ、ありがとうございます、ホロロさん!」

「なんで納得したの!? お礼まで言ってるし!」

「シャイナ、飼い主たる師匠の前でなんて粗相だ! ちゃんと拭いておけ!!」

「サリータさんが酷い!? 私じゃないですよ!」

「あはははははは!! ゲラゲラゲラ!」

「先生も笑わないでくださいよ!? 私だけ集中砲火じゃないですか! あんまりです!」

「しょうがない。いじられキャラがお前だけだからな」

「ふ、増やしてください! いじられキャラを増やして〜〜〜!」


 なんだか急に賑やかになった。それが楽しくて笑ってしまう。


(こうしていると家族みたいだな。出自は違えど、オレという存在がいれば一つにまとまるんだ。う〜ん、感動だなぁ)


 そして、それはサナも同じ。


「…じー、パンパン」


 サナも皆の感情に反応するように身体を動かしている。

 ソファーを叩いているのは怒っているのではなく、感情をどう表現していいのかわからないのだろう。


 サナは―――【楽しい】のだ。


 それは気のせいではない。ちゃんと騒動を眺めている。身体全体から「楽しい」といった雰囲気を醸し出して。


(サナ…そうか。そうだな。楽しいもんな。大丈夫。これから何があってもオレがお前に楽しさを教えてやる。楽しい身内をたくさん作ってあげるからな)


 そのことがアンシュラオンの心を揺さぶる。

 サナのためにもっとスレイブを増やそうと誓うのだった。主にメイドを。




227話 「風呂だ! 風呂に入るぞ! その前に脱ぎ脱ぎタイムだ! オレが脱がすぞ!」


(うむ、セノアたちも打ち解けたようだし、ずいぶんと馴染んできたな)


 シャイナの馬鹿騒ぎによって、一番気がかりだったセノアも場に馴染んできたようだ。

 しかし、まだ足りない。

 アンシュラオンが求める一体感を得るためには、もう一つ欠かしてはならない要素があるのだ。



「風呂だ!! 風呂に入るぞ!!」



 それは―――風呂。


 古来より、日本人が仲良くなるために利用してきた最強のツールである。

 特に男女が仲良くなるためには必須で、恋人間でも一緒に入るかどうかが大きな分かれ目となる重要な要素だ。

 風呂に入らねば許されない。認められない。いったい誰がこのままで終わらせようと思うのか。

 古今東西、風呂を描かずして成功した物語はないのだ。ぜひ入らねばならない。風呂に! みんなで! しっぽりと!


「風呂の用意をいたせ!! 余は風呂を所望するぞ!」


 ちょっと殿様風に言ってみる。意味はない。


「し、師匠っ! それはまさか…」

「っ!? 先生…まさか…」


 その言葉に反応したのは、サリータとシャイナ。

 この二人は以前、お風呂でいろいろとあったのでピンときたのだ。


「お前ら、何を赤くなっている?」

「だ、だって、先生のお風呂ってその…あれであれであれですし」

「言っている意味がわからんぞ。なんだ? 犬の分際で神に意見を言うというのか? ああん? 逆らうなら尻を引っぱたくぞ!」

「先生がやたら高圧的だ!」

「オレは神だからな! 神の世話をするのが弟子の役目だ! そうだろう、サリータ!」

「はい、師匠! その通りです!」


 と言いながら、真っ赤になってガチガチになるサリータ。さほどたいしたことをしたつもりはないが、二人にとってはなかなかの体験だったようだ。

 シャイナに至っては「濃厚カルピス」まで飲ませてしまったので、トラウマになるのは理解できるが。


(そういえば二人ともまだ処女だったな。恥ずかしいのも仕方ないか。まあ、オレは処女しか手に入れないけどな。もちろん他の子たちも処女なんだが……ん? 待てよ。本当にそうか? まだ見てない子がいるよな…ちらり)


 自分は処女以外の女性を仲間に加えないので、ここにいる全員が処女である。

 ただ、セノアとラノアはまだ確認していないことを思い出す。


(モヒカンが所有する白スレイブは基本的に処女のはずだ。完全ではないとはいえ処女膜は確認できるからな。だが、自分の目で確認しないといけないだろう。よし。そうしよう)


「あっ、お風呂の用意をします!」


 だが、何も知らないセノアは、この反応。

 まさかその風呂が、自分の処女を確認するために使われるとはまったく思っていない。予感できたらエスパーである。


「いやいや、風呂の用意はオレがやるから大丈夫だよ」

「え? で、でも、ご主人様にやらせるわけには…」

「大丈夫、大丈夫。みんなで入るんだから」

「メイドとして私が……え? み、みんなで…ですか? 私も?」

「もちろん! それが目的…じゃなくて、みんなで入るから楽しいんだ。裸の付き合いって言うだろう? 肌と肌が触れ合って初めて仲良くなれるんだ。これ、オレの国の習慣ね」


 完全にオッサンの思想である。社員旅行でこんな発言をしたら、後日セクハラで訴えられるだろう。

 だが、間違いではない。食事や風呂を共有することで親密性が増すのはデータで証明されている。

 そう、これはデータで示されていることなのだ!!!

 だからしょうがない。しょうがないのだ!!


「いやー、楽しみだなぁ。こんな大勢で入るのなんて子供以来だよ。前も温泉とかあまり行かなかったし、山でも姉ちゃんとしか入らなかったし…ドキドキだな!」

「し、師匠、じ、自分はどうしましょう!? 見張りがありますが…」

「遠慮するな。オレがいる以上、見張りなんていてもいなくても同じだ。お前も入れ」

「は、はい!!」


 さりげなくサリータの存在意義を完全否定したが、事実なので仕方ない。

 それに対して何も思わないのは、彼女の知能が低いからか体育会系だからか。どちらにしても美人がゆえに残念な女性である。


「せ、先生…わ、私はべつにいいですよね?」

「何を言っている。お前が一番臭いんだろうが」

「臭くないですよ!? これでも気を遣っているんですから!!」

「んん? そうかぁ? 臭う、臭うぞ。麻薬と薄汚れたドブの臭いだ。お前からプンプンと臭う! それでよく堂々とお天道様の下を歩けるな」

「前から思っていましたけど、乙女にその言葉はどうかと思いますよ!!」

「あー、キャンキャンうるさいやつだ。サナ、さっさと捕まえて連れてこい」

「…こくり、がしっ」

「あっ! サナちゃん、駄目! ズボンを引っ張らないでぇ!」

「…ぐいぐい」

「なんか力が強くなったような…! 駄目駄目駄目、あーーー! 脱げたー!」

「服を脱ぐくらい静かにできんのか。まったく…」


 シャイナがサナに捕まって服を脱がされる。

 サナも少しずつ強くなっているのか、シャイナの腕力程度ではあらがえなくなってきているようだ。良い傾向である。


「あー、ちなみに服はオレが脱がすから、そのままの姿で脱衣所まで来るように」

「はい。わかりました。…え? 服を脱がす…? 脱ぐじゃなくて?」

「じゃ、先に用意しているからゆっくり来てくれ」


 その言葉を理解できず固まるセノアをよそに、アンシュラオンは浴室に入っていった。


(いやー、楽しみだな。最近はサナも自分のことは自分でやれるようになったし、お世話をあまりしていなかったんだ。だが、今回は思う存分できるぞ! 最高だな!)


 姉に散々教え込まれたため、女性の世話をしていないと手が震えるようになってしまった。麻薬中毒者やパンチドランカーの症状と大差ない。

 最近はサナも勉強のために自分で着替えをやらせているので、お世話の機会がぐっと減っていたのだ。それが非常にストレスであった。

 やはり男たるもの、自分の所有物の管理は自分でやらねばいけない。大事なものほど他人に委ねてはいけないのだ。



 ガラガラガラ

 浴室に入ると相変わらず大きな空間が現れる。

 この浴室は西側大陸の風呂を若干意識した造詣になっているが、それに成りきれない半端感がある。日本でたまにある「なんちゃって欧米式」みたいな雰囲気だ。

 とはいえ小百合の家の浴室の軽く十倍はあるので、ほぼ銭湯である。


「ええと…オレとサナ、シャイナにサリータ、ホロロさんにロゼ姉妹だから…七人か。十分入れるくらい広いけど、もうちょっと拡張しておくか。命気結晶も覚えたことだしな」


 アンシュラオンは備え付けの浴槽に命気で水を張りつつ、命気を結晶化させて空いたスペースにもう一つの風呂を作成する。

 備え付けの浴槽だと七人同時は少し狭いかもしれない。子供にありがちだが、サナは泳いだり潜ったりするのが好きなので、最低でもそのスペースは確保したい。


 命気を大量に放出して―――鉱物になるまで圧縮。


 こう書くと簡単だが、実際にやるのはなかなか大変だ。

 何千リットルという命気を使い、ようやく同じくらいの浴槽を作ることができた。一般的な家の浴槽が200リットル程度なので、その十倍以上は軽く使ったことになる。

 しかもこれは浴槽自体を生み出すために消費された量だ。真ん中は空洞の造りなのに、この消費量。正直割に合わない。


「うーん、結晶化は少し大変だな。慣れたらもっと簡単に作れるようになるかな? だが、思い通りの形になるのは便利で面白い。そのうちまた新しい創作湯船に挑戦してみよう。今度はそうだな…狼型かタコ型かな。デアンカ・ギースを模したら面白いか? …いや、グロいだけか」


 思わず職人の血が騒ぐが、今回は普通の浴槽にしておいた。

 こんなところにデアンカ・ギースを模した風呂があったら、ホテル側がいい迷惑であろう。ある意味で東大陸らしいと有名になるかもしれないが、自分は入りたくない。

 しかし、ただ四角い容れ物であるにもかかわらず、キラキラと輝く浴槽はまるでダイヤモンドで作られたかのように美麗だ。それだけでも何千万の価値がありそうである。


(このまま売れそうだよな。金に困ったら宝石商をだまくらかして高値で押し売りしてみようかな)


 知らない人間が見れば、まさに宝石である。成分はよくわからないが学術的な価値も高いはずなので、スラウキンが見たら発狂しそうなほど喜ぶに違いない。

 が、これはあくまで自分が所有する女性との風呂を楽しむためだけのもの。

 それを聞いたらスラウキンはショック死するかもしれないが、アンシュラオンにとってみれば結晶化の価値などその程度にすぎない。

 ソーメンを食べる時、透明の器のほうがちょっと涼しげでいいよね、くらいな感じだ。


「あとは加熱して…と」


 最後に火気を放出して命気を温める。一気にむわっと湯気が立ち込め、浴室内が白く輝いていく。

 ちなみに火気を配置して光を調節すれば、七色に光らせることもできる。最初はやっていたが、サナのリアクションがないのですぐにやめてしまった過去がある。

 今回は初めて入る子もいるので久々にやってみることにした。小さな火気を大量に生み出すと、周囲がミラーボールのように七色に光り出す。幻想的な光景である。

 これで準備は完了。


「よし、できた! それじゃ、お楽しみの脱ぎ脱ぎタイムだな!!」



 意気揚々と脱衣所に行くと、すでに六人がそこで待っていた。

 指示通り、まだ服を着ている状態だ。(シャイナは下だけ脱がされ、パンツが見えている)


「うむ、いい眺めだ。では、誰からいこうかな。よし、せっかく序列を決めたんだ。上から順番にいくか! まずはサナだ!!」

「…こくり」

「脱ぎ脱ぎしましょうねー♪ まずはボタンを外して…上着を取ってと。ふんふん、サナは可愛いなー」

「………」


 サナは何の抵抗もなく脱がされる。それが当たり前となっているので、むしろ脱がしやすいように身体を動かしてくれる。

 本気を出せば一秒もかからずに全裸にできるが、それではつまらない。じっくりとサナを味わうように脱がしていく。


「ふむ、もみもみ…少し筋肉がついたかな? 鍛練の甲斐があったな。お肌は…異常なし。しっとりすべすべだ。やっぱりこの色がいいよなぁ。うっとりするよ…サナちゃん最高!」


 サナの浅黒い肌を堪能しつつ、上着を全部脱がして上半身を裸にさせる。

 まだ子供なので胸はほとんどないが、妹枠なので胸はなくても問題ない。むしろ無いほうがいいと声を大にして言いたい。

 ただ、触った感触からすれば、成長すればおそらく中くらいの胸になりそうな気がしていた。それはそれで問題ない。サナはどんな胸でも似合うのだ。


「下も脱ぎ脱ぎしましょうねー♪」


 ロリータ服のスカートを脱がし、パンツ一丁になる。パンツもゆっくりと脱がし、その肌を堪能。


(癒される…! 癒されるよ! こんなにゆっくりサナを堪能するのも久しぶりだ。外や事務所だと集中できないしな。プライベートってのは重要なんだよ。周りにあんな臭い連中がいると思うだけで気持ち悪いし)


 仮に虫かごに入っているとしても、ゴキブリを見ながらサナを堪能しても気分が削がれるだけだ。

 それと比べ、久々のプライベートを楽しめるホテルは憩いの場である。

 最後に、一応確認。


「処女膜は健在だ。うむ、素晴らしい! 早く育つんだぞ。…いや、やっぱりゆっくり育っていいからな。まだまだ楽しみたいし」


 サナにはちゃんと処女膜がある。この膜というものも、人によって形はさまざまだ。

 女性器すら人によって形がまったく違うことがあるので、そういった意味でも個性とは面白いものだ。


「次はホロロさんね!」

「はい。よろしくお願いいたします」

「任せてよ!!」


 次は序列三位のホロロである。

 彼女は何度も脱がしているので、すでに慣れた様子だ。そもそも自分の言うことには逆らわないため、こちらも極めて脱がしやすい。


 上着を脱がしてブラジャー姿にして、一度堪能。


(うむ、バランスがいいな。ホクロがあるのがいいね)


 ホロロには口元のほかに、乳房の上部にホクロがちょこんとある。そのあたりもエロくて好きだ。

 ブラジャーを取りつつ軽く胸を揉んでほぐす、という芸当を見せると、ホロロが軽く甘い息を吐いた。

 さらに身体を触りながら下着を全部脱がし、全裸にする。ここでも一応確認。


「ぐにっと。…うむ、ホロロさんも処女だね。問題なし!」


 ホロロも処女である。やはり他人の手垢が付いていない女性は最高だ。


「さて…次はセノアだな」

「ひぅっ!」


 ギラっとした目でセノアを見ると、思わず一歩下がる。

 さきほどからアンシュラオンがやっていることを唖然とした表情で見ていた彼女である。まだ何が起こっているのか完全に理解できていないらしい。

 それも当然。こんな変態的な行為を最初から受け入れるほうがおかしい。サナやホロロのほうが変なのだ。

 その変な集団に入ってしまった普通の女の子が、今回の獲物である。


「ご、ご主人様! やっぱり私…じ、自分で…」

「大丈夫。これもオレの役目なんだよ。医者として君たちの健康管理をする使命があるからね」

「そ、そうなんです…か?」

「そりゃそうだよ。だからいろいろなところを触診しているんじゃないか。そうじゃないとおかしいだろう?」

「…そ、そうですね。普通はそんなことしませんもんね」

「そうだよ。だから全部任せてね」


 駄目だ、セノア! 騙されちゃいけない!! その男が言っていることは全部嘘よ!

 と天国のお母さんが言っていそうだが…ごめんなさい、お母さん。娘はもうこの鬼畜大王のものなのです。

 だから服を脱がされます。


「ほほーい」

「あうっ!」

「おっ、案外着痩せするタイプだね。意外と胸はあるじゃないか」


 最初見た時は胸がまったくない印象だったが、こうして見ると少しはある。

 だが、触ってみないとわからない。ぜひ触ろう。




228話 「アンシュラオン先生のおっぱい査定」


「触診を開始する!!」

「ひゃっ!」


 セノアの胸にがばっと手を乗せる。

 まだまだ小さいが、ぷにゅんという柔らかさが手に広がった。


(おっぱいは誰のであれ良いものだ。しかし、自分のものだと思うと感覚も違うな。オレのものだから素晴らしいのだ! このすべてはオレのものだ! 大切にせねばな)


 もみもみもみ


「にゅっにゅっにゅにゅっ!!」


 揉むごとにセノアが毛虫のようにうねうねする。


「触られるのは初めて?」

「は、はい。こんな感じで…触れるのは…にゅっ…にゅうぅうう」


(妹のラノアともども不思議な声を出すな。可愛いぞ!)


 ラノアも撫でると「きゅっきゅ♪」という小動物っぽい声を出す。姉のセノアもアニメキャラクターの強引な語尾付けみたいな声を出している。

 狙ってやっているわけではないので、これが素の嬌声なのかもしれない。なかなかレアだ。


「我慢して。これは触診なんだからね!! 女性にとって胸は大事なところだ。何か病気があったら困るだろう?」

「は、はい…!」

「そうそう、医者には素直に従う! これが健康の秘訣だよ!」


 医者プレイを堪能。久しくやっていなかったので少し新鮮に感じられた。

 とはいえ、すでに彼女は購入時に命気で浄化済みなので健康なのはわかっていること。ただの方便である。


「ふむふむ…うーむ、まだまだ固いが成長期だからな。これから伸びるだろう。ホロロさんくらいは難しいかもしれないが…素質は感じる」

「うっ…ふにゅぅうう」

「ん? 何か聴こえるぞ。ん? 何だって? うんうん、ふむふむ。そうかそうか。うん。大きさより美しさを重視したいと? なるほど、それも一つの道だね。ナンバーワンよりオンリーワンがいいというのか。では、君の意思を尊重しよう」


 何か独りで語っている。乳と会話していたとしたら本物の危ない人だが、この男には何かが聴こえるらしい。

 忘れてはいけない。彼はおっぱいの妖精なのだ。それくらいできて当然である。


「胸はこれでいいだろう。では、下だな」

「っ!!」


 下と聞いてセノアが強張る。無意識のうちにスカートを掴んでガード。

 だが、所詮は無駄な抵抗だ。


「あっ、セノア、上だ! あそこ! ほら!」

「へ? 上?」

「ほほーいっ」


 ズルンッ

 注意を上に引き付けておいての不意打ちパンツ下ろしである。スカートと下着を同時に下ろす高等テクニックだ。

 本当はじっくり味わいたかったのだが、彼女の精神が耐えられない可能性があったので一気に下ろしたのだ。そんな気遣いができる自分は、なんて優しいのだろう。

 目の前には、誰にも穢されていない下腹部が露わになっている。


「毛はないな。あってもなくても好きだが、骨盤は…悪くない。ただ、まだまだ痩せ型だな。もともとこういう骨格なのか? お腹はぷっくりしていていいな。恥丘もこの位置か。子供としてはこんなもんだな。うん、健康体だ」

「はひゅぅう、はひゅぅううう」

「太ももから尻は…この形か。丸型だな。持った際は手にしっかり収まって悪くない」

「うきゅうううう、ふにゅううう」


 アンシュラオンが触るたびに顔を真っ赤にして耐えている。

 あまりの恥ずかしさにお腹のあたりまで真っ赤になっていた。どうやら肌は敏感らしい。

 それから一番重要なところに手がかかる。


「あっ、そこはっ!!」

「モーマンタイ!!」

「え? モーマン…?」

「今だ、ええい! がばっ!」


 モーマンタイとは、広東語で「大丈夫」とかいう意味である。漢字で書くと「無問題」である。映画のタイトルにもなったので一時期流行ったものだ。

 今度は謎の異国の言葉で気を逸らした瞬間に、がばっと女性器を指で広げた。二度目も簡単に引っかかるとは、セノアは素直な子である。


「全体的にちょっとまだ固いな。使い慣れていない証拠だ。…と、膜は…あった。けっこう全面タイプかな。まあ、『処女膜=処女』ではないけど、これなら大丈夫だろう。合格だ」


 処女膜自体、性交を重ねても完全には消えないので難しいところだが、セノアは間違いなく処女と認定。

 おめでとう。合格です。


「確認ができてよかった。じゃあ、次はラノアだ。おいでおいで」

「はーい♪」

「ラノアちゃんも脱ぎ脱ぎしましょうねー」


 セノアが処女だと確認してほっとしたアンシュラオンが、続いて妹のラノアの服を脱がしている。

 それを呆けた目で見ながら、セノアは思考が停止していた。


(あれ? 私、どうなったの? えと、たしか…服を脱がされて…え? なんで服を脱がされて…? それから下も脱がされて…それからえっと…そ、そうだ。あ、あそこを…広げ…広げっっっひぃいいいい!!! だ、誰にも触られたことがないのに!)


 幼少期ならばいざ知らず、親にだって触られたことがない場所を思いきり触られれば、年頃の少女はびっくりするだろう。

 これも普通の反応だ。今楽しそうに脱がされているラノアがおかしいのである。

 四年前の自分でも今と同じ反応だったはずなので、完全に個人の性格の差だろう。


「………」

「セノア、ホワイト様に感謝の言葉を捧げなさい」

「…へ?」

「この御方に愛されるということは実に名誉なことなのです。あなたが認められた証なのですから、もっと胸を張るべきです」


 ホロロが放心しているセノアに何か言い出した。

 セノア、この人の言うこともあまり聞かないほうがいいわよ! と天国のお母さんが言うが、霊聴力でもなければ聴こえるわけがない。


「ホワイト様が愛されるのは『生娘《きむすめ》』だけ。多くの女性が無駄に散らしている中、あなたはその歳までしっかりと取っておいた。そのご褒美なのです。これは本当に幸運なことです」

「あ、あの…どうしてそれが重要なのですか?」

「いつの時代も神は生娘を欲するものです。神聖ゆえに穢れないものを好むのです」

「な、なるほど。よく言いますもんね」

「そうです。見てみなさい。あの神々しい御姿を。全身が真っ白に輝いています」

「た、たしかに…白いです」

「まさに選ばれた者の証です。なんて真っ白で美しい…」


 それはそうだ。白い服を着ている。髪の毛も白い。白いのは当然だ。

 これと似たことをソブカがプライリーラに訊ねたが、良識人である彼女はしっかりと否定している。そんなものは迷信だよ、と。

 よって、完全にホロロの勝手な妄信である。彼女の中ではアンシュラオンの神格化が相当進んでいるようだ。


「あなたも恩恵を受けているはずですよ。もしそのままだったらどうなっていましたか? 薄汚い男に買われたら?」

「っ…そ、そうですね…その通りです。こんな素敵なご主人様に選ばれたことは光栄ですよね」

「その通りです。もっとその自覚を持つべきです。あなたは恩知らずにはなりたくないでしょう? 私たちを幸せにしてくれるあの御方に感謝し、神に相応しいメイドになれるように日々精進いたしましょう」

「はい、わかりました! ご主人様のお役に立てるようにがんばります!」


(ホロロさんがこんなに信頼しているんだもの。ご主人様はやっぱりすごい人なんだ。もっとがんばらないと!)


 重要なことは、ホロロが彼女の『教育係』だということ。

 『メイド大臣』である彼女は、これ以後メイドになるすべての人間に対して、生殺与奪を含めた絶大な権限を有することになる。

 その彼女の頭が若干イッてしまわれているので、その下のセノアも感化されていくことになるだろう。

 それが幸せか不幸かはよくわからないが、どのみちまともな神経ではアンシュラオンのスレイブは務まらない。妄信もまたアリである。



「ふーむ、ラノアは子供っぽい体型をしているな。真ん丸だ。いいぞ、可愛いぞー、さわさわ」

「んふふ、きゅっきゅっ♪」


 ラノアはサナよりも少し肉付きが良いらしい。子供らしくお腹周りも少しふっくらしており、触っていると柔らかくて心地よい。

 彼女はそれも愛情表現だと思っているのか、触っている間も終始ご機嫌である。可愛い。


(胸は…と。ぷにゅんとしているが…これは子供特有の脂肪なのかな? ただ、胸に関してはかなりの素質がありそうだ。…これはそこそこいくんじゃないのか? 伸びるぞ…うん、伸びる! 間違いない!)


 ピキューンッ!

 アンシュラオンの特殊能力が発動。ラノアは巨乳になるというお告げが下った。

 巨乳といってもかなり差異があるが、D〜Eカップはいきそうだ。さらに身長が伸びなければ「ロリ巨乳」という道もある。


(これと比べるとサナは…たぶん大きさでは負けるな。だが、それでいいのだ。サナの潜在力は大きさではない。あのしっとりとした肌が織り成す極上のフィット感のはずだ。兄としてしっかり導かねば)


 胸の確認が終わり、続いて一番大事な下のチェックである。

 子供らしい可愛い下着を下ろして女性器を確認。うん、まさに「ぴったり」だ。


(完全に未使用だな。女性は自慰行為も男と比べれば遅いこともあるし…まあ、子供だな。問題なし!)


 ラノアの処女膜も確認し、無事ロゼ姉妹の安否が確認された。わかってはいたがほっとする。


「次、サリータ!」

「はい!」

「サリータの胸は前に見たが…とりあえず脱がそう」


 サリータの服も脱がしていく。

 彼女も抵抗なく脱がされていくが、思えばいろいろと扱いが難しい女性でもある。


(弟子という扱いがなー、どうしても性的な要素を抑えてしまうんだよな。元はこんなに美人なのにさ。普通にメイドとして来たら喜んで手に入れちゃうくらいなんだけどなぁ)


 素のレベルが高いので、サリータは間違いなく美人である。だが、あの出会いがまずかった。

 あれからいろいろなところで彼女の駄目さが浮き彫りになり、どうにも女性として見ることができなくなりつつある。

 それはシャイナも同じなのだが、やはり女性である。それではいけない。


(優しく触ろう。これも神聖な胸の一つなのだから。さわーり、さわーり)


「ふー、ふー」

「さわーり、さわーり」

「ふー、ふー」

「さわーり、さわーり…さわさわさわさわ」

「うくっ…ううっ…うっ…」

「さわさわさわさ、もみもみもみもみもみっ!!」

「うううっ…はぁああ!! し、師匠…」

「くそっ! いろいろと駄目だ!」


 敗因@:おっぱいを触ると熱中してしまうこと

 敗因A:やっぱり師弟関係は難しい


 結局、雑念が湧いて集中できない。非常に残念な結果だ。


(年齢を考えると成長は見込めないが、胸自体の質はいいんだよな。うーん、惜しい)


「では、下も確認する。自分で広げるんだ」

「は、はい…はぁはぁ」

「ん? 何か息が荒いぞ? なんで興奮している?」

「こ、興奮などは…しておりません!」

「ならば、さっさと広げてみせろ」

「は、はい…!」

「んん? なんだぁ? 妙に湿っているな。これはどういうことだ?」

「そ、そのようなことは…ありません…あっ!」

「触ればすぐにわかるような嘘をつくな! けしからん犬め! ぐいぐいっ」

「あああ、そ、そんなに広げたら…!!」


(あれ? 何か違う方向に…)


 なぜか師弟(教官)プレイになってしまう。これはまずい。

 そもそもサリータが命令されて興奮するほうがおかしい。支配されたい欲求が半端ないから困る。

 それにうっかり流されて、ついついこうなってしまうのだ。再び泥沼である。

 とりあえずサリータも処女であった。思えば前に風呂に入った時は確認しなかったので、ちょうどよかった。


「最後はお前だな」

「わ、私はいいですよ」

「馬鹿犬が! お前が一番危ないんだろう! さっさと見せろ!」

「きゃっーー! 待ってください! まだ処女ですから! 前も見たじゃないですか!?」

「信用できん! もう一度見せろ!」

「あーーーー! パンツがーーーー!」


 強引にパンツを剥ぎ取って股を確認。


「うむ、処女だな。安心したぞ」

「うう、そうだって言ったのに…」

「お前は信用できんからな。保身を図って嘘を言いかねん。ほら、上も脱がすぞ」

「あううう…!」

「うーむ、胸はさすがのA評価だな」


 シャイナの胸はやはりモンスターである。これはいまさら説明する必要はないだろう。



 パンパカパーンッ

 これより結果発表を行います。



〇アンシュラオン先生のおっぱい査定


※1〜5の五段階評価、5が最高



 名前  :サナ・パム

 乳タイプ:中乳美乳型

 大きさ :1
 形   :5
 柔らかさ:3
 吸付感 :5
 可能性 :5

 一言  :大きさではなく形に特筆すべき点があります。さらに肉肌の質は完璧です。肌の感触、肉感、子供でありながらこれだけの素質を持っているのは驚きです。肌の色艶も素晴らしい。まさに百年に一人の逸材といえます。ただ、この胸はまだまだこれからです。この素材をどう生かすかが腕の見せどころになるでしょう。が、安心してください。あなたの未来は栄光に満ちています。あなたが目指すべきは「美乳もっちり型」です。


 名前  :ホロロ・マクーン

 乳タイプ:中乳バランス型

 大きさ :4
 形   :3
 柔らかさ:3
 吸付感 :3
 可能性 :2

 一言  :全体的なバランスが良い、ほぼ成熟した胸です。大きさも中の上で揉みやすく、大いに満足できる出来です。これ以上の成長はしないでしょうが、もう少し歳を重ねて熟す可能性が残っているので、このままケアを怠らないように。胸のホクロもさりげないチャームポイント。あらゆる場面で高い性能を発揮できると思われますので、数字以上に評価は高いです。


 名前  :セノア・ロゼ

 乳タイプ:小乳美乳型

 大きさ :1
 形   :3
 柔らかさ:2
 吸付感 :2
 可能性 :3

 一言  :特筆すべき胸ではないと言えば怒られますが、それだけ悪い点が見当たらないということ。管理がしやすく邪魔にもならず、どんな男性にも適度に喜んでもらえる胸になるでしょう。人を選ばないとはこのことです。それは長所でしょう。可能性もまだまだあります。ただ、器用貧乏にならないように対応力を身に付けてください。そうすれば幾多の場面で輝くでしょう。あなたが目指すべきは「美乳すべすべ型」です。


 名前  :ラノア・ロゼ

 乳タイプ:巨乳ふっくら型

 大きさ :1
 形   :4
 柔らかさ:4
 吸付感 :3
 可能性 :4

 一言  :正直言って、現状では評価が難しい胸です。悪い意味ではなく、相当な可能性を持っているからです。安易に触って形を作るのではなく、自由に伸ばしたほうが開花するかもしれません。これはかなりの逸材ですが、多少デリケートなのが気になるところ。天才肌の胸は型にはめてしまうと伸び悩みますので、くれぐれも扱いには注意して個性を伸ばしてください。きっと素晴らしい胸になることでしょう。あなたが目指すべきは「巨乳ふっくら型」です。


 名前  :サリータ・ケサセリア

 乳タイプ:小乳ふんわり型

 大きさ :2
 形   :2
 柔らかさ:2
 吸付感 :2
 可能性 :1

 一言  :すでに完成しきっている胸なので、可能性については論ずる必要はないでしょう。これ以上は伸びません。全体的に小粒な印象ですが、女性としての魅力はしっかりとあります。これが生かされていないのは当人の意識の問題だと思われます。もっと女性の部分を意識すれば、あなたは輝きます。逆にほどよい主張が、あなたの容姿と相まって男性に「美」を感じさせるしょう。多少厳しめの採点をしましたが、それだけ期待している証拠です。がんばりましょう!


 名前  :シャイナ・リンカーネン

 乳タイプ:生乳モンスター

 大きさ :4
 形   :3
 柔らかさ:5以上
 吸付感 :4
 可能性 :4

 一言  :危険です。これはモンスターです。この柔らかさは5では足りません。よくこれで重力に逆らえるものです。それだけで感動します。人類の叡智は重力すら打ち破るのですから。ですが、柔らかいからといって満足していてはいけません。それだけでは一流になれません。柔らかさとは違う微妙で絶妙な弾力も重要なのです。それが手に余韻を残し、まだ揉んでいたいと思わせるのです。また、あまり肌艶がよくありません。普段の体調管理をしっかりしないと、せっかくの胸が台無しです。厳しいことも言いましたが、まだ若く可能性もあり、才能はピカイチ。大舞台でも活躍できる才覚を感じざるをえません。


※特別編

 名前  :パミエルキ

 乳タイプ:究極姉巨乳タイプ

 大きさ :5
 形   :5
 柔らかさ:5
 吸付感 :5
 可能性 :1

 一言  :先生が出会った中で最高の胸です。完成されているので可能性は感じさせませんが、まさに非の打ち所の無い胸といえるでしょう。大きくて柔らかく、それでいて弾力があります。弾力も一定ではなく、揉んだ強さや位置、角度によって毎回変化に富むので飽きさせません。手に吸い付く感覚も完璧で、くっつきながらもべたつかず、かといってこちらの思惑を裏切る形で毎回吸い付いてきます。だから何度でも揉みたくなるわけです。しかも、どんなに乱暴に揉んでも大丈夫です。ムキになって揉んでも、結局こちらが先にダウンさせられます。耐久性もナンバーワンでしょう。二十年近く揉んでいましたが、飽きたことは一度もありません。女神はなぜこのような乳を世に顕現させたのか。まさに人類の謎であり希望です。ただし、この持ち主は非常に危険ですので、普通の人は近寄ってはいけません。今回は乳房の最終到達点の一例として挙げさせていただきました。ぜひ皆さんもそれぞれの頂点を目指してがんばってください。



 以上、アンシュラオン先生のおっぱい査定でした。




229話 「殿、ご乱心! 殿、ご乱心! 『自慰禁止令』が発令されたでござる!」


「うむ、これで全員裸だな。では、オレも脱ぐか。ぽろん」

「きゃーー! 下から脱がないでくださいよ! 普通は上からでしょう!?」

「誰がそんなことを決めた。オレは下から出す。自信があるからな」


 いきなりズボンから脱ぐ。それが男気というものだ。

 ただ、さすがに刺激が強かったのか、セノアは再び呆然とし、サリータも少し動揺したそぶりが見受けられる。


(まったく、たかが裸なのにな。まあ、反応しなくなったら、それはそれでつまらないけどな。今は初々しさを楽しんでおくか。だが、ふむ…。せっかくだ。面白い技を見せてやろう)


「おい、シャイナ。見ろ」

「やめてください! 見ませんって!」

「んん? 何を勘違いしている。ほら、よく見てみろ。ほれほれ」

「ほんと先生って最低……って、え!? な、無い!? 無いですよ!?」


 恥ずかしがりながら凝視するとは、やはり信用できない女だ。

 しかし、シャイナが見つめた先、アンシュラオンの股間には―――無い。

 例のブツがまったくないのだ。


「え? え!? なんでないんですか!? え!? 切ったんですか!?」

「怖いこと言うなよ。男にとってはそれが一番嫌だぞ」

「じゃあ、どこに行ったんですか? 後ろに隠しているとか?」


 頭の悪い小学生の頃などは、同級生の誰かが「ほら、なくなった!」とか言って、股の間に隠したことがあった。

 本当に馬鹿丸出しの芸だが、股を閉じた正面からの状態では見えなくすることも可能だった。

 だが、アンシュラオンの股には、もう完全に何もない。本当にない。これは明らかに異常だ。


「ふふふ、驚いたか。だが、武人ならば普通の芸当だな。お前たちも知っている通り、男にとってここは急所だ。当然、戦いになれば金的が一番怖い攻撃になる。ぶらぶらしているし邪魔だしな。だからこうするんだ」


 格闘漫画でもよくあるが、金的は非常に効果的な攻撃の一つだ。

 男にとって、これは痛い。あまりに痛い。痛みすら超越するほどに痛い。

 これは男性だけではなく、女性の乳房も同じである。あんなにぶらぶらさせていたら邪魔でしかない。


 そこで『肉体操作によって急所を消す』のだ。


 某漫画、プールの下に裸で現れた総理大臣からマーダーライセンスをもらった某忍者主人公のように、肉体を操作して一時的にブツを体内に収納する。さらに下腹部を硬質化させることで完全防御を果たすのだ。

 生殖器官は戦う際には邪魔になる。武人は痛みを消すこともできるので、当たっても痛いわけではないが、もし千切れたりでもしたら自信を喪失する。もう生きていけない。枕を涙で濡らす日々を送るだろう。

 しかし、武人というものはそれを克服している。戦いに特化するために肉体を変質させることができる。亀が頭を引っ込ますように中に収納することが可能だ。

 「そんなスペースあったの?」というツッコミはしてはいけない。某忍者だって相当無理があったのだから。

 出来るものは出来るのだから仕方ない。そういうものである。

 これは女性も同じで、鉄のブラジャーではないが、乳房を筋肉に変えて防護壁にすることも可能だ。その意味では女性のほうが心臓への耐久性が高いといえる。

 当然、肉体操作ができる段階まで強くならねばならない。戦気術を自在に操ることと同じで、これも鍛練の成果である。


「ということだ。わかったかね? これなら問題ないだろう?」

「先生って、ちゃんと子供たちのことも考えているんですね」

「当然だ。セノアたちが怖がるかもしれないからな。そこは配慮するさ。ほら、サリータもよく見なさい。これも勉強だぞ」

「はい! すごいです! 勉強になります!」


 こうしてシャイナとサリータの視線が集まったところで―――


「突然のぽろん!」

「きゃーーーーーー!!」


 にゅいっとゾウさんが出現。

 思いきり目に焼きつく。


「なんで出すんですかー!?」

「お前たちは子供じゃないだろう」

「そうですけど…!! もうっ! 意地が悪いですよ!」

「からの、自己主張!」


 にょきにょきっ


「きゃーーーー!! 伸びた!!」

「そういうものだからな。サリータもよく見なさい」

「は、はい…すごく……お、大きい……です」

「サリータさんも凝視しないでくださいよ!!」


 という余興があったとかなかったとか。相変わらず馬鹿をやっているものだ。





 ガラガラガラ


「うわー、なんですか、これ!!」

「す、すごいです…キラキラしていますね」

「わー、きれーい」


 シャイナとセノア、ラノアが幻想的な光景に嘆息し、目を奪われていた。


「これは…美麗ですね」

「これは素晴らしい…さすがホワイト様です」


 命気風呂を知っているはずのサリータとホロロも、このレインボーには驚いている。

 どうやら演出は成功のようだ。これだけ反応してくれると、わざわざやった甲斐があるというものだ。


「…じー」


 唯一サナは驚かないが、皆が驚いている姿を見て少し楽しそうなのは気のせいだろうか。

 「ふふん、そんなの私はとっくに知っていたわよ」くらいな気分でいてくれると兄としては嬉しい。そういう優越感もまた人間の証だからだ。

 悪がなければ善は生まれず、マイナスがなければプラスは存在しえない。その対比が彼女を人間にしていくだろう。



「あれ? なんですか、これ? 前はこんなのなかったですよね?」


 以前、このホテルの風呂に入ったことがあるシャイナが、命気結晶浴槽に気付く。

 この浴槽にも火気が触れており、常時温度を一定にしつつも光によってレインボーを生み出しているので、見た目は実に鮮やかで美しい。


「うむ、オレが作った」

「作った!? こ、これ、いくらで売れるんですか!? まだ作れるんですよね!?」

「お前な、どんだけ金の亡者だ。金以外のところに注目しろ」


 鋭い観察眼だと思っていたが、単なる守銭奴である。卑しい女だ。


「だってぇ〜!! お金に困っているんですよ。先生が診察所を開いてくれないとお金が入らないんです!」

「今まで散々優遇してやっただろうが。あとは自分でやりくりしろ」

「本で儲けたくせに!!」


 読むだけで幸せになると噂の著書「ザ・ハッピー(著:ホワイト)」であるが、当然ゴーストライターのマタゾーには一円たりとも入らず、売り上げはすべてアンシュラオンの懐に入っている。

 ぼろ儲けだが、その後は診察所を開いていないのでシャイナが働く日が激減している。彼女の肌艶が悪い原因はそこにあるのだろう。


「あれはオレの金だ。ごちゃごちゃ言っていないで、さっさと入れ!」

「きゃっ! あーーー!」


 ヒョーーーン ドボンッ

 アンシュラオンがシャイナを浴槽に投げ入れる。


「あっ、しまった。汚れた犬を先に入れてしまった。まあいいか、命気で汚れも落ちるしな」


 この命気風呂の優れているところは、汚れを吸い取って蒸発させることだ。

 仮にシャイナが真っ黒だったとしても水全体が濁ることはない。汚れを取ったら勝手に消えていくという便利仕様だ。


「セノアも遠慮するな。好きなほうに入りなさい」

「は、はい。あのキラキラしたほうに入っていいですか?」

「もちろん。そのために用意したものだからね」

「はい、ありがとうございます!」

「セノア、自分も一緒に入ろう。マッサージをするのは下の人間の務めだからな」


 そのセノアを追うように、サリータがタオルを持ってついていく。


「え? そ、そんな…いいですよ。大丈夫です!」

「遠慮するな。慣れているから任せておいてくれ!」


 妙なやる気を見せてセノアと一緒に結晶風呂に向かうサリータ。さすが体育会系。謎のテンションだ。


「師匠、入らせていただきます!」

「うむ、入れ」

「はい! では…」

「と、タオルで股間を隠すんじゃない。取れ、取れ。興が醒めるだろう。堂々と入りなさい」

「あっ…は、はい!」

「セノアもだ。周りは同性だらけなんだから、もう大丈夫だろう?」

「え、えと…はい。が、がんばります!」


 と言いつつ、半分は隠しながら入る。やはり恥ずかしいのだろう。


(あの年頃だと気持ちはわかるけどな…。修学旅行の時なんて互いに気になるもんな)


 高校生になると風呂は個室かもしれないが、中学生くらいの修学旅行は大風呂で一緒に入ったものだ。

 まだまだ思春期真っ盛りである。互いにブツが気になる年頃だ。隠そうとする気持ちもわかる。むしろ堂々としているほうが猛者だろう。

 が、ここでタオルは興醒めなので、二人のタオルはボッシュートである。


「ホワイト様、失礼いたします」


 続いて入ってきたホロロは見事に何も隠していない。堂々としている。

 さすが三十路前の女性。このあたりに年季の違いが見受けられる。


「…とことこ」

「おふろだー」


 最後に、サナとラノアが一緒にやってきた。

 ラノアは羞恥心というものがまだないのか何も隠していない。サナも当然、そのままだ。


「サナ、おいで。ジャンプだ!」

「…とっとっと、どぼんっ!」


 アンシュラオンに呼ばれたサナが豪快にジャンプ。

 風呂に入る時にはよくやるのだ。理由はない。気分の問題である。


「ラーちゃんもやるー!」

「ラノアもおいで」

「っとっとっと…んしょっ、どぼんっ!」


 サナと違って一度縁に上ってからのジャンプ。こちらも見事に決まった。


「えへへ、サナさまといっしょ」

「…こくり」




 これで全員が入り―――念願の七人風呂が完成。



 備え付けの浴槽にアンシュラオンとサナ、ラノア、ホロロ、シャイナが入って、サリータとセノアは結晶風呂のほうである。


(セノアは恥ずかしがっているが、あっちの風呂のほうが恥ずかしいような気もするがな…)


 結晶風呂は若干透けているので、こちらの浴槽より恥ずかしい気もするが、やはり男性と一緒に入ることに抵抗があるのだろう。

 この区分はたまたま生まれたものだが、まだまだ【距離感】が存在する証拠だ。


(ホロロさんとシャイナ、サリータはもう完全に身内だな。まあ、いろいろあったからな。ラノアは物怖じしない子供だから問題ないが…『普通の子』はまだまだかな)


 セノアには潜在的な【恐怖】が存在している。

 理不尽な理由で親と生活を失った「世界への不信感」が拭えないのだ。それが根底にあるから人を心から信じられない。

 ある意味においてアンシュラオンと同じであるが、力がない分だけ臆病になっているのだろう。それがこの距離に表れている。


(ギアスの力で恐怖心も打ち破れればいいが…そのあたりは出たとこ勝負だな。やってみないとわからん。オレの代わりに面倒見がよいサリータが一緒に入っているし、親睦は深められるだろう。あっちはあっちで任せるか)


 遠慮がないアンシュラオンやシャイナでは、簡単にパーソナルスペースを侵してしまうので、無闇に恐怖心を刺激してしまう。

 一方のサリータの場合はラノアのほうが序列が上位なので、すごく丁寧に接するし、見た目では頼りがいのあるお姉さんなので打ち解けやすいだろう。


(全員が全員、オレにラブラブという感じにはいかないか。それはそれで逆に飽きてきそうだしな。少しずつ仲良くなるタイプも悪くない。というか、それが普通だしな。それより…)


「…ぶくぶく」

「ぐるぐるー」

「うおおお! サナとラノアのツーショットはいいなぁ。うんうん、これだ。これを求めていたんだよ…! かーえーのー(可愛いのぉ)! かーいーのー(可愛いのぉ)!」


 サナとラノアは、広い浴槽を一緒になってぐるぐる回っている。

 備え付けのほうはちょっと人数が多いので間をすり抜けながらだが、それが障害物競走のようで楽しそうだ。

 二人の楽しそうな様子が伝わってきてアンシュラオンも幸せ一杯だ。


(子供はいいなぁ。可愛いなぁ。穢されていない無垢な存在は最高だ)


 それが自分の手の中にあることに快感を覚える。

 この子たちの未来はすべて自分のもの。自分だけが支配できるのだ。


 そこで―――思い出す。


(あっ、そうだ。一つ言い忘れたことがあったな。胸の査定ですっかり忘れていたが、これは重要だ。しっかり告知しないとな)






「お前ら、これから『オナニー禁止』な」






 アンシュラオンが突飛な発言をする。「一緒に風呂に入ろう」を遥かに超越した一言だ。

 しかも「あっ、そうだ。言い忘れたことがあった〜」は心の中の言葉なので、誰にも聴こえていない。

 よって、この文言はいきなり間もなく発せられたものだ。自分のことしか考えていないこの男なのだから、そこは仕方がないだろう。

 当然、それに困惑する者がいる。


「えっ!?」


 シャイナのその言葉が発せられるまで、しばらくの時間が必要だった。

 アンシュラオンの声は響くので、全員に言葉は聴こえたはずだ。が、内容が内容なので頭に入ってこなかったのだろう。


「なんだ、文句でもあるのか?」

「も、文句というかその…なんかすごいこと言ったなーと思いまして」

「言葉足らずだったか? じゃあ言い直すが、お前たちは今後オナニー禁止だ」

「同じですよ!? もっとちゃんと説明してください!」

「言葉通りの意味だ。性的欲求を抱いたらオレが処理する。だから自分でやることを禁ずる!!!」

「ええええええ!?」


(サナはまだそういう年頃じゃないし、自分からやることはないだろう。だからストレスが溜まっているんだよな…。世話をしたい。世話をしたい。オレは世話をしたいぃいいいいい!)


 集めた女性たちを見たせいか、むさ苦しい現場にいたせいか、唐突に欲求が湧き出してきており、もう我慢の限界が近い。

 普通は自分の性欲が〜という話になるのだろうが、アンシュラオンの場合は違う。



―――「お世話欲求」



 が限界なのだ。


「も、もっと説明してくださいよ! 意味がわかりませんって!」

「オレには姉がいるが、その世話をずっとやってきたのだ。もちろん性的なこともすべてな。だから女の世話をしていないと身体が震えてくるんだ。今も禁断症状が出て…うっ! 早く世話をさせろ!! 股を開け!! オレがオナニーを手伝ってやる!!」

「病気ですよ、それ!?」


 たしかに病気である。

 しかし、身体に慣れてきた三歳くらいから姉の世話をやっているのだ。「三つ子の魂百まで」という諺もあるが、魂に刻まれた性癖は簡単には消えない。

 サナがまだ子供なので、まったくもってそういった世話ができていない。小百合、ホロロ、シャイナ、サリータ、それと領主城にいた少女数名に関しては多少世話をしたが、それっきりである。


 そんなものでは物足りない。


 もっと濃厚に世話をしたいのだ。たっぷりねっとりどっぷり、と。




230話 「性教育は大事だ! これより実践する! よく見ているように!」


 まさかの「殿、ご乱心」。

 アンシュラオンが突如発した「自慰禁止令」によって場は騒然とする。


「お前たちが勝手に性処理をしないようにオナニーを禁止にする。わかったな。そうすればオレのお世話欲求も満たされるはずだ」

「駄目駄目、駄目ですって!」


 そこで抵抗を始めたのは、やはりシャイナ。この犬はいつもうるさいのだ。


「何が駄目だ?」

「だ、だって…仮に先生が手伝ったら…その…そういう言葉にならないんじゃないですか?」

「オナニーか?」

「オブラートに包んでいるのに潰された!」

「看護士志望なんだから生理的欲求くらい受け入れろ。自慰は人間にとって自然なものだぞ」

「そ、そうですけど…やっぱりこれは何か違う気がします…」


 シャイナの言うことも一理ある。手伝ったら自慰ではない。違うプレイだ。

 がしかし、アンシュラオンにとってお世話とは「無になること」なので、黒子として援助することを意味する。

 あくまで主役は女性。自分は影に徹して快感を与える役目を果たす。それが長年、姉に教え込まれた愛情の示し方である。

 当人はまったく気付いていないが、これもまたパミエルキの呪縛の一つである。いまだ支配下から脱していないのだ。

 ただ、シャイナの様子もかなり怪しい。


「そんなに嫌がる理由がわからないな。…ははん、なるほどな」

「な、なんですか…そのイヤらしい目は…」

「その様子、お前…やってるな?」

「な、何がですか!?」

「この発言をした時、お前が最初に反応を示した。ということは、そういうことだ。このメス犬が! 盛りやがって! ここは毎日発情期か!? ああん!」

「きゃーー! 股に手を突っ込まないでください!!」

「じゃあ、顔を突っ込んでやる!」

「うぎゃーーー! もっと駄目ですよ!!!」


 殿、ご乱心!!



「サリータ、こちらに来なさい」

「はい、師匠!」


 シャイナでは話にならないので、サリータを呼び寄せる。


「お前はどうなんだ?」

「はっ、師匠の言葉は絶対だと考えております!」

「よし! では、オナニーの経験を教えろ」

「えっ!?」

「聴こえなかったのか? どのくらいの頻度でやっている?」

「それは…その……」


 さすがに恥ずかしい質問であるのでサリータも顔を赤らめる。

 完全なセクハラだが、ここはちゃんと訊いておく必要がある。けっして個人的興味ではない。けっしてない。断じて否!である。


「これは命令だぞ。ちゃんと答えろ。お前の主人兼師匠として知らねばならないことなのだ」

「め、命令…!」

「そうだ。嘘は許さんぞ」

「そ、その…それはその…たまに……」

「何日に一回だ? それとも毎日か?」

「そ、そこまで!?」

「そうだ。もっと詳しく! いつやるんだ!」

「…その…疲れた時とかに…やるくらいで…」

「もっと大きな声で! はっきりと!」

「はい! 鍛練で疲れた日などにしておりました!」

「毎日か!」

「三日に一回くらいです!!」


 湯船に浸かりながら、ビシッと答える。内容が内容なので、まったくもって締まらないが。


(ふむ、女性としては標準的かな。性欲が強ければ男みたいに毎日する人もいるが…そんなもんだろう。というか、なぜかこういうプレイになってしまうな)


 サリータと話すとついついこうなってしまう。もう諦めよう。出会い方が悪かったのだ。

 まるでロボット物の主人公と敵側ヒロインのように、「こんな出会い方さえしなければ、もっとわかりあえたのに!」という状況だ。

 しょうがない。そのまま割り切って続けたほうが気楽だろう。

 だが、追及はこれで終わらない。殿はとことん突き詰めるタイプなのだ!


「で、何を使ってだ?」

「な、何を!? 何をとは何でしょう!?」

「道具を使うこともあるだろう? 手でやっているのか? 何か道具を使っているのか? どっちだ?」

「それは…うう…」

「先生! セクハラですよ! あまりに酷い!」

「だからどうした!!!」

「えーーー!?」

「お前らはセクハラだのパワハラだの、あれこれうるさいが、そんな資格はない!! この犬どもが! オレは神だぞ!! 黙って言うことを聞け!!」


 完全序列社会では神こそがすべて。神の言葉は絶対である。ましてや犬が逆らうなど、あってはならない。

 世間では、やれセクハラだの、やれパワハラだのとうるさいが、強い者が力を振るうのは当然である。それが正しい社会のあり方だ。


「サリータ、答えなさい」

「は、はい。…その…特に道具というものはないのですが……下着がこすれたりするときは……そのまま…」

「んん? よく聴こえんなぁ? ここに何がこすれたりしたときだって? ぐいっ」

「あっ!! そ、そこは…!」

「ここに何を押し当てるんだ? 言いなさい」

「し、下着の…布などが…あ、当たって…」

「当たるとどうなる?」

「き、気持ちいい…です」

「これより気持ちいいのか? さわさわ、ぬるぬる」

「ううっ…はぁっ! こ、こっちのほうが…気持ちいいです!」


(あれ? 何か違う方向に…)


 またもや違う方向に話がいってしまった。殿、困惑である。



「おなにーってなに?」

「え!?」

「ねえ、おなにーってなに?」


 アンシュラオンとサリータが泥沼にはまってしまっている間、ラノアがシャイナに素朴な疑問を投げかけていた。

 当然、幼いラノアは自慰の意味を知らない。実年齢以上に精神は幼いので性的なことにも無知に違いない。


 これは―――困る。


 子供の質問で一番困るのが性に関する話題だ。大切なことなのでしっかりと教えねばならないが、教えすぎるのもまずい。その按配が難しい。


「ねえ、なに?」


 子供の探求心は凄まじい。答えを言うまでけっして許してはくれない。


「そ、それは…その…」


 あどけない瞳がシャイナに向けられる。

 まだ穢れを知らないまっさらな輝きが、穢れてしまった自分を射抜くように。

 そして、過去を思い出す。


(ああ、私にもこんな目をしている時があった。あれはそう、もっと遠い遥か昔…。麻薬のことも知らず、キラキラとした大切な清い宝物を胸に抱いていた時期。あの頃は幸せだった…穢れていなかった。そうよ。そうだわ! だから子供は守らなくちゃ! 汚しちゃいけない!)


「昔の人はね、言葉を丁寧にするために頭に『御(お)』を付けたのよ。『あの人』のことを『あの御方』とか言うでしょう? だから『御何(おなに)』っていうのは、質問するって意味ね。『何』の丁寧な言い方なの」


 とんでもないことを言い出した。苦しいにも程がある。

 だが、これで突き通すつもりのようだ。必死にラノアを言いくるめようとする。


「ふーん。えと、それがだめってことは…んと…きいたらだめなの?」

「そうそう、『御何禁止』ってのは、先生の言葉には逆らっちゃいけないって意味なの。わかった?」

「わかったー」

「そう! わかってくれたのね! ラノアちゃんはいい子ねー」

「じゃああのね、もう一つきいていい?」

「なぁに?」

「あっ、ちがった。おねーたんは大人だから、ていねいに言わないといけないから…んと、じゃあオナニーしていい?」

「それは駄目ぇえええええええ!!」


 もっと泥沼。

 そりゃそうなるだろう。むしろ「先生、オナニー(質問)です!」とか言う羽目になるので怖ろしいことになる。

 「俺こないだ、先生にオナニーしたんだけどさ」という言葉が飛び交う学校になど行きたくない。



「この馬鹿犬がぁあああああ! 嘘を教えるな!!」

「きゃっーーーー!」


 ドッパーン

 お風呂で恒例の手を使った水鉄砲が炸裂。

 だが、アンシュラオンがやると凄まじい圧力の水が放出され、くらったシャイナが吹っ飛ぶ。


「げほげほっ! なにするんですかー!」


 顔面から風呂に突っ込んだため、大量の水を吐き出しながらシャイナが喚いている。


「子供に嘘を教えた罰だ。何を馬鹿なことを言っている。その設定は無理がありすぎるだろう! 最初に気付け!」

「だって、こう言うしかないじゃないですかー! ショックが強すぎますよ!」

「後で嘘だと知ったら、もっとショックじゃないか。ここいらは安全じゃないんだ。正しい知識がないと逆に危ないぞ」

「それはそうですけど…」


 日本の街だって夜は危険なのに、こんな未開の地では何があるかわからない。特に女性は常に危険に晒されているのだ。

 性犯罪に巻き込まれないように、あらかじめ知識を得るのは重要である。最初はショックかもしれないが、一般人には金的攻撃も有効であるので、後々大きな利益となるだろう。

 子供だからといって知らないでいるのは逆に危険なのだ。


「ホロロさん、この都市って学校はないの?」

「近所の年長者が教えることはありますが、基本的には親が子を教育いたします」

「専門の教育機関は? 領主は何かやってない? 他の派閥でもいいけど」

「そうですね…時々領主城から臨時教師が派遣されることはありますが、常時教えている環境ではありません。ただ、家庭教師業はありますので、有料ですが学ぶことは可能です」

「ふむ…有料か。何でも金だな。金がないうえに親が死んだら、それっきり無教育の可能性もあるわけか。これはまずいな」


 ある程度身分のある者たちは、他の地域から流れてきた識者などを抱え込むので、高い教養を身につけることができる。グラス・マンサーの系統などがこれに該当する。

 しかし、それ以外の者たちは教育を受ける場所が極めて少ない。

 なにせ寝床を確保するだけでも精一杯の人間も多い。今日を生き抜くだけで必死なのだ。そんな余裕はないだろう。

 領主の妻のキャロアニーセが元気な頃は、よく下級街の子供たちに「寺子屋」のようなものを開いていたが、病に臥せってからは頻度も下がっていき、今ではほとんどやっていない。

 これでは性教育どころか普通の知的教育すらままならない。子供にとって良い環境とはいえないだろう。


(最近は小学校でも、かなり詳しい性教育をしていると聞く。射精シーンの映像を見せるところもあるという。…ふむ、それと比べてこちらは遅れているな。性教育どころか普通の教育すら怪しい。これは危険だ。都市全体のことはともかく、もしオレの目の届かないところで女の子たちが襲われたらどうなる? 傷つけられた当人のショックは癒えないし、オレのスレイブ候補も減っていく。そういえば、白スレイブにもそんな子がいたな…)


 ロゼ姉妹を見つける途中、白スレイブの少女の中にも心に傷を負った子を見かけたものだ。

 他人事ではない。もしかしたらセノアやラノアが被害者になっていた可能性もある。そんなことは絶対に許せない。あってはいけない。

 自分のものになった以上、彼女たちにはしっかりと教育を施すべきだ。知識は力なり、である。


 そして―――決断。


「これより性教育を行う!! オナニーを実践するから、よく見ておくように!」

「あっ、し、師匠…!」


 ここで普通の教育にいかないのがアンシュラオンという男。性教育を重点的に教えることにする。

 ちょうどサリータが目の前にいるので実験台として確保。

 再びおっぱいの妖精となり、背後からがっしりと胸を触る。


「サナ、セノア、ラノア、こっちに寄りなさい」

「…こくり」

「は、はい!」

「あーい」


 三人の子供を呼び寄せる。

 姉のセノアは知っていそうだが経験としては浅いはずだ。ついでに教えておこう。


「し、師匠。これはその…は、恥ずかしいです!」

「そうか。じゃあ、続けるぞ」


 無視である。サリータが恥ずかしいことは理解したので問題はないだろう。


「いいか、オナニーとは自分で性的な欲求を満たすことだ。頭のおかしい団体連中がたまに噛み付いてくるが、性的なことはとても大切なことだ。けっして恥ずかしいことではない。これも女神が与えたシステムだからな。しっかりと学ぶように!」


 性を否定することは、それを生み出した存在を否定することである。つまりは星を生み出した神を否定することであり、自分自身を否定することにつながる。

 生命は増えることを想定して作られている。永遠に増え続けるように出来ている。それによって無限の可能性を示すためだ。


「世の中には男と女がいるが、これは『完全なる存在』をよりよく理解するためだ。完全なるものを二つに分け、別々にし、それを再統合することによって構造を知るためにある。つまりは、機械を分解してもう一度組み立てると仕組みがよくわかるようなものだ。まあ、難しい話になったが、必要だから二つに分かれているわけだな。そして、両者が結合することは神聖なことなのだ。まずはそれを理解してほしい」


 霊が成長していくと最終的に性は統合され、男でも女でもなくなっていくのだが、『統一的存在』を理解しやすくするために最初は二つに分かれている。

 結婚が儀式になっているのは、とても神聖なことだからだ。二つの要素の結合によって、人は「神」に至るわけだ。だから古来より神聖な儀式とされている。

 そして、性行為は生命の器を生み出す重要な行為。絶対神が宇宙を創ったように、女神が愛を生み出し肉体を与えるように、物質創造という偉大な仕事の一部を代行するから大事なのだ。

 これは世界のシステムが決めたこと。人間の進化のために用意された道筋。

 だから、欲求があるのは自然なことである。これを我慢してはいけない。無理に我慢すると、あとで必ず反動が起こり、激しい衝動で身を焼くことになる。

 それがきっかけで性犯罪が起きてしまうのならば普段から積極的に発散すべきだ。結果的に世界平和に役立っているので、恥ずかしがらずにやればいい。


「性的な欲求を抱くことは自然なことだ。むしろ、そうでなくてはいけない。そして、適度に発散させてこそ人は健全に生きることができる。大事なことは強くやりすぎないこと。身体を傷つけず、労わるようにやることだ。これがまた難しい。だからオレのようなプロフェッショナルが必要なのだ! まずはゆっくりと触るから見ていなさい。さわさわ」

「うひっ…!」

「こら、サリータ。動くな」

「は、はい!」

「では、改めて実践だ。さわさわ、さわーり、さわーり」

「うふっ…うふううっ!」


 ゆっくりと胸の輪郭に沿って手を動かす。手には命気が塗られているので、ローションのようにぬるぬる滑る。

 にゅるり にゅるり

 手が周囲を這うたびに、サリータの背筋にぞわぞわした快感が走る。


(なんだこれは!? 師匠の手が…吸い付くように絡み付いて…うはっ!! じ、自分でやるのとは全然違うぅううう!!)


 普通、相手の性感帯を理解するまでは、愛撫で感じさせるのは難しい。

 誰もが同じ場所が気持ちいいわけではない。場合によってはまったく違うこともあるのだ。

 しかし、アンシュラオンは武人の能力を使い、相手の肉体オーラを実際に見ている。肉体のオーラには肉体の情報が含まれているので、これを感知するだけでどこが弱いのかがすぐにわかるのだ。

 そこを的確に攻めてくるため、自分でやるのと比べて五十倍は気持ちいい。


「おふぅううう!」


 思わず動こうとするが、おっぱいの妖精はしっかりと胸をキープ。動きに合わせて手も這いずるので、まったく逃げられない。

 ただし、強引ではない。女体を無理に圧迫せず労わりながらも、それでいて快感を与え続ける。

 女性の身体は神聖なるものだ。傷つけてはいけない。それを熟知したテクニックが冴える。これも姉に教え込まれたものである。


「まずはおっぱいだ! 女性が持つ至高のアイテム! ここは大きいとか小さいは関係ないからな! おっぱいはすべて素晴らしい! それを忘れないように! もみもみ」

「ううっ…ふひっ…ふうう!!」

「にゅるり、にゅるり。ここで乳首が立つのはいいことだ。興奮している証拠だな。だが、慌てるな。じっくり周りから攻めて…」

「あくっ!! あっ!!! あふっ―――!!」


 ビクンビクンッ

 サリータが痙攣して―――達する。


「こら、サリータ! なんでイッた!! まだこれからだろう!?」

「はひっはひっ…す、すびばせ…はっ…はぅっ…!!」


 簡単な愛撫なのに、何十段という段階を吹っ飛ばして一気に達してしまった。

 命気に加えてアンシュラオンのテクニックがあるのだ。これは仕方ない。




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